第十三章 第三話 本性のライヤーと、戦士の休息
先回りして雑居ビルのアジトへたどり着いた俺は、部屋の前の物陰に身を潜めてその時を待った。
数分後、階段を激しい足音を立てて駆け上がってきた小栗が、部屋の中に飛び込んでいった。
警察の追手を撒き、これまで溜め込んできた金を回収しにやってきたのだ。
男が奥の金庫に手を伸ばした瞬間、俺は物陰から背後へと飛びかかった。
「うおっ!? 誰だあんた!」
小栗は血相を変えて暴れ狂い、俺の体を壁へと激しく叩きつけた。
俺はただ必死に、男の体にしがみつき、床の上をもつれ合いながらその身柄を必死に抑え込んだ。
「離せ!」
「……絶対に、離すかー……!」
(この男より、以前戦った野良猫のボスの方がよっぽど強かった!)と自分を鼓舞する。
息を切らせ、格好は良くないがなんとか男を床に組み伏せていた、まさにその時だった。
「お巡りさんこっち!」
ドアの外からかおりちゃんの声が響く。
あけ放たれたドアから、俺の指示通りかおりちゃんに案内された二人の警官が部屋の中へと入ってきた。
入ってきた警官たちが、暴れる小栗の手首にすぐさま手錠をかけた。男はついに諦めたように床へへたり込んだ。
これで、裕子さんの危機も、大阪の信二君の義姉さんの無念も、少しは晴らすことができたのかもしれない。
*
その後、俺は警察署へと連行され、長い事情聴取を受ける羽目になった。
「いくら探偵とはいえ、民間人がこんな危険な行為をしてはいけない」と、担当の刑事にこっぴどく説教を食らい、すっかりへこみながら、俺は週末の夜のスナック『蜘蛛の巣』のカウンターへとたどり着いた。
ウイスキーのグラスを傾けながら、体中に残る打撲の痛みに顔をしかめる。
だが、あの事情聴取の時に、刑事の口から聞かされた主犯の男の本当の名前を思い出し、俺は一人でちょっと笑ってしまった。
取り調べによって判明した男の本名は、本生来也。実年齢は38歳。
「ほんじょうらいや……本性が、ライヤーってか」
手元のグラスを見つめながら、俺はぽつりと呟いた。
生まれながらの嘘つきだったというわけだ。本当に、身も蓋もない男だった。
カウンターの奥で、ママが静かにボトルの片付けをしている。
騙し取られた大金が全て戻るわけでもなく、裕子さんの心の傷がすぐに消えるわけでもない。
警察に怒られてへこみ、ただ格好悪く床でもつれ合っただけの、しがない探偵の夜。
俺はただ静かにウイスキーを喉へ流し込み、次の事件に思いを馳せるのだった。
(第十三章・完。長編・結婚詐欺グループ一斉検挙編・完結)




