第6話 なぜバレているのでしょう?
横を見ると本棚がありましたので、手にとってパラパラと読んでみます。
ひらりと、光る花が本の上に落ちてきました。
「ふふふ。後で押し花にしましょう」
これは祭りに行った記念です。ポケットからハンカチを取り出して、挟んでおきます。
ハンカチには五つの花がすでに挟んでありますけど。
聖女たちが守りの加護をかけた花です。
この祭りのために遠くから来られる人もいるので、無事に村に帰れますようにという意味を込めているのです。これは昔からの決まりなのですけどね。
……しかし、私ひとりで祭りの散策をするつもりでしたのに、なぜにこのように騒ぎになってしまったのか。
私はチラリと視線を上げます。
蜘蛛の子が散るように聖騎士の方々が去っていかれています。
どうして、私は聖騎士の建物にいるのでしょうか?
おかしいですわね。このような予定ではありませんでしたのに。
「おまたせしました」
そこに普段は見られない聖騎士の隊服姿のラフェシエンが……ぐっ、眩しいです。
聖女の護衛のときはいつも鎧姿なのですので、隊服姿はいつもとは違う感じがしてしまいます。
私はハンカチを折りたたんで外套のポケットに押し込みます。
そしてジト目で見上げました。
「聖騎士の隊服は白いので目立つのですが?」
騎士はいくつか部隊があるのですが、聖騎士は白い隊服と決められているのです。
聖女と同じで白いのです。目立つのです。
「大丈夫です。外套をはおりますので」
ラフェシエンは手にもっていた灰色の外套をまといました。これでフードをかぶれば目立たないと思いますが、私も同じような格好なので怪しい二人組になりませんか?
「あの? どうしてここまでしてくださるのでしょう?」
はっきり言って、ラフェシエンは私の護衛騎士ではありません。私のわがままを聞く必要などないのです。
「神聖女様のためですので」
……それは理由にはならないと思います。
あとやはり護衛はいらないと思うのですが?
「それでは、先ほどの広場でよろしいでしょうか?」
「……」
私は本を戻して立ち上がります。
やはり、はっきりと言いましょう。
「あの? やはり、私ひとりでいいと思うのです」
「途中で動けなくなっておられましたが?」
「あれは階段だったからです」
「フィエーラ様は目立つので、すぐに周りにバレると思いますが?」
「私は平々凡々です」
何ですか? その残念そうな子を見る目は。
私はラフェシエンのように目立ちません。
「手をとるのが無理でしたら、私の腕をどうぞ」
これは私の意見は却下ということですか。
「はぁ」
私はラフェシエンの腕に手を置いてため息をつきます。
しかし、行くとなれば、思いっきり楽しみますよ!
お祭りがこんなに楽しいものでしたなんて!
私は片手に串にささったお肉を持ちながら、はむはむしています。
食べ歩きなど初めてです。
あっちこっちとキョロキョロして、気になるものを隣で歩いているラフェシエンに聞くのです。
そして今日のためにお小遣いをもらったのに、私は一度も支払いをしていない。
なぜなら……
「甘くてみずみずしいブレーリはいかがですか?」
「え? はい。お代は?」
「そんな神聖女様からお代なんて天罰が下ります」
という感じで、何故かバレバレなのです。
おかしいですわ。
食べ歩きしやすいように串にささった赤い果実をパクリと食べながら首を傾げます。
「なぜバレているのでしょう?」
「だから言ったではないですか、フィエーラ様は目立つと。あと口元が……」
どこが目立つのでしょうか?
まだ日がある時間ですし、光ってはいないはずです。
それに平々凡々の容姿です。
どこが目立つのでしょうか?
って、私の口を拭わないでください! 確かに串で食べるだなんて初めてなのは認めます。でも、子供みたいに口元を拭われるなんて恥ずかしすぎます!
そんな祭りの雰囲気を楽しんでいる私は、ピタリと足を止めました。
「フィエーラ様?」
話しかけてくるラフェシエンを無視して、周りを見渡します。
近くではなさそうです。
しかし、今日のことを考えると、やはりまだなにかありましたか。
私はある方向を指し示します。遠くの方に見えるる黒いモヤ。そして世界が軋む音。
「歪ができて、閉じました」
「すぐに、教会に戻りましょう」
「いいえ、そこに向かいます。今日はお祭りです。楽しいまま終わらなければなりません」
ラフェシエンは聖騎士の応援を呼ぼうということなのでしょう。しかし、そうしている間に、なにかあっても遅いのです。
「失礼します。道を示してください」
「ふぉ!」
またしてもラフェシエンに抱えられているではないですか!
「川のほうです」
「わかりました」
また凄い勢いで風景が背後に流れていっています。それも今度は人混みをさけているためか、屋根の上です。
すごく目立っています。
下から指を差されているではないですか!
確かに川のほうは奥まった路地があまりないので、仕方がないのですけどね。
しかしあまりにもの恥ずかしさに、深くフードを被ったのでした。




