第十三章 第二話 包囲の網と、仕組まれた接触
小栗の尾行を始めてから、奴らの組織的な動きが徐々に立体的に浮かび上がってきた。
みなとみらいのラウンジで裕子さんと短時間会った後、小栗は横浜駅近くの雑居ビルの一室へと入っていった。
そこを拠点に、拉致役の男二人と頻繁に連絡を取り合っているようだ。
かおりちゃんが調べてくれた部屋番号のデータと照らし合わせることで、そのビルの一室が奴らの本当のアジトであることが特定できた。
俺は里香さんを通じて、事前に警察へ相談を入れていた。
だが、まだ確実な証拠がない段階の結婚詐欺案件だ。警察がすぐに組織を一網打尽にするための大規模な捜査員を投入してくれるはずもなかった。
結局、里香さんの強い訴えにより、大金が手渡される現場を確認するために、私服警官が2人だけ約束の場所へ派遣されることになった。
そして、小栗が裕子さんから数百万の大金を受け取るという、約束の当日がやってきた。
場所は、小栗が指定した横浜駅近くの静かな喫茶店。
店内には、一般の客を装って離れた席に座る2人の私服警官の姿があった。
警察はまだ小栗のバックにいる組織のアジトまでは把握していない。あくまで目の前の現行犯を確認する構えだ。
俺とかおりちゃん、そして里香さんの3人は、店外の雑踏のなかで、静かにその時を待っていた。
午後二時。予定通り、裕子さんが大きな鞄を抱えて喫茶店の中へと入っていった。
少し遅れて、いつもと変わらない爽やかな笑みを浮かべた小栗が店に現れ、裕子さんの前の席に座った。
窓ガラス越しに、二人の様子をじっと見つめる。
裕子さんがテーブルの上で小栗に鞄を手渡し、小栗がそれを引き取った。大金が動いた、現行犯の瞬間だった。
その様子を確認した2人の私服警官が、静かに席を立って小栗のテーブルへと近づいていった。
「小栗翔太さんですね。警察です。ちょっとお話を伺いたいのですが」
警官が手帳を提示しながら声をかけた、まさにその一瞬の隙だった。
小栗は身軽な動きで椅子を激しく蹴り飛ばすと、向かい側の警官の体へとぶつけた。
警官たちが一瞬怯んだ隙に、奴は背後の給湯室の勝手口へと猛然と走り抜け、外の路地へと逃げ出してしまった。
「待て! 止まりなさい!」
大声をあげながら慌てて路地の奥へと追っていく二人の警官。
喫茶店の周辺がにわかに騒然となるなか、驚いて固まっている裕子さんの元へ里香さんが駆け寄る。
俺は、二人の警官とは逆の方向に向かって、すぐに足を動かした。
小栗が今まで騙し取ってきた金を回収しに、あの雑居ビルのアジトへと必ず戻ってくるはずだ。
「かおりちゃん、お巡りさんに奴のアジトの場所を知らせて、こっちに引っ張ってきてくれ!」
「分かった!」
俺はかおりちゃんに短く指示を飛ばすと、一人で奴の先回りをするために足を速めた。




