第九章 第四話 浪速の残響と、連休の終わり
それから数週間後のこと。
テレビのニュースでは、与党議員による国営プロジェクトを巡る大規模な贈収賄の疑惑が、連日大々的に取り上げられていた。
その特大のスキャンダルを最初に世間へすっぱ抜いたのは、田村の勤める大手の出版社が発行している雑誌だった。
テレビの画面のなかで、連日てんやわんやの大騒ぎをしている政治家たちの姿を、俺はただぼんやりと眺めていた。
(……まさか、あの時俺が大阪から運ばされたあのUSBメモリーの中身って、これだったのかよ……っ)
国家を揺るがすようなとんでもない裏社会の機密データを、俺はそれとは知らずにただの書類運びとして、のんきにお好み焼きを食べながら運んでいたのだ。
今になってその巨大すぎる真相を知った俺は、背中にドッと冷や汗が噴き出すのを感じていた。
*
すっかり夜も更けた、週末の横浜。
俺はスナック『蜘蛛の巣』のカウンターに座り、ウイスキーのグラスを傾けていた。
あまりのスケールの大きさに半ば呆れ、どこか現実味のない不思議な浮遊感のなかで、俺の口からはぽつりと、自嘲気味な独り言が漏れていた。
「この事件、俺も絡んでるんだぜ…探偵ってより荷物運びだけど・・」
そんな俺の独り言は、誰の耳にも届かなかった。
ウイスキーをぐっと喉へ流し込み、俺はカウンターに置いたグラスの冷たさを指先で確かめた。
今回の事件。俺がやったことと言えば、ただ飛行機に乗り、お好み焼きを平らげて小さなメモリーを運んだだけだ。本条に言われた『小説の探偵が飛び出してきたような格好』という言葉が、今の俺には酷くお似合いなものに思えて、少しだけ苦笑いが漏れる。
だけど、それでいい。
明日からはまた、いつもの段ボール工場での通常運転の日々が始まる。
テレビのなかの大騒動を完全に他人事として見下ろしながら、俺はただ静かに、何事もなく自分のアパートへと戻れたことのささやかな安堵と、ただの運び屋に過ぎなかった自分に対する奇妙な哀愁を胸に、ゆっくりと夜を明かしていくのだった。
――ちなみに、なんで大阪に行くのに新幹線じゃなく飛行機なのかって?
田村が交通費を出してくれるっていうから、どうしても飛行機に乗りたかったんだよ。
(第九章・完)
羽田までの不穏な気配や大阪支局の職員の不審な態度は、何だったのか? それは
とある新大陸でハンターをやっている美少女がよく言う、あれ「こまけぇことは、いいんだよ」そう
それである。




