第十三章 第一話 符合の暗号と、静かなる追跡
「404号室」という、かおりちゃんが漏らした管理会社の部屋番号の奇妙な一致。
それが、それまで混迷を極めていた調査の潮目を変えた。
ファミレスを出てかおりちゃんを帰らせた後、俺はアパートの六畳一間に戻り、けたたましい音を立てる古いクーラーの下で、ノートパソコンと手帳を広げていた。
組織的な結婚詐欺グループが、毎回まったく同じレンタルオフィスの部屋番号を指定して短期契約を繰り返している。奴らが身分証の偽造データや審査を通す際、特定の管理会社のオンライン契約システムにおける、脆弱なセキュリティの隙間を突いて一括登録している証拠だった。
画面を流れる文字列を追う。俺は信二君から聞いた情報をもう一度脳内で精査し、今回の横浜でのデータと突き合わせ、奴らが通信や名義登録に利用している特定のプロバイダと偽装サーバーのルートを一つずつ潰すようにして絞り込んでいった。
机の上に置いた麦茶は手をつけずぬるくなってしまったが、ひたすら地道な解析作業を続ける。夜が更ける頃には、奴らが横浜市内でネット接続に使っている中継ポイントの大まかな発信源が見えてきた。
翌朝、俺はかおりちゃんが里香さんから聞き出してくれた、裕子さんの行動予定をもとにみなとみらいの周辺へと向かった。
今回の張り込みは、ホテルのラウンジの入り口が見渡せるロビーの隅に陣取り、まずは里香さんから特徴を聞いている裕子さんの姿を探した。
自動販売機で買った缶コーヒーを片手に、視線だけはホテルの入り口と駅からの動線を交互に往復させる。エアコンの効いた涼しいロビーのなかで、意識を集中させてその時を待った。
手帳に書き留めていた二人の接触予定である、午後三時が近づいた。
ロビーの喧騒のなか、少し緊張した面持ちで歩いてくる樋口裕子さんの姿を捉えた。彼女はラウンジの奥の席へと進んでいく。
その数分後だった。裕子さんの席の向かい側に、爽やかで仕立てのいいスーツを着た、笑顔 の男が腰掛けた。里香さんの言っていた、自称ハイスペック社長の小栗翔太で間違いない。奴の顔と体格を、俺は脳裏に焼き付けた。
ラウンジでの二人の会話は一時間ほどで終わった。
裕子さんを見送った小栗が、一人でラウンジを出て駅の方へと歩き出す。
ここから先が、本当の地道な作業になる。
俺は十分な距離を保ちながら、雑踏に紛れて小栗の後ろを歩き始めた。
奴らの本当のアジトを突き止めるための、小栗の尾行が始まった。




