第七章 第三話 アジトの大立ち回りと、明かされる全貌
暗闇のなか、獰猛な殺気と共に猛然と襲い掛かってきた奴の突撃に、俺は思わず悲鳴を上げそうになった。
「うおっ!? な、なんだこいつ……ッ!」
普段は気の弱い俺だが、こうなってはもうやるしかない。狭いアパートの隙間で、俺は必死に手を伸ばし、襲い来る奴と暗闇のなかでもみくちゃになりながら大立ち回りを演じた。
奴の動きは驚くほど素早く、かつ獰猛だった。俺の黒いスーツに容赦ない鋭い一撃が刻まれ、ビリリと生地が裂ける嫌な音が響く。
「このっ、大人しくしやがれ……!」
顔面への痛烈な一撃をサングラスで辛うじて防ぎつつ、俺は最後の力を振り絞って奴の身体を組み伏せ、用意していたロープで奴を縛り付け、激しい息を吐きながら、俺は奴のアジトの奥へと足を踏み入れた。
懐中電灯で周囲を照らし出すと、そこには山積みにされた、これまでの数々の戦利品が残されていた。口佐賀さんのものと思われる、ウエスト1メートルはありそうなド派手なピンクのパンツも、その証拠品のなかにしっかりと混ざっている。
「ふぅ……。証拠の品も、無事に回収完了、だな」
満身創痍になりながらも、俺は証拠品と、すっかり観念した奴を伴って、勝利の余韻に浸りながら一度アパートへと引き上げたのだった。
*
深夜ではあったが寒さと疲労に耐えかねて、
俺は口佐賀さんに連絡を入れ、団地の広場へと出てきてもらった。
口佐賀さんの前に、俺は回収した証拠品とスポーツバッグをトンと置いた。
「口佐賀さん、今回の事件の証拠品と犯人を捕まえてきました」
「本当かい、黒崎ちゃん! さすが探偵さんねえ! ……で、犯人はどこにいるの?」
口佐賀さんは大喜びで下着の山から自分のピンクのパンツを回収すると、不思議そうに周囲を見回した。
「フッ……あんまり驚かないでくださいよ。こいつが、この界隈で洗濯物を盗んでいた、犯人です」
俺は静かにバッグのチャックを開いた。
中から現れたのは、ギラギラとした鋭い眼光を放ち、不機嫌そうに耳を伏せた、筋骨隆々の大柄な白黒の野良猫だった。
「――ニャーオ」
野良猫は俺を睨みつけ、低く威嚇の声を上げた。
そう、ウエスト1メートルのパンツすら盗んでいった犯人の正体は、この地域をテリトリーにしている、ただの泥棒猫だったのだ。
一瞬の静寂ののち、口佐賀さんは白黒のボス猫をジロジロと見つめ、腕を組んでフンと鼻を鳴らした。
「なーんだ、猫だったの。……黒崎ちゃん、約束の報酬は2万円だったけどさ、その猫、ここに置いていくなら半額の1万円にするわよ。どうする?」
「……え?」
俺は文字通りその場に凍りついた。
スーツをビリビリに破られ、顔中を傷だらけにされ、大立ち回りを演じた結果が、まさかの「猫の引き取り拒否による半額宣告」。
世の中の厳しさと理不尽さをこれでもかと痛感しながら、俺はガックリと肩を落とし、すごすごと自分のアパートへ帰るしかなかったのだった。




