第十二章 第二話 符合する罠と、漆黒のプロファイル
「……探偵さん? どうしたの、急に怖い顔して」
私が不思議そうに覗き込んでも、探偵さんは真っ青な顔をしたまま、しばらくの間固まっていた。
ストローをくわえてアイスコーヒーをいっぺんに半分くらい飲み干して、ぷは、と深いため息をつく。
「……かおりちゃん。その男、裕子さんとどうやって知り合ったのか、里香さんから聞いてるかい?」
「うん、聞いてるよ。数ヶ月前の夜、裕子さんが裏路地で怪しい男たちに拉致されそうになったんだって。そこを危機一髪で助けてくれたらしくて。それで、近くにあるその人の事務所に連れていって落ち着かせて、仕事で一週間だけこっちに来ているって話して、家まで送り届けてくれたんだってさ」
私がそこまで話すと、探偵さんは「やっぱりか……」と低く呟いて、頭を抱えた。
「あの、探偵さん? 本当にどうしたのよ」
「……かおりちゃん。今から言うことを、よく聞いてほしい」
探偵さんはサングラスを外して、いつになく真面目な目をして私を見つめてきた。
「実は先日、大阪の知人から電話があってね。彼の義姉さんが、全く同じ手口の結婚詐欺に遭って破滅させられたんだ。拉致の自作自演、欧州家具の輸入会社、期間限定の滞在。何から何まで、その男の手口と完全に一致している」
「え……? 詐欺……?」
私は思わず目を丸くした。
「じゃあ、その人が裕子さんに『お世話になった人の借金の保証人になったから大金が必要だ』って相談してるのも……」
「ああ、確実に詐欺の最終段階だ。お金を渡した瞬間に、男も、その事務所も綺麗に消えてなくなる」
私は背筋がゾクッとするのを感じた。
「そ、そんなの絶対に許せないよ! 里香のお姉さん、本当にその人を信じきってて、集められるだけのお金を工面して渡そうとしてるの。来月には絶対に返せるって言われて……。どうしよう、探偵さん。裕子さんには内緒で里香が私に頼んできたことだし、私、どうすればいいか分かんない……」
「……かおりちゃん。その樋口里香さんに連絡を取ってくれ。裕子さんには内緒で、その男の会社と事務所の住所、それから奴と次に会う約束の場所を、分かる限りすべて聞き出してくれるかい?」
「え? 探偵さん、これ調べてくれるの?」
(女を泣かせる男に生きている資格は無いからな)
探偵さんは低い声で、ぽつりと呟いた。
「え? なんか言った?」
「いや、何でもない。……とにかく、まずは奴の尻尾を掴むための情報を集めよう」
探偵さんはアイスコーヒーのグラスをそっと置き直した。私は「絶対に里香のお姉さんを助けなきゃ」と、強く心に思うのだった。




