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ラスボスと空想好きのユア  作者: レセラン
第2章 異世界編

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第39話「凍てつく炎の世界」

 ソファで眠っていたディンフルは、ふと目を覚ました。

 膝には老婆が用意してくれたブランケットが置かれていた。だが眠る前には、自身のマントを膝掛け代わりに置いたはずだった。


 見ると、他の三人は眠り、ユアだけカーペットの上に座っていた。


「眠らぬのか?」


 ディンフルが声を掛けると、ユアは一瞬だけ体を震わせ、こちらを見た。

 その手元には、彼のマントがあった。


「何をしている?!」


 ディンフルは立ち上がり、マントを奪い取った。


 縫い針が付いており、破れた部分が糸で繕われていた。

 皆が寝ている間にユアは裁縫をしていたのだ。


「ごめん、勝手なことして……」


 つい怒鳴ってしまったが、修繕するユアを見て、ディンフルは言葉を失った。


「何故、ここまでする?」


「私たちを庇って、こうなったから……」


 ユアは視線を泳がせたまま、答えた。

 ディンフルは落ち着き払って言った。


「だから“気にするな”と言っているだろう。こんなことをしなくとも、じきに直る。無理をして繕わなくとも良い」


 ユアの指には絆創膏が貼られ、血を拭いたティッシュも落ちていた。

 さらにマントの縫い目もガタガタで、お世辞にも上手とは言えなかった。

 それらを見てディンフルは、彼女は裁縫が(裁縫も?)苦手と判断したのだ。


「私のマントは魔法で守られている。今は封じられているが、戻れば自然に修復される。だから、針で穴を増やすのは逆効果だ」


「ご、ごめんなさい!」


 注意を受けたユアは急いで糸を切り、針も抜いて裁縫道具を片付け始めた。

 少しの沈黙の後、ディンフルは言った。


「……気持ちは受け取っておく」


 今までにない優しい声色に、ユアは「そんな声も出せるのか?!」と言いたげに、目を見開いた。


「その道具はどうした? 老婆のものか?」


「ティミーから借りたの」


「なるほどな。貸せ」


 ディンフルはユアが片付けかけてた裁縫道具から針と黒い糸を出すと、器用な手つきでマントに針を通して行った。


「あれ? “繕われたら困る”って言ったじゃん?」


 ディンフルは一番上、真ん中、一番下の三ヶ所に糸で点を作った。


「これなら針を通す箇所が少ないし、裂け目が広がらずに済むだろう」


「なるほど! さすが、ラスボスは何でも出来るね!」


「ラスボスは関係ない」


 完全とは言えないが、裂け目はどうにか繋がった。


 ユアは本人の許可なく勝手に縫ってしまったことを、申し訳なく思った。

 だがディンフルの優しい言い方で、彼へまた少し想いが届いたと信じるのであった。


◇


 時間は昼時。

 その頃になると、眠っていた者たちは目を覚まし、老婆は昼食まで振る舞ってくれた。

 ここで五人は、この世界について知ることになった。


「吹雪はだいぶマシになったけど、まだ元の状態ではないわね」


「元々は、どんな世界だったんですか?」


 老婆の言葉が気になり、ティミレッジが尋ねた。


「ここは炎界(えんかい)と言って、本来はあちこちに炎を灯している世界よ。灯りも、暖も、全部それに頼っているの」


 水界(すいかい)とは逆で、今度は熱い世界だった。

 しかし今は、火をまったく灯せないほど吹雪(ふぶ)いていた。雪とは無縁のはずなのに……。


「今朝から急に雪が降り出してね。こんなこと、炎界(えんかい)では初めてよ」


「何が原因なんですか?」


 ユアが聞くと、老婆は頭をひねりながら答えた。


「原因ねぇ……。思い当たるとすれば、サラマンデル様かしら」


「サラマンデルって……火の精霊ですか?」


 ティミレッジは名前を聞いて、すぐに思い当たった。


「そう! この炎界(えんかい)は、サラマンデル様の力で成り立っているの。でも最近起こった竜巻で、体調を崩されて火の勢いが弱まったの」


 男性陣四人は息をのんだ。

 水界(すいかい)の前に行っていた菓子界でも、竜巻が原因でモンスターが現れていた。


「……また竜巻か」


 ディンフルが低くつぶやいた。

 彼らも竜巻が原因でフィーヴェから飛び出したので、気にならずにはいられなかった。


 体調を崩している火の精霊も気になった。

 老婆いわく、サラマンデルは彼女より長生きだそうだ。もしかしたら竜巻について何か知っているかもしれない。

 ユアたちは希望を抱き、見舞いを兼ねてサラマンデルの元へ行くことにした。


◇


 老婆からサラマンデルが住んでいる洞窟の場所を教えてもらい、外へ出た。

 吹雪はもう止んでいたが、雪はちらほら降っていた。次の吹雪が起きる前に、問題を解決しなければならない。


 ディンフル以外の四人は寒さをしのぐため、老婆からポンチョのような上着を借りた。

 ここは本来、炎の世界。ポンチョは服に火が付かないための耐熱仕様で、耐寒用には作られていない。寒さはわずかしか防げなかった。

 それでも、ないよりはマシであった。


 サラマンデルの前に、失くしたクレイスとリーヴルを探そうとしたが、ティミレッジとディンフルから「魔力は感じない」と報告を受けた。

 雪に埋もれたと思っていたが、風も強かったのでどちらとも飛ばされた可能性がある。


 洞窟へ行きながら探すことにした。二人なら魔力を感じられるため、近くにあったらすぐにわかるからだ。

 もし、道中で見つからなくても、炎界(えんかい)に再び炎が戻れば積もった雪はすべて溶け、探しやすくなるだろう。


「四度目は無いと思いたい」


 ディンフルはユアを睨みながら言った。

 重要な二つを失くしたことを根に持っているようだ。


「もっと気を付けるから……」


 ディンフルが髪をかき上げた瞬間、ユアは彼の手袋が直っていることに気が付いた。


「あれ? 手袋、裁縫で直したの?」


「まさか。手作業で新品同様になるか」


 ディンフルの手袋は人食い花との戦いで破れたが、今はまっさらになっていた。

 横からティミレッジが言葉を弾ませた。


「聞いて! 実はさっき、少しだけだけど魔法が使えたんだ!」


 ユア、フィトラグス、オプダットは「えっ?!」と一斉に声を上げた。


「手も手袋も、白魔法で治してもらった。やはり、魔法はありがたい」


 ディンフルが魔法に感謝をすると、オプダットは自分のことのように喜んだ。


「良かったじゃねぇか! しばらくしたら、完全に戻ったりしてな?」


「だといいな」


 オプダットとフィトラグスが喜ぶ中、何故かユアだけ浮かない顔をした。

 気になったティミレッジが声を掛ける。


「ユアちゃん、どうしたの?」


「え……? ち、ちょっと、気になることがあって……」


「どうしたの?」


「ま、魔法が戻ったなら、ディンフルのマントも戻せるんじゃないかなって……」


 ユアは、ディンフルをチラリと見た。


「試したが無理だった。今の魔力では直せぬらしい」


「残念だね……」


 気になることを聞けたユアだが、それでも、胸の奥に残った違和感は消えなかった。

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