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ラスボスと空想好きのユア  作者: ReseraN
第4章 リアリティア編
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第93話「恐怖の生配信」

 着たくもないフリルの服を無理矢理着せられたユアが庭へ来ると、ミカネが明るく出迎えた。


「ユアちゃん! 久しぶり~!」


 ミカネが近づくも、仮面付きのヘッドドレスをかぶり「マリー」の姿になったリマネスが二人の間に割って入った。


「ストップ! 撮影以外は接触なさらないように。そういうお約束ですよね?」

「そうだったわね。ごめん、ごめん」


 ミカネは悪びれもなく笑顔で謝った。

 それが気に入らず、リマネスは相手を睨みつけた。


「お話しましたよね? 人見知りが激しい子だって。あまり、妹をいじめないでもらえますか?」


 彼女の口から出た言葉に、ユアは耳を疑った。


(あんたが言わないでよ……。小学一年の時から、ずっといじめて来たくせに!)


 急いでサモレンが「申し訳ございません!」と頭を下げた。


 彼が謝る後ろで、同行していたスタッフがミカネを呼び出し、撮影前の確認に入った。

 そのスタッフは帽子を深々とかぶり、マスクをして顔がほとんど見えなかったがサモレンはリマネスに「最近入ったばかりですが有能なスタッフです」と紹介していた。


                 ◇


「それでは、行きますよ!」


 撮影用のカメラの準備も終わり、スタッフが照明を照らし、サモレンが合図を出すと動画の生配信が始まった。


 早速、ミカネとリマネスがオープニングトークを始めた。

 本来なら二人の間にユアが座るはずだが、どうしてもミカネとくっつけたくないようでリマネスが真ん中に入っていた。


 動画が始まると、リマネスもとびきりの笑顔でミカネに対応した。

 その間、ユアは緊張しているのかずっと下を向いていた。


 ついにミカネから話を振られ、ユアが話す時が来た。


「ユアちゃんはこのお屋敷に住めて幸せね? 毎日、美味しい料理とか食べているんでしょう?」


 ユアは俯いたままで答えなかった。

 すかさずリマネスが「緊張しているんですよ」とフォローを入れる。

 ミカネは質問を変えた。


「無いとは思うけども、今困っていることとかある~?」


 その質問にリマネスは「そんなの、あるわけ無いじゃないですか」と笑って反応した。

 内心は(はらわた)が煮えくり返っていたが、撮影中なので笑顔を貫いた。


「あります」


 楽し気な空気を打ち破るようにユアがつぶやいた。

 目線はカメラを見ないで、引き続き下を向いていた。


「毎日、困っています」


 ミカネは驚いた表情をし、リマネスは苦笑いをして再びフォローに入った。


「じ、冗談がお好きなんですよ……。ユア、本番中よ。変なことを言うのはやめましょうね?」

「事実です。私は動画に出たくなかったのに、リマネスが無理矢理……」

「黙って。あと、私はマリーよ」


 ユアの発言をリマネスは笑顔で遮り、撮影中の名前で訂正した。


「今日も私がミカネさんのファンだと知っていながら、わざと彼女と接触させてくれないんです」

「黙りなさい」


 ユアはなおも続けた。

 リマネスは再び笑顔で止めるが、声のトーンは先ほどより落ちていた。


「何より、私のことが嫌いなはずなのに里子として引き取りました。それからは、いじめられる毎日です」

「黙りなさい!!」


 ユアはやめようとしない。

 三回目ともなるとリマネスはついに笑顔を保てなくなり、鬼のような形相で怒鳴りつけた。


「ユアちゃん。今の話、本当? これ、生配信よ~?」


 ミカネはあっけらかんとした様子で尋ねた。


「ウ、ウソです! ごめんなさいね。せっかくのコラボなのに雰囲気、台無しにして……」

「いいのよ。急な生配信なら心の準備も出来てないし、テンパることなんてあるあるだから。気を取り直して、次へ行きましょうか」


 リマネスは正気に戻り、慌てて取り繕い始めた。

 ミカネは企画を進行しようと、サモレンから渡された紙を広げて読み始めた。


「“高校では離れられると思っていたのに、リマネスが私を同じ学校に入学させました”」


 リマネスは急いでミカネから紙を取り上げた。

 中を見ると、今読まれた内容がそのまま書いてあった。


「何これ……? ユア、あなたが書いたの?!」

「“大学まで同じところに決まりました。私は他に志望校がありましたが、また無理矢理……”」


 ミカネが二枚目の紙を読み上げると、リマネスはその紙も奪い取った。

 やはり、それにも今読まれた内容が書かれてあった。


「ユア! どういうつもり?!」

「まあまあ、お姉さん。でも、それだけ焦るってことは事実なんですか?」


 ミカネは頬杖をつきながら、リマネスへ尋ねた。

 先ほどまでの明るく天真爛漫さは無くなり、真面目なトーンになっていた。


「じ、冗談ですよ! い、一旦、切りましょうか。また出直しましょう!」

「そうね。サーモン、カメラ切って~」

「かしこまりました。ですが、“サーモン”はやめてください」


 サモレンは不満を言いながらもカメラへ手を伸ばした。

 その時、画面が切り替わり、黒一色の画面が確認用のモニターに流れ始めた。


「な、何……?」


 再び焦るリマネス。

 その画面はまるで映画のスタッフロールのように、白い文字が上へスクロールしながらこう書かれてあった。


『小学一年の時、大好きなキャラクターのグッズを“子供っぽいから”と奪われる。

小学二年の時、図工で好きなものを作っていいことになっていたのに、私の分を勝手に考えた上に作り上げてしまった。私の作品なのに、リマネスの案しか入っていない。

小学三年の時、自分で解こうと思っていた簡単な問題をリマネスが勝手に解き、難しい問題のみ私に押し付けて来た。ステップアップしながら解きたかった』


「消して! 今すぐ消して!!」


 リマネスの怒号が響き渡る。

 しかし画面には、小四以降もリマネスにされた数々の出来事を記すテロップ流れ続けた。


『つい最近、購入したばかりの“イマジネーション・ストーリー(ファイブ)”を暖炉に入れるようメイドに指示した。少ない小遣いで買ったから、とても悲しかった。さらに、それで泣く私に向かって“楽しい一日にしましょうね”と笑った』


 最後のテロップが流れ終えると、リマネスは仮面付きのヘッドドレスを外し床に投げ捨て、ユアの手を引っ張った。


「ちょっと来なさい! 話があるわ!!」

「お話なら、見終わってからにして~」


 ミカネはモニターに映されている映像から目を離さずに言った。

 彼女を呑気に感じたリマネスは声を荒げた。


「こんなのジョークよ! 真に受けないで!」

「ジョークなら、そんなに焦ることないじゃない?」

「冗談でもこんなことを書かれたら誰だって不愉快でしょう! 名誉棄損よ!」

「あらあら。自分がやられる側になった途端に被害者ぶるのね~?」

「実際に被害者よ! ありもしないことをこんなに書いて! 配信を止めたから良かったものの!」

「止まってませんよ」


 サモレンが冷静に言った。

 よく見ると、確認用のモニターではまだ生配信用のランプが点いていた。

 仮面を外したリマネスの素顔が世界中に流れ続けていた。


「さ、さっき、切ったんじゃなかったの?!」

「すみません。どうやらまたスイッチが入ってしまったようです」

「ふざけるなぁ!!」


 リマネスはさらに焦り、金切り声でサモレンへ怒鳴りつけた。

 ミカネは静かに立ち上がると、撮影していたカメラのスイッチを押した。

 ここでようやく、配信が止まった。


「そんな言い方していいの? 自分の価値を下げるだけよ」


 リマネスは、自分へ真剣なまなざしを向けるミカネを睨み続けた。


「ひょっとして、あんたたちが仕組んだの? こんな手の込んだこと、テレビ関係のあなたたちにしか出来ないでしょう?!」


 それまで真面目な顔になっていたミカネが、いきなり満面の笑みを浮かべて反応した。


「ごめいと~う♪」

「“ご名答”……? どういうつもり!?」

「ユアさんを、あなたから救い出すためです」


 続けて、サモレンが答えた。

 彼は変わらず沈着でいた。


「はぁ? 何でユアとあなたたちが繋がってるのよ? この間、学校でくじ引きに当たったから?」

「あれはきっかけに過ぎないわ。あの後、また会ったのよね~」

「そこで、すべてお聞きしました。ユアさんがあなたから長年苦しめられて来たことを」


 リマネスの頭は混乱していた。

 人気者のミカネとそのマネージャーのサモレンは手を組んで、自分からユアを奪おうとしている。

 もしかすると……。


「今回のコラボは……罠だったってこと?」

「そういうこと。最近ブームのリア・チューバ―と人気歌手のコラボって珍しいから、配信前からスタンバイしている人も多いでしょう? そんな人たちが飽きない段階で、ユアちゃんには暴露してもらったの。でも、そっちに怒る権利ないわよ。今まで散々、ユアちゃんをいじめて来たんだから」

「人へ言う前に自分の心配したら? あなたは世界中で人気がある歌手よ。そんな人が一般人の事情に首を突っ込んだ上、名誉を汚してるのよ! ファンがどう思うでしょうね?!」

「そちらこそ、ご自分を心配なさっては?」


 サモレンは生配信が終わった画面をリマネスに見せた。そこには、リマネスに対する批判の声が続々と流れて来ていた。

 ユアへの仕打ちはもちろん、ミカネやサモレンに対する暴言、今でも品薄のイマスト(ファイブ)を焼失させたことについて、怒りの声が上がっていた。


 さらにリマネスは社長令嬢なので、社長や関連のある会社が早くも特定されてしまった。


「自慢になるけど、確かにミィはファンが多いわ。同時にアンチもいるのも知ってる。だから、新しいファンやアンチが増えても、もう驚かないのよね」

「しかしあなたの方は、アンチのみが増えると思いますが?」


 ミカネとサモレンに言われるも、リマネスはまだ怯まなかった。


「好きなだけ言えば? こんな批判のコメントなんて、すぐに消せるんだから!」


 その時、同行していたスタッフが帽子とマスクを取りながら、リマネスの前に立った。

 彼の正体は変装したディーン(ディンフル)だった。


「あなた?!」

「コメントだけ消してもどうにもならぬ。人々の記憶には、ばっちりと刻まれているからな」


 ミカネ、サモレン、ディーン、そしてユアがリマネスを睨みつけた。


「まさか、グルだなんて思わなかったわ。ユアも昨日から逃げる素振りが無かったから、おかしいとは思っていたのよ。こんなことを企んでたなんて……。だから、何?」

「“だから何”とは……?」


 突然冷静になるリマネスに、サモレンが疑問をぶつけた。


「四人そろってリマネスを追い詰めたところで、謝ると思った? 何でユアに謝らなきゃいけないの?! そんな奴に謝るぐらいなら、もっと辱しめられた方がマシよ!」

「謝ったら、負けを認めちゃうからぁ?」

「うるさい!!」


 ミカネの指摘にリマネスが声を荒げた。


「言っておくけど、世界中からバッシングされても何とも思わないわ! リマネスはユアと違って器用だから、何度でもやり直せるのよ! 動画がダメでも他のことで補えるしね!」


 彼女の神経の図太さに、四人は言葉を失った。

 ミカネは嘲るような目で、サモレンは憐れむような目でリマネスを見た。


「かつてユアには、“この世に死んで償う罪はない。生きて罪滅ぼしをしろ”と教えた。……だが、貴様のような無反省者は論外だ!!」


 ディーンが静かに口を開き、最後は言葉を荒げた。



 その時、ロミート邸にグロウス学園の園長と警察がやって来た。

 五人の言い合いはそこで中断になった。

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