表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/77

第十章 第一話 無地のこだわりと、偽りの依頼人


今日、俺は横浜郊外の大型衣料品店でそれとなく調査をしていた。そして、その調査結果に愕然としている。


普段から使い回しているパンツが、もう限界なのだ。ゴムが伸び、縫い目がほつれている。仕方なく買いに来たのだが、見当たらない。どこを探しても、無地のボクサーパンツが見当たらないのだ。俺はいつもこれと決めている。

だが、棚の前に立って俺が目にしたのは、どれもこれも派手な柄物ばかりだった。


「別に見せるものでもないし、無駄なこだわりだ」と他人は笑うかもしれない。「柔軟に対応することが大切」だと人は言うかもしれない。

しかし、自分の信じた道を愚直に歩くのが、ハードボイルドだと俺は思っている。たとえ、自分の大切な物を傷つけることに(チャックに挟む)なったとしてもだ。


「……もう少し、ゴムの伸びたパンツに頑張ってもらおう」


小声で呟き、少しだけ暖かくなった3月の街を、伸びきったパンツのゴムを気にしながら俺は家路を急いだ。


     *


そんなある日の夜。アパートの六畳一間で、いつものようにショットグラスを傾けていると、スマートフォンの着信音が静寂を破った。

画面を見ると、見覚えのない番号だ。電話に出てみると、受話器の向こうから若い女性の声が聞こえてきた。


「あ、もしもし? 探偵の黒崎さんの事務所ですか? 私、谷口かおりって言います。渋谷の大学に通う女子大生なんですけど……」


彼女は俺の年齢を確認したあと、少しだけ声を弾ませて言った。

「数日前にスマホを失くしちゃって。一緒に探してほしいんです」


ずいぶんと平和な、日常のちょっとした困りごとだ。パンツの買い出しに失敗し、懐が寂しくなりかけていた俺に、断る理由はなかった。

翌日、待ち合わせ場所に指定された湘南の大型ショッピングモールの一角にあるカフェへと向かった。


そこで待っていた谷口かおり(20)の容姿は、じつに目を引くものだった。

暖かそうなファーの付いたキャメル色のスエードのハーフコートに、薄手のセーター。ボトムスはホットパンツに、白いロングブーツ。茶髪の髪に、かなり派手なメイクを施している。

(……まだ3月だぞ。足、絶対に寒いだろう、それ)

ぽつりと心の中でツッコミを入れたが、初対面の彼女は、俺の姿を上から下までまじまじと見つめ、小さくため息をついた。


「……まぁ、いいか。時間無いし」


(う〜ん、何だかもの凄く納得がいかない。俺の一張羅を見て、妥協したような顔をするのはやめてくれないか)


釈然としない気持ちのまま、俺たちはショッピングモールの中の捜査を開始した。

だが、モールの中を一日中歩き回ってみたものの、彼女のスマートフォンは見つからなかった。それどころか、彼女は本気でスマホを探しているようには見えなかった。

時折、怯えたように周囲の様子を気にしたり、かと思えば急に俺の腕に強く抱きついてきたりする。


(……怪しい。絶対に何か別の目的があるな)


すっきりしない違和感を抱えながらも、スマホ探しに一日付き合うという彼女との約束を終え、かおりと別れ俺がようやく家路につこうとした、その時だった。


人気のないモールの裏の路地を通りかかった瞬間、背後から足音が迫り、俺はふいに暗がりのなかへと引きずり込まれてしまったのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ