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その聖女に近づいてはなりません  作者: 白雲八鈴


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第3話 パレードが始まってしまいました

「困っているのはこちらです。お務めであるなら、そう言ってください」

「ちょっと近いです。あとなぜ私がここにいると?」


 先ほどいた場所からこの広場は、かなり離れているのです。普通に移動しても私に追いつくはずがないのですけど。


「聖気が漏れていますよ」

「それは普通は見えないものです。あと聖気では私は探せません」


 聖気。それは神の加護が与えられた者がまとう力の残滓なのです。私が暗いところで幽霊と間違われるのが、これのせいでもあるのです。白い髪の人物が暗闇の中浮いてみえるのです。暗い中でみると怖いでしょうね。


 暗闇で薄ぼんやりと光を放つのですが、今は日中のため見えません。

 それほど僅かな光なのです。


 これは私に追いついた理由にはなりません。

 遠く離れた人を探す指標にはなりませんから。


「そうですね。何をされているのか教えてくださるのであるなら、お話ししましょう」


 にこやかに言っていますが、これは教えるまでついて回ると脅されているのでしょうか?


 あ〜、遠くの方でパレードの開始の音が鳴り響いてきました。そして人々が大通りのほうに移動しています。


「パレード。始まってしまいましたよ」


 聖騎士ラフェシエンを一目見ようと楽しみにしておられたご令嬢もいらしたでしょうに、なぜにいるのですかね?


「仕方がありません」


 私のことなど放置でよかったのです。


「はぁ〜」


 ため息がこぼれ出ます。

 人がまばらになったところで、鐘の塔に向かいます。


「ちっ! やっぱり目立っているではないですか!」


 この広場に残っている人からの視線を感じます。

 絶対に隣にいる目立つ鎧をまとっている人のせいだと思います。


「聖騎士なので仕方がないです」


 これならまだ、私の護衛騎士のほうが融通が利きました。彼女は、今日は祭りを楽しんできなさいと休みを与えたので、私にはついていないのです。


 せめて、一般の騎士の様相に……チラリと横を見ます。これは容姿でバレますか。

 見た目がいいというのは、人混みにまぎれるには不利ですね。


 私は塔の扉の取っ手に手をかけようとしたところで、ピタリと動きを止めます。

 ミスりました。


 私は人の目など気にせずに、塔の中に入るべきでした。


「聖騎士ラフェシエン。その剣は礼式用ですか?」


 私はラフェシエンの下げている剣を見て言います。あれが使えないとなると、邪魔なので何処かに行って欲しいのですが?


「いいえ」

「そう、ではここの中にいるモノを決して外に出さないでください」


 そう言って、私は思いっきり塔の扉を開け放ちました。

 黒く濁った瘴気が中から湧き出てきます。


 それを目にした人々から悲鳴が聞こえてきました。

 私は息を吸い神に願います。


「主よ。我と騎士に守りの加護を与え給え『セラマルード』」


 瘴気から守る加護ですね。

 瘴気はこの世界を蝕む毒です。少しぐらいなら影響はないですが、長時間瘴気に当てられれば、肺が腐り粘膜から出血し、そのうち動けなくなって死ぬのです。


 勿論、聖女や聖騎士は瘴気に抵抗力はありますが、完璧ではありません。それを補助する加護ですね。


「先に行きます」


 私が先に塔の中に入ろうとすれば、ラフェシエンが入ってしまいました。

 あの? どこに元凶があるのか知りませんよね。


「はぁ、地下に行ってください」


 この先には塔に上る階段と地下へと降りる階段があります。

 上には鐘しかありませんので、動力部分の地下に降りてほしいです。


「なぜ、このことをお知りになられたのですか?」


 瘴気に満たされた空間を螺旋状に下りながら、ラフェシエンが尋ねてきました。

 もしかして、知っていたなら聖騎士団を動かせたと言いたいのでしょうね。


「たまたまですよ」

「たまたまで、このような場所を見つけるのはおかしなものです」


 はぁ、信じてもらえないでしょうが、本当にたまたまなのです。

 元々私は祭りを楽しむために、外出許可をもぎ取ったのですから。


「グチグチ言うのであれば、そのまま戻ってパレードに参加してきてください」


 獣の唸り声のようなものが前方から聞こえてきますが、この程度であれば私一人で問題ありません。


「フィエーラ様を置いて逃げたなど、聖騎士の名折れではないですか」

「別に逃げろと言っていません。本日の職務を全うしてくださいと言っているのです」

「それであれば、聖騎士としての職務を全ういたします」


 真面目なのはいいのですが、もう少し融通というものが利かないのでしょうかね。


「フィエーラ様、この場でお待ちください」


 階段を降りている途中で、ラフェシエンは私に足を止めるようにいい、駆け下りて行きます。


 すると、その下から黒い獣が駆け上がってくるではりませんか。

 やはり、魔物ですか。


 魔物。一般には獣が瘴気当てられ変貌した姿とも言われておりますが、我々の認識では世界の歪より生まれでた魔のモノです。


 一般見解と、我々の認識が違うのは、勿論聖女を管轄している教会が、世界の歪みなどを一般的に知られないように隠しているだけです。


 まぁ、あれですね。都合が悪いことは隠したがるということです。


 下を見下ろすと、鐘の音が反響するように作られた中央の空洞部分の底が見えてきました。


 下に降りたラフェシエンが光をともしたおかげなのですけどね。


 そしてやはり、樽の残骸のようなものが転がっています。それにまだ、黒い獣が二匹残っているようです。


 ふと、嫌な湿った風を感じて視線を上げました。


「フィエーラ様!」


 壁に張り付くように、身をかがめている獣が逆さになって私を見下ろしていたのでした。


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