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ラスボスと空想好きのユア  作者: ReseraN
第2章 異世界編
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第37話「武闘家の過去」

 ピラミッド脱出の時に濡れた体は、太陽熱ですぐに乾いた。

 町に戻るとカエルは真っ先にアンディーンに水晶を返した。


「皆さん、本当にありがとうございます! 水界(すいかい)はまだ砂だらけですが、水晶の力で少しずつ本来の姿に戻るでしょう」


 アンディーンはユアたちにお礼を言った。そしてカエルも改めて感謝と謝罪をした。

 罰を受けることになっていたが、脱出の際にイカダを出してくれたのでそれで帳消しとなった。


 彼はアンディーンへ向き合った。


「アンディーン……ごめんな」

「こちらこそ。私も大人げない対応をして困らせてしまったわ」


 こうして、二人は無事に和解できた。

 見ていたユアたちも安堵の表情を浮かべた。


「それにしても、カエルと精霊が仲違いとは……」

「原因って何だったんだ?」


 フィトラグスとオプダットが不思議がると、カエルが教えてくれた。


「水界ではもうじき水王(すいおう)選挙ってのがあるんだが、アンディーンが推薦されたんだ。でも、本人は断ったんだ! 住民や王からの信頼も厚いのに、もったいないから腹が立ったんだよ!」

「だ、だって、水王は人間がなる方がいいわよ。私は精霊だし立候補する人間も多いから、その人たちがなれればと思って……」

「気を遣うなよ! そのなりたがってる奴らだって、アンディーンが選ばれても納得するよ!」

「もし水王になったら、あなたとも遊べなくなるのよ!」


 アンディーンの反論に相手は言葉を失った。

 彼女が次期水王を拒否したのはカエルのためでもあったのだ。


「どっちも相手のことを想ってたんだな? 仲いいじゃん!」


 オプダットが讃えると二人は顔を赤らめた。

 アンディーンは気を紛らわすために話を変えた。


「わ、忘れないうちに渡しておきます」


 彼女は水色のインクで描かれた水滴のイラストのシールを手渡し、オプダットが代表で受け取った。


「これって……何だったっけ?」

「“虹の印”と書いて、“虹印(こういん)”だよ」


 名前を覚えていないオプダットへユアが教えた。

 異世界で手に入る印で、専用の虹印帳(こういんちょう)に貼って集めていくと願いが叶うのだ。


「ご存じだったのですね」

「昨日、別の世界でもいただきましたので」


 ティミレッジが答えると、カエルがアンディーンをからかった。


「ほ~ら、水王様から直々に任されてんじゃん。虹印(こういん)を渡す役目は王族関係だけなんだぞ~」



 そこへ、アイテム袋を貸してくれた町民がやって来た。


「本当にありがとう。君たちのお陰で水界は救われたよ」


 彼もアンディーンに水晶が戻ったことと、カエルとの和解を嬉しく思っていた。


「いいってことよ! それより、おじさん。一つ聞きたいことがあるんだが……」


 オプダットはアイテム袋から傷薬を出した。


「この薬、どこで手に入れたんだ?」

「それかい? 魔法を使える町民が異世界へ行った際に、そこの名医さんにもらったんだよ」

「その名医ってもしかして、“アティントス”って名前じゃなかったか?」

「そうそう! そんな名前だったな。ほら、薬にも書いているはずだ」


 改めて平たい円形の容器を見ると、側面に作成者の名前で「アティントス」と書かれてあった。

 フィトラグスとティミレッジがその名を疑問形で復唱したので、ユアは目を丸くした。


「どうしたの?」

「ア、アティントスって……フィーヴェでめちゃくちゃ名の高いお医者さんだよ!」

「腕もいいし、俺が不調の時は従者が呼んでくれてたんだぞ!」


 ティミレッジもフィトラグスもその名医を知っていた。

 フィトラグスに関しては、フィーヴェ最大国家の王子なので掛かりつけになっていた。

 同じくフィーヴェ出身のディンフルも医師を知っていた。


「フィーヴェでは知らぬ者はいない。だがディファートには縁遠い存在だ。会わせてすらもらえぬ。まさか、バカのお前が存じているとはな」

「先生って背が高かったか? 俺より低かった気がするが?」


 恐らく先ほどティミレッジが言った「名の高い」を「背の高い」と間違えたのだろう。

 ディンフルは改めてオプダットをバカだと思い、ため息をついた。


「でもお前、よく薬を見ただけでわかったな?」

「俺、昔っから先生には世話になってたし、この薬もおふくろの味ってぐらい嗅いで来たからな!」

「“おふくろの味”って意味は合ってるの? その薬、口に入れられないし……」


 ユアがつっこんだところでティミレッジが尋ねた。


「オープンは武闘家だし、ケガすることも多いからね。先生ってたしか内科と外科の両方を担当してるよね?」

「ああ! それに、俺の命の恩人だからな」


 「命の恩人?」と他の四人が揃えて聞くと、オプダットはいつもより真面目な表情をしながら告白した。



「俺……子供の時に病気に掛かって、“二十歳まで生きられない”って宣告されてたんだ」


 いつも明るく元気なオプダットの口から衝撃の事実が伝えられ、ユアたちは言葉を失った。

 これは長く共に旅をして来たフィトラグスとティミレッジも初耳だった。

 ディンフルも信じられなかった。


「どう見ても病弱には見えぬが……」

「昔はやばかったんだよ! 子供の時に謎の病気に掛かって、数年ほど入院してたんだ。最初の先生から、“このまま原因が見つからなければ二十歳まで生きれない”って診断されたんだ。その後も色んな先生に診てもらったけど、誰もわからなかった」


 衝撃の過去に、ユアたちは彼と同じく真剣な顔で話を聞いた。


「もしかして今、オープンが元気なのは?」

「ああ! どんな医者も諦めて塩を投げてたんだが……」


 やはり起こった言い間違いに四人はすかさず「匙!!」と訂正した。

 オプダットもすぐに言い直し、話を続けた。


「最後のアティントス先生だけは診続けてくれたんだ。そしたら治療法が見つかってな、そこからは順調だったんだ! 今ではこの通りだ!」

「それで原因は何だったんだ?」

「……忘れた」


 フィトラグスが聞くが肝心なところがわからなかった。



「なら、教養が身についていないのは……?」

「そういえば!?」


 ディンフルが疑問に思うと、ティミレッジが声を上げた。

 数年入院していたと言うことは、勉強も院内学級があっても普通ほどに出来ていない可能性がある。それではオプダットに言い間違いが多いのは無理もないと思った。


 だが本人はけろっとしながら答えた。


「勉強はちゃんとしてたぜ! 父ちゃんが教科書や参考書やら色々買って来てくれたし、俺も読むの好きだったし」

「だんだん独学だけでは難しくなる単元も出て来るからな」

「難しかったが退院するまでやってたよ! ただ母ちゃんが言うには、父ちゃんに教えてもらったのが原因だったそうだ」

「どういう意味だ?」

「父ちゃん、俺より頭悪いんだよ!」


 彼の父親とは会ったことが無かったが、オプダットより頭が悪いとは相当のものだろうと四人は思った。


「自分より頭悪い奴に教えてもらってたのか……? お前の話、間違いが多いから話が入って来ないんだよ!」

「入るってどこに?」

「……もういい」


 フィトラグスが苦情を言っても相手には伝わらなかった。


 そしてオプダットが病気を克服したことをティミレッジは喜んだ。


「それはさておき、退院できて良かったね。それで二度と病気にならないように体を鍛えて武闘家になったんだね?」

「俺が住む町では武闘家を生み出すことに目を光らせているからな!」

「“目を光らせる”の使い方は合っているのか……?」


 オプダットの言い間違いにディンフルが唸る。

 そして「勉強してこのレベルなら、しなかったらどうなっていた……?」という怖い考えが頭を過ぎった。


「武闘家を生み出す町なら、他の子より遅れを取ったんじゃない?」

「まぁな。でも諦めなかったぜ。退院する時に先生から“明るく、諦めず続ければ叶う”って教えてもらったからな!」


 ユアの疑問にオプダットは明るく答えた。


「同時に友達の大切さも教えてもらったよ。俺、学校入る前から入院したから学校の友達はいなかったんだ」


 普段のオプダットの明るさと仲間への思いやりは過去の出来事から来ていた。

 本当なら辛くて話すこともはばかれるはずなのに、イヤな顔一つせず打ち明けてくれた彼にユアたちは感謝した。


「“先生、先生”って言うから学校の先生と思ったぞ。まさかアティントス先生とはな……。世界は狭い」

「何言ってんだ、フィット? 世界の端から端まで歩くとだいぶ掛かるんだぞ? 狭いなんてあるか!」

「そういう意味じゃねぇよ!」

「そんなにすごい先生なんだ? ねえ、ディンフル。その先生は無事なの?」


 ユアが咄嗟に質問した。

 彼もまさかフィーヴェの名医も消したと思っておらず、困惑していた。


「全員無事だ。異次元へ送った()()だからな」


 ディンフルの口からようやく送られた人たちの近況が語られた。

 他の四人は胸を撫でおろした。


「でも、“だけ”って言い方やめてくれないか? かけがえのない家族を別世界へ送られるだけでも生きた心地がしねぇんだから!」


 フィトラグスが苦言を呈した。


 アイテム袋を返し、水の虹印(こういん)虹印帳(こういんちょう)に貼ると、改めてアンディーンたちに別れの挨拶をして五人は次の世界へ向かった。

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