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ラスボスと空想好きのユア  作者: レセラン
第2章 異世界編

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第40話「サラマンデル」

 炎界(えんかい)。本来は炎に満ちた世界――だが今は、雪に覆われている。

 しばらく歩くと、サラマンデルがいるであろう洞窟に着いた。


 中に入ると、雪に降られなくて済んだが、気温は変わらなかった。

 真っ暗だったので、ティミレッジがランタンを出した。洞窟内が照らされ、ゴツゴツとした岩肌がよく見えた。


「こういうところって、絶対にモンスター出るよね? ゴブリン系かな?」


 ユアは、洞窟に出て来そうなモンスターを予想した。

 わくわくしているようにも、怯えているようにも見えた。


「何であろうと、倒せばよかろう」


 ディンフルが余裕で言った途端、オプダットが大きなくしゃみをした。


「大丈夫?!」


「あ、ああ……」


 心配するユアへ本人は笑ってはいるが、唇はわずかに震えていた。

 オプダットのみ袖なしの服だったので、老婆から借りた防炎のポンチョを着ても凍えていた。

 いくら、体を鍛えている武闘家でも限度があった。


 フィトラグスとティミレッジも、彼を気遣った。


「お前だけ残った方が良かったんじゃないか?」


「そうだよね。一番薄着だし」


「だ、大丈夫だ! 武闘家だし、気合いで何とかする!」


 オプダットが力強く答えると、ディンフルはマントを外して彼に手渡した。


「羽織れ」


 たった一言。それだけで、場の空気が凍りついた。

 彼らの反応に、ディンフルが違和感を覚えた。


「何だ……?」


「ディンフルが……他人を気遣ってる……?」


 フィトラグスの顔から血の気が引いていた。


「優しさではない! この寒い中、袖なしの奴を見ると、こちらまで寒気がして来るのだ!」


「ありがとな、ディンフル! でも羽織とかがあると、動きにくくなるんだ。だから、気持ちだけ受け取っておくぜ!」


「それまで羽織れ! お前は子供の時に、病気をしていただろう? 冷えは万病のもとだ!」


「病気なら、もう乗(・)り(・)過(・)ご(・)し(・)た(・)って!」


「それを言うなら、“乗り越えた”ね!」


 言い間違うオプダットを、ティミレッジが訂正した。

 ユアはディンフルの優しさにときめき、フィトラグスはより顔色が悪くなっていた。


「信じられない。こっちが寒気してきたぞ……」


「何で?!」


 フィトラグスが体調不良を訴えた後で、ユアがツッコんだ。



「やっかましーーーーーい!!」


 奥から、年老いた男性の声が響いた。

 五人の騒ぎ声に腹を立てているようだ。


 おそらくサラマンデルだろうと思い、歩みを進めると、洞窟の突き当たりに赤いトカゲを見つけた。

 大きさは、二メートルはあった。


「もしかして、人を襲う大型トカゲ?!」


 ユアは一目見るなり、怖気づいた。

 彼女が住んでいる世界では、怖い動物として知られていた。


「失礼な! わしはトカゲではないし、人も襲わんぞ!」


 大型トカゲは、人間の言葉で言い返した。

 口調は老人のようで、響いて来た声は、やはり彼のものだった。


「まったく! 人……じゃなくて……精霊を見た目で判断するでない!」


「精霊? あなたがサラマンデル様ですね?!」


 ティミレッジが尋ねると、相手は威張って答えた。


「いかにも、わしが火の精霊・サラマンデルじゃ。見たところ、異世界の者じゃな?」


「この炎界(えんかい)を救うついでに、あんたの見舞いに来た」


 フィトラグスが説明すると、サラマンデルは眉間にしわを寄せた。

 自分の見舞いを「ついで」と言われて不満のようだ。


「で? じいさんは、どこが悪いんだ?」


「”じいさん”と呼ぶな! わしは年寄り扱いされるのが、嫌いなんじゃ!」


 オプダットの呼び方にサラマンデルは怒り出した。

「言葉遣い、じいさんじゃん」とつぶやくフィトラグスに、ティミレッジが人差し指を立てながら黙らせる。


「“竜巻が起きて以来、体調を崩している”と聞いたのだ」


 今度はディンフルがサラマンデルに歩み寄った。


「うむ。竜巻の後、炎界(えんかい)に雪男が現れてのう。そいつが吹雪を起こしたせいで、思うように動けなくなった」


「雪男?」


「竜巻によって現れたのじゃ。そしてわしは、火の精霊ゆえに冷気に弱い。火が衰えるほどの温度になると、体を壊すのじゃ」


「その雪男をどうにかすれば、そちらの体調も治り、炎界(えんかい)も元に戻るのだな?」


「そのとおり! 頼む。人間たちとディファートよ!」


 まだ自己紹介をしていないのに、彼はもうディンフルがディファートだと見破っていた。


「さすがは精霊。私の種族を見抜いていたか」


「伊達に長年生きておらんわい!」


 鼻高々で言うサラマンデルを、フィトラグスが「やっぱり、じいさんじゃん」と、からかった。


「じいさん言うな! ディファートには、ある特徴があるんじゃ!」


「特徴?」


「目じゃ! 普通の人間は、目の中が丸いじゃろ? ディファートは細長なんじゃ! 猫のようにな!」


「目の中? 瞳孔(どうこう)のことですか?」


 ティミレッジが言い換えると、ユアたちはディンフルの目を見つめ始めた。


「一斉に見るな……」


 彼は嫌そうにするが、しばらく顔を背けないでいてくれた。

 ディンフルの瞳孔は、サラマンデルの言うように、猫のような細長い形をしていた。


「本当だ。気付かなかった!」


 形を確認すると、四人はディンフルから離れた。


「長生きならば、今回起きた竜巻について何か知っているか? 住んでいた世界でも起き、我々は別世界へ飛ばされた。他の世界でも、竜巻が原因で困っているところもあった」


 ディンフルが再度質問をすると、フィトラグス、ティミレッジ、オプダット、そしてユアも、興味津々でサラマンデルを見た。

 竜巻については五人全員が知りたいことだった。


「一つ確認じゃが、お前さんたちは最近現れた世界の出身じゃな?」


「“最近現れた”? 前から居たんだが?」


「お前さんたちの中では存在はしていたが、“アンリアル”に現れたのは最近と言う意味じゃ」


 突然、聞き慣れない言葉が出て来た。


「アンリアルって、何だ?」


「お前さんたちが住む世界じゃ」


「俺らが住む世界は、フィーヴェだが?」


 オプダットが疑問に思っていると、次にサラマンデルはユアへ話を振り始めた。


「少女ならわかるはずじゃ。彼らの戦いが、そちらの世界で触れられるようになったのは、最近だったな?」


「は、はいっ!」


 ユアは、もっとも興味がある内容だったので、自信たっぷりに返事をした。


「話が早い。アンリアルはな、この少女の世界で創られた“物語の世界”の集まりじゃ」


 その説明にピンと来たユアが、付け加えた。


「イマストはみんなの作品で五作目なの。一から四がすでにあるんだけど、アンリアルの中には五作目のフィーヴェだけじゃなくて、一から四の世界もどこかにあるってことだよ。もちろん、イマスト以外の創作作品の世界も存在してるの。たぶん……こういうことだと思うんだけど……」


 ユアは説明をし終えると、心配そうにサラマンデルへ目をやった。


「そう! 少女の住む“リアリティア”で創られた創作世界が反映されているのが、アンリアルってことじゃ!」


 また新しい言葉が出て来た。

 そして、今のサラマンデルの言葉をティミレッジは聞き逃さなかった。


「“少女の住む”って、リアリティアって、ユアちゃんが住んでる世界なんですか?」


「そのとおり!」


「普通に言ってますけど、何でわかったんですか……?」


 言い当てられたユアの表情はこわばっていた。


「わしは炎の力で、炎界(えんかい)だけでなく、外の世界まで熟知しておる。最近現れた世界から、わしが生まれるはるか前から存在していた世界のすべてをな」


「なら、ミラーレや菓子界、水界(すいかい)とかもアンリアル……、つまり、リアリティアで創られた世界と言うことか?」


 ディンフルが聞くと、サラマンデルは首を横に振った。


「それらはまた違う世界じゃが、今は説明せん。優先的に教えねばならんことがあるからのう」


 ユアが住む世界「リアリティア」

 そのリアリティアで創作された作品世界の集合体が「アンリアル」


 重要事項だと思ったティミレッジは小さいノートを出して、必死にメモを取った。


「リアリティア……聞いたことねぇな」


 オプダットが頭をかきながら言った。


「無理もない。アンリアルは精霊の間でしか知られておらんし、リアリティアも異世界中では“幻の世界”と言われておるからのう」


「幻?」


「どんなに位の高い魔導士の魔法でも、行けないって噂らしいよ」


 疑問の声を出すフィトラグスへティミレッジが答えた。


「ティミー、知ってるのか?」


「魔導士の間で知られているんだ、リアリティア……」


「……妙じゃな」


 サラマンデルが、ユアをじっと見つめた。


「リアリティアの者が、こうも自然にアンリアルへ来ておるとはな……」


 フィトラグスも疑問に思った。


「じゃあ、何でユアはこっちへ来れてるんだ?」


「確かに……」


 ディンフルが言うと、皆もユアへ注目した。


 だが――彼女はうつむいていた。

 何かを隠すために躊躇しているように見えた。

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