第一章 一話《いつもと変わらない日常》
──この世で一番要らないものは何か。
そう聞かれたら、俺は迷わず俺自身と答えるだろう。
ごく普通の家庭に生まれてきたはずの慧人、人生のどん底にいた。
俺を心配してくれる連絡は今日もゼロ件。
あるのは学校からの留年確定の面談呼び出しだけ。
再三警告を全て無視した結果だ。
カーテンの隙間から差し込む太陽の光がやけに眩しい。
外はこんなに明るいのに、暗い部屋で俺を照らしているのはスマホの画面だけだった。
勉強もできない。
運動もできない。
顔だって良くない。
神様は何か一つくらい才能をくれても良かっただろうに。
だがそんな俺にも唯一、人より詳しいものがあった。
——最新のゲームやアニメの知識が豊富なことである。
「あ〜……俺ってほんと価値ね〜……」
平日の午前11時過ぎ、自己嫌悪に陥る慧人の小さな声は誰にも聞こえない。その声より大きく腹の虫が鳴いた。大して何もしてないのに腹は減る。働かざる者食うべからずという言葉があるが、慧人は寝る前にゲームしながら食べていたスナック菓子でお腹の空白を少し埋める。それを昼食と呼ぶにはあまりにも寂しいが、もう慣れてしまった。最後に家族と食卓を並んだ日なんて、もう思い出せない。
こうなったのも全部アイツらのせい、学校に行けなくなったのも今こうして外に出れなくなったのも。そう言いたいが実際のところ、今もこうして引きこもってるのは自分の変わる気がないせいなのだ。
——逃げ場が、ない。
現実を逃避するかのように、今日もネットサーフィンをする。新しいゲームの発表、昨日やったゲームの攻略法、有名人の炎上、自分の推しのえっちなイラスト。それらを眺めている時は何も考えなくて済む、慧人にとってこれは安定剤みたいなものだった。
どのくらい時間が経っただろう、カーテンの隙間から入る光が薄れ、部屋にある光はスマホだけとなった。時刻を見ると17時13分。この時間まで何もせずダラダラした自分に嫌気が差す。かといって今から変わるために何か行動する訳でもない、”明日から”が定着してしまっていたのだ。そんな甘えきった考えをした慧人は、今日の夕飯兼明日の朝飯のお菓子を取りに1階へ向かう。
——いつもと同じ日々を繰り返すはずだった。




