第九章 第一話 十周年の同窓会と、旧友の依頼
正月休みも終わり、段ボール工場も通常運転に戻った、そんな1月のある日のこと。
俺のアパートに、高校の同窓会の知らせが舞い込んだ。
あまり興味はなかったが、今年は卒業十周年という節目の年でもある。出席することにした。
都内のホテルの会場に入ると、見覚えのあるクラスメイトたちの姿があった。
そのなかに、とても懐かしい顔を見つけた。
彼の名は、田村俊一。
高校時代、俺がハードボイルドオタクで他に話す人がおらず、クラスの中で浮いていたときに、声をかけてくれた男だった。
田村は別にオタクというわけではないのだが、読書が好きだったようで、俺が語るハードボイルド小説の「あるある」などにも、けっこう乗ってくれたものだ。
今日も、田村の方から俺を見つけて声をかけてきてくれた。
「久しぶりだな、黒崎。今、何やってるんだ?」
「まあ、探偵業をぼちぼちとな」
「ほう、探偵か」
田村は少し考えるそぶりを見せたが、そこからは当たり障りのない話をした。俺としては、せっかく大活躍した話を聞いてもらいたかったのだが、少し拍子抜けしてしまった。
皆が二次会に流れるというタイミングのときだった。
田村からちょっと相談があると言われ、二人だけでこのホテルのバーへ場所を移した。
カウンターでグラスを傾けながら聞いたところによると、田村は現在、誰もが知っているような大手出版社に勤めているらしい。
「実はさ、つい一週間ほど前に、俺の部下だった男が急に大阪に転勤になったんだ。その彼から連絡があってね……」
大阪に飛ばされた部下が言うには、事務所のキャビネットのなかの、目立たないところに書類を置いてきてしまったのだという。その書類を大阪まで送ってほしい、と。
「ただし、郵送や会社の人間ではなく、手渡しで運んでくれる信用できる人を探してほしいって頼まれたんだ。俺も事情を聞いたんだけど、教えてもらえなくてさ」
旧友の頼みだし、危険もなさそうだ。モノを届けるだけ。
懐が寒くなりかけてきた俺に、断ることはできなかった。
「わかった。田村の頼みなら引き受けるよ」
翌日。田村が指定した彼の会社のすぐ近くにある喫茶店で、俺は書類を受け取ってすぐに大阪に向かうことにした。
だが、喫茶店を出てから羽田空港に到着するまでの道中、俺は誰かにつけられているような、監視されているような嫌な感覚を覚えていた。
(気のせい、だよな。ただの書類運びだぞ)
とりあえず、俺は大阪行きの飛行機へと乗り込むのだった。




