↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/5

第一章 二話《いつも通りがズレていく》

 この時間の家には俺以外誰もいない。父は出張、母は買い出し、妹は部活で最短でも18時まで帰ってこない。今日はどんなお菓子があるのかと考えながらキッチンにたどり着くと、外から大粒の雨が降り始める音がした。

「……そういえばネットニュースで台風来てるって言ってたな」

 そんな事いつもなら気にしないのに、今日は少し違った。たまたま視界に入った窓の外には、干しっぱなしの洗濯物が並んでいたからだ。あのまま置いていたらせっかく洗濯した意味が無くなってしまうだろう、そう思いながら慧人は洗濯物を取り込む。

 起きてから何もしなかった今日だったが、洗濯物を取り込んだから何もしないよりマシな日になったと思う。取り込みが終わると外は大雨が降り始めた、まさにギリギリセーフといったところか。ただ取り込めたのは良いものの、どこに置けばいいか分からなかった。洗濯物は先程の雨で少し濡れている。

 

「あー……どこに干せばいいかわからないや」

 普段から引きこもっている慧人は洗濯物の干し方を知らなかったのだ。そうこう考えているうちに、玄関からガチャッと開く音がする。

「うわ〜…本ッッ当最悪!部活早めに上がれてラッキーだったのに、大雨に当たるなんて…も〜!!」

頭に響くほどキンキンする甲高い声。妹が帰ってきたみたいだ。その声がどんどんこちらに近づいてくる。

 リビングのドアが開く。雨で濡れた髪をタオルで拭く妹が入ると同時、俺と目が合う。その瞬間お互いの時間が止まった、まるで二人で金縛りにあったみたいに。

「……本ッッ当、最悪。帰って早々ダメダメお兄と出会うとか。」

 妹の第一声がこれだ、別に妹になにかした訳じゃないが酷く俺を嫌っている。恐らく、というか十中八九”母さんのせい”だろう。妹は俺が学校に行かなくなってから態度が悪化したのだ。

「……って、あぁーーーー!!!!!!」

 俺を見るなり、妹は大声をあげる。そのまま俺を睨みつけ、妹は意味の分からない怒りをぶち撒けた。


「なんでお兄が洗濯物持ってんの!!?せっかく洗ったのにまた汚くなっちゃったじゃん!!!お兄が触ったせいでもうその服着れないんだけど!!!!」

 

「………………は、?」


 いつも何かと突っかかってくるが、これはあんまりだろう。流石に実の兄を汚れたもの、菌扱いするのは如何なものか。あまりの衝撃に言葉が上手く出ない。そして妹は続ける。

「最近部屋から出なくてラッキーって思ってたのに、なんの嫌がらせなの?そんな何日も風呂キャンした脂ギットギトの汚い手で、私の洋服触ってるとかキモすぎなんだけど。」

 ——俺はただ、雨に濡れないように洗濯物を取り込んだだけ。

 そう言いたいがずっと人と喋らなかったせいか、言葉が出ない。出る声は掠れていて妹には何も伝わらない。

「否定しないってことは嫌がらせなんでしょ、本ッッ当最低気持ち悪い!!あ!もしかして実の妹に興奮でもして盗みに来たとか!!?キショッ!無理無理もはや死んd


「ぅ、るせぇッな…!!!!」

 

 ——そこから先は聞きたくなかった。


「す、す、好き勝手、言いやがってッ……誰がッ、ぉ、お前みたいなのに、興味湧くか、よォ!」

 散々言われ、怒りに任せてしまったら言葉が思うように出なかった。言い返されないと思っていたのか、妹は一瞬怯んだ。そして俺が言った言葉に妹は更にヒートアップしてしまった。

「はあぁ〜〜〜〜!!?!?引きこもりキモオタが私に反論とか有り得ないですけど!!ままがよく言う社会不適合者なお兄なんて生きてることでさえ恥なのに、キモすぎ!!」

 そう言うと、怒りに身を任せた妹は俺を洗濯物越しに突き飛ばした。その勢いにバランスを崩し、かなりの強さで尻もちを着く。衝撃で痛みが走り、俺の顔は少し歪む。

「……はっ、情けな!!妹に突き飛ばされて尻もち着くとかダサすぎ!てか洗濯物いつまで持ってんの??お兄のせいでその服着れないから弁償として5万出して今すぐ……って学校も仕事もなーんもしてないお兄は出せるわけないよね〜!!あはは、何もできないお兄には無理でしょ〜??」

 妹はもう、とにかく俺を否定したいように見えた。まだ中学生の妹の言うことなんか真に受けずに、黙って聞きながしてれば良かったのかもしれない。

 でも俺はもう、限界だった。

 もはや本能的に動いていた。気がつくと立場が変わっていて、床に倒れる妹を俺は見下ろしていた。きっと俺が怖かったのだろう、今まで見下していた対象が反論だけでなく手を出したのだ。妹はすぐに立つことなく、ただそこで俺を”怖い何か”を見るように震えながらジッと見ていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。