第十章 第二話 裏路地の警告と、不穏な足音
人気のない裏路地の暗がりに引きずり込まれた俺の前に、立ち塞がったのは若いチンピラ風の男が3人だった。
「おい、あんた。うちのお嬢とどういう関係だ?」
男たちは一様に顔を歪め、低く凄みのある声で俺を威嚇してきた。完全にそっちの筋の人間だ。
(ひえぇっ……お嬢って誰だよ! つうかヤバい、殺される……っ!)
あまりの恐怖に足がすくみ、俺が内心で全力の悲鳴をあげながらビビり倒していると、背後から慌てた様子のかおりが姿を現した。
彼女は俺の前に猛然と飛び出すと、チンピラ3人を鋭い眼光で睨みつけ、ピシャリと言い放った。
「あんたたち、私の彼氏に何する気!? とっとと帰ってパパに、私は彼氏と仲良く買い物してたって伝えなさい!」
まるで野良犬でも追い払うかのような彼女のただならぬ気迫に、強面だったチンピラ3人は途端に気まずそうな顔になり、「へい、お嬢……」とすごすごと退散していった。
静けさを取り戻した路地裏で、俺は冷や汗を拭いながら、改めてかおりに事の真相を問い詰めた。
彼女が諦めたようにため息をつきながら話してくれた内容は、俺の想像を超えるものだった。
なんと、彼女の父親はこの界隈のテキヤをひとつにまとめる『谷口組』の親分なのだという。
「パパが本当に過保護でさ、私が軟弱な大学生なんかと付き合うのは絶対に許さないって、友達ともあまり付き合えないように子分に見張らせてたわけ。私、大人の男の知り合いもいないし、彼氏の振りを頼めるような人も周りにいなかったから……」
だからネットで見つけた俺の事務所に、スマホ探しという偽の依頼を出して同行してもらい、見張りの子分たちに「大人の男の彼氏」を見せつけてパパを諦めさせようとしたのだという。
(……おいおいおい、話がヤバすぎるだろ! 巻き込まないでくれよ!)
あまりの迷惑極まりない真相に頭を抱えたが、彼女がそうまでして自由を欲しがる切実な境遇を知ると、むげに突き放すこともできなかった。ひとまずこれ以上のトラブルを避けるためにも、俺はかおりを連れて、彼女の家まで送り届けるために再び歩き出すことにした。
だが、モールの敷地を出て、少し外れた薄暗い高架下に差し掛かった、まさにその時だった。
「――おい、待ちやがれ」
闇の奥から、再び数人の男たちの影がぬっと姿を現した。先ほどのパパの子分たちかと思ったが、何かがおかしい。男たちの手には、鈍く光る特殊警棒が握られており、その目は完全に獲物を拉致しようとする凶暴な肉食獣のそれだった。
「……パパの見張り、にしては……様子が違くない?」
かおりの声が恐怖で震え、俺の腕にすがりついてくる。
「あれ……うちの組の人間じゃない……っ!」
彼女が悲鳴をあげた瞬間、男たちが一斉にこちらへ向かって猛然と襲い掛かってきたのだった。




