第4話 恥ずかしいです
黒い獣を倒して下から駆け上がってくる音が聞こえますが、少し距離がありますね。
「穢れをまといしものよ。消えなさい『イルヴェール』」
私がそう口にすると、黒い獣は砂塵のように崩れ去っていきます。
私が神聖女と呼ばれている理由。それが言葉だけで魔のモノを消し去ることができる存在だからです。
それはまるで、神の言葉のようにです。
「フィエーラ様! 申し訳ございません! お怪我はございませんでしようか?」
「謝罪は不要です。これは任務ではありません。ただの散歩です」
普通は、こういう任務は単独では行いません。それに私は、プライベートでふらふらしているだけです。
元々一人でどうにかしようとしていたので、何も問題はありません。
私はそのまま下に降りていきます。
念のため残骸の確認です。
動力部分がある場所に降り立ち、辺りを見渡します。まだ瘴気が残っていますが、魔物は全部ラフェシエンが始末してくれたようですね。
「主よ。浄化の光をこの場に満たし給え『シャルアマーベル』」
私を中心にキラキラとした光が発せられ、黒いモヤを消し去っていきます。
これで、もう大丈夫ですわ。
そう思い上を見上げます。
……この階段を登らないといけないのですよね?
パレードの最終地点に間に合うかしら?
私は上を見てしまったために、その高さに心が萎えてしまったのでした。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
下りはよかったのに、上りとなると息切れがしてきました。壁に手をついて少し休憩です。
「あの……手を引きましょうか?」
「結構です」
互いに手袋をつけているので、手をとることは問題はないのですが、私が嫌なのです。
「しかし、先ほどパレードに間に合わないとおっしゃっておいででしたよね?」
「それでもいいのです! きゃっ!」
足がプルプルしているのに強引に進もうとして、足を踏み外してしまいました。
これは顔面強打のコースです。
手を階段のどこにつくのか、もしくは腕でささえるのか一瞬にして色々頭に巡っていきますが、どちらにしろ痛いという結論が出たところで、身体が止まりました。
ううううう腕が掴まれて……この状況に脂汗が流れ出し、歯の根が合わずガチガチと音を出し始めます。
「失礼します」
その言葉が聞こえたかと思うと、身体が浮き上がり、何故か金色の目が直ぐ側に……。
「失念しておりました。手を取られるのがお好きではありませんでしたよね」
ん?
「このまま上まで運ばせていただきます」
今の私の状況は、ラフェシエンにお姫様だっこされて運ばれていませんか?
何ですか! このクソ恥ずかしい状況は!
あと、私が手を掴まれるのが苦手だとは、誰にも言っていないはずですが?
「私は、そのようなことを一度も口にしたことはありませんよ」
一応、これでも神聖女とか言われて祀り上げられているので、欠点はさらさないようにと教会側から強く言われているのです。
「そうでしたか?」
ラフェシエンは私を抱えているというのに、スタスタと螺旋状の階段を上っていっています。
なんだか悔しいです。
しかし、足がプルプルしていたのも事実。
だって、長距離の移動なんて馬車で移動して、そこまで歩くことなんてありませんもの。
そして、この距離で何か話すのも居心地が悪く、無言のまま塔の出入り口まで戻ってきました。
これでこの状況から解放されると、ホッと安堵のため息をついていると、そのまま外に……え?
塔の外にはたくさんの人が集まっていました。
何ですか?これ?
もしかして、聖騎士ラフェシエンがいるとか誰かが言って集まってきたということですか?
やっぱり、すごく目立っていたということですよね!
「神聖女さま〜!」
「聖女様〜!」
「フィエーラ様〜!」
え? 私? フードを被っているはずなのになぜに?
頭に手を伸ばすと私の髪に触れるのみ。
はっ! 倒れたときにフードが取れてしまったのですか!
私は上げてしまった手を誤魔化すために、手を振ります。
すると歓声が湧き立ちました。
あの、パレードのほうに行ってくださいね。
って、この場に人が戻っているということは、もう、パレードはここを過ぎてしまったということですか。
私の体力がないばかりに……。
「ここから教会は遠すぎますね」
私は教会があるほうを見ながらいいます。
パレードの最終地点です。
「皆様に主神のアクティース様の祝福がありますように、お祭りを楽しんでくださいね」
私は集まってきている人にそう言って、フードを被ります。
何のために大司教に交渉して散策権を勝ち取ったのか。
来年まで、持ち越しですか。
「まだ、間に合いますよ」
ラフェシエンの声が聞こえたかと思うと、身体がガクンと後ろに……凄い勢いで風景が流れて行きます。
その勢いのまま路地に入っていきました。
これは普通の人が出せる速さではないと思うのです。
神の加護の力を使っているのですか?
って、この速さであれば、それは遠くにいる私に追いつくかもしれません。
が、私の居場所がわかったというのが腑に落ちません。
そして、人々が湧き立つ大通りに到着したのでした。




