表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/65

第四章 第二話 男のプロファイルと、足跡のプロトコル

大人の色香を残して、高木麗子さんはファミレスの席を立ち、優然と去っていった。

彼女の姿が見えなくなり、左腕からあの圧倒的な谷間の感触が消え去った瞬間、俺の脳みそはようやく冷え冷えとした現実を取り戻した。


「……ふぅ」


俺はガチガチに締め上げていたネクタイを緩め、深く息を吐き出した。

麗子さんの大人の色香に脳みそを完全に溶かされるところだった。


だが、頭がポーッとなっている間に、俺は「現金300万の回収」というガチの修羅場案件を二つ返事で引き受けてしまっている。事情は碌に聞いていない(フリーズしてて頭に入らなかった)。ここからは、ハードボイルド小説の探偵になりきって、手元にある僅かな情報からターゲットのプロファイルを作成し、動機と足取りを推理していく時間だ。


よし、ノートを広げてプロファイリングを――と思ったその時、テーブルの脇で配膳ロボットがこちらを見つめている気がした。

その無言のプレッシャーに負け、俺は思わずメニューの一番上にあった『ハンバーグステーキセット』を注文してしまった。


……いや、午前中からファミレスでガッツリ肉を食う探偵なんて、ハードボイルド小説には一行も出てこない。だが、気が弱くて「ドリンクバーだけです」と言えなかったんだから仕方ないじゃないか。


ジューシーなハンバーグを平らげ、お腹がいっぱいになって落ち着いたところで、俺は改めてポケットからメモ帳と万年筆を広げた。麗子さんから預かった、ターゲットの写真を見つめながら情報を整理していく。


ターゲット:遠藤信二えんどうしんじ

年齢:22歳

出身:大阪(児童養護施設)


麗子さんの話によると、1年前、彼女が大阪の劇場で踊っているときに拾った男らしい。

以来、1年間ずっと麗子さんの付き人として、カバン持ちから身の回りの世話までをこなしながら、全国の劇場を一緒に回っていたという。

麗子さんにとっては、中学を出てすぐに失踪してしまった実の弟の面影を、年の近い彼に重ね合わせていたようだ。衣食住の面倒をすべて見てやり、実の姉弟のように可愛がっていたらしい。


「ここで、最初のクエスチョンだ」


俺はメモ帳に大きく丸をつけた。


「1年間も実の姉弟のように信頼関係のあった男が、なぜ今になって、麗子さんの全財産である300万を持って消えたんだ……?」


もし、彼が最初から金を盗む目的の詐欺師だったなら、1年も付き人を続けるわけがない。もっと早く、隙を見て大金を盗んでドロンしていたはずだ。

ということは、持ち逃げの動機は『ここ最近、遠藤くんの身に起きた突発的な変化』にある。

ギャンブルに溺れて首が回らなくなったか。あるいは、夜の街のヤバい連中に目をつけられて脅されていたか。


「そして、第二の謎。2011年の東日本大震災のときに学校(高校)にいたという麗子さんの実年齢だ」


引き算をすれば、彼女は現在33歳。だが、さっきママから聞いたプロフィールには『24歳』と書かれていた。

9歳ものサバ読み。単なるストリッパーとしての営業用の嘘か?

いや、それにしては、弟がグレて失踪したという過去を語る彼女の目は、本物の哀愁に満ちていた。あの涙は嘘じゃない。彼女が年齢を偽らなければならない理由が、この事件の裏に隠されている気がしてならない。


「最後に、消えた遠藤くんの足取りだ」


彼らが今月出演していたのは、ここ日ノ出町の劇場。

遠藤くんが消えたのは数日前。300万という大金を持った22歳の若者が、この周辺のどこかに潜んでいる。


時計を見る。昼過ぎ。

プロファイリングを終えた俺は、ゆっくりとネクタイを締め直し、いつもの黒いスーツの上着を正した。黒サングラスをかけ、会計を済ませて外へ出る。


まずは遠藤くんが消えた現場――日ノ出町駅からほど近い、劇場が踊り子用に用意しているという宿アパートの周辺から調査を始めることにした。麗子さんから貰った遠藤信二の写真を胸ポケットに忍ばせ、俺は早速、調査を開始した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ