第七章 第二話 不穏な聞き込みと、十二月の夜戦
手付金を手にした俺は、早速、口佐賀さんの住む団地へと向かい、調査を開始した。
まずは犯人の足取りを掴むため、敷地内で住民たちへの地道な聞き込みを始める。
いつもの黒スーツに黒サングラス姿でうろうろと歩き回り、すれ違う人々に「最近、怪しい奴を見ませんでしたか」と声をかけていくが、住民たちからは犯人より先に俺の方が不審がられ、何とも言えない冷ややかな視線を浴びる羽目になった。
だが、そんなアウェイな状況のなかでも、いくつかの貴重な目撃情報を得ることができた。
住民たちの証言を総合すると、最近、団地の敷地の隅にある暗がり周辺で、怪しい影が何度も目撃されているらしい。
(間違いない。奴はそこで団地内の様子を窺っていたか、あるいは獲物を物色していたに違いない……)
気がつけば、季節は12月。
本来なら、あの沈さんの店で手に入れているはずだった漆黒のトレンチコート。あれさえあれば、この厳しい寒さなど物ともしなかったはずだ。だが、今の俺の上着は、いつもの黒いスーツ一枚きりである。
「くしゅん……っ、さ、寒すぎる……」
深夜。俺は団地の敷地の隅、冷たい北風が吹き抜ける植え込みの陰に身を潜めていた。
コートも持たない俺は、体の芯まで冷え切り、歯の根が合わないほどガタガガと震えながら、ひたすら暗闇を見つめ続けた。
――そして、時計の針が深夜の2時を回った、その時だった。
「……来たな」
暗闇の向こうから、音もなく静かに移動する怪しい影が姿を現した。俺はサングラスの奥で目を凝らす。
奴は物陰を縫うようにして、じつに上機嫌な様子で悠然と歩いていた。
(見つけたぞ、不届き者が……!)
俺は足音を完全に殺し、奴に気づかれないよう、絶妙な距離を保ちながら尾行を開始した。
暗い団地の裏手をすり抜け、奴がたどり着いたのは、アパートの隙間にひっそりと佇む、廃棄された古い倉庫のようなくぼみだった。
奴がその暗がりの奥へと吸い込まれるように入っていくのを確認し、俺は確信した。
あそこが、奴の「アジト」だ。
ここで逃がしたら、俺の解決料(コート代の頭金)は完全に藻屑と消える。
俺はゴクリと喉を鳴らし、意を決して、暗闇のアジトへと猛然と突入した。
「そこまでだ! お前が犯人だな!」
俺が鋭い声をかけると、闇の奥で一瞬、ビクリと奴の身体が強張った。
だが、奴は逃げ出すどころか、こちらを振り返るなり、暗闇のなかで恐ろしい殺気を放ちながら、俺に向かって猛然と襲い掛かってきたのだった。




