犬と猫はよく噛み合う
キンドゥノスの森、北東。
かつて王都へ続く街道の警備拠点として使われていた旧駐屯地。
十数年前、新たな拠点が整備されてからは使われなくなっていたところに、魔獣の群れが住み着いたとの情報が入った。
確認されているだけでも、三十を超える鼠型の群れ。
成体は赤子ほどの大きさがあり、動きは素早く、強靭な前歯を持つ。
そのため、今回討伐に集められたのは第四班だけではなかった。
第四班十五名。第二班十名。第七班十二名。
総勢三十七名。
先行偵察としてシオンとキィ、そして第二班の烏獣人クラウスが情報を集めていた。
駐屯地への出入口は、南の正門と西、北の三箇所。東側は崖に面しており、本来出入口はない。
しかし先行偵察で、東側の外壁の下に魔獣が出入りできるほどの亀裂が見つかった。
亀裂の奥には二十ほどの個体がいると見られる。
「数は確かか?」
第七班の班長が三人に聞く。
「亀裂の中は暗く視認はできていません。しかし、シオンが音で聞きました」
キィが答える。
「音か…...」
考えるような第二の班長の声。
「なら、個体数は五十はいる前提で動いたほうがいいでしょう」
すかさず、ロイが言った。
――斥候の情報を疑うくらいなら、配置しない
シオンも今は、その言葉の意味をわかっている。
その会話を堂々とした態度で聞いていた。
「東の亀裂は塞ぐか」
「ああ。ただし完全に塞げるとは限らない。数名残す」
「東側は通路が狭い。少数で力が強い者が抑えるのがいい」
「第二班から三名出す」
「第七班からも三名」
「では正門は第四班が受けよう。残りの第二班と第七班で西と北を」
それからサクサクと配置が決められていく。
「まだ情報が確かでないことが多い。斥候は各入り口の状況確認と伝令に回す」
それを聞いて、シオンは地図を覗き込んだ。
南。西。北。そして東の亀裂。
数は多いがそこを抑えれば対処できないことはない。
ただ、それぞれの入り口に配置された隊同士での連携は、難しいだろう。
「ミル」
名前を呼ばれて顔を上げる。
「お前は固定しない」
「うん」
「各地点を回って状況を見ろ。崩れそうなところがあればすぐ報告」
「了解」
「一人で何とかしようとするな」
「分かってるって」
シオンがまっすぐロイを見る。
ロイも数秒、その目を見返した。
「…...なら、良い」
二人はそれぞれの配置に向けて準備を始めた。
**
作戦開始の合図と同時に、東側で大きな音が鳴った。
崩落で亀裂を塞ぐため、先行した隊員が火薬を破裂させたのだ。
直後、地面が震えた。
音に驚いた魔獣たちが一斉に出口に向かって動き出した。
「来るぞ!」
ロイの声が響く。
正門の奥。暗闇の中から、いくつもの目が光る。
「前列、構えろ!」
第四班が一斉に武器を構えた。
最初の魔獣が正門を飛び出す。
「右へ流せ!」
盾役が受ける。体勢を崩したところへロイが槍を入れる。
一番開けた出口。魔獣たちが溢れてくる。
でも、第四班は崩れない。
ロイが中央に立っている限り、誰が前へ出て、誰が下がるのかが明確だった。
ロイの鼻が動く。
「マルク、下がれ!」
「......っ、はい!」
そこには前歯で腕を切られたマルクが。
タオがすかさず間に入り、マルクは下がって体勢を整えた。
そしてまた前に出る。
ロイ自身も槍を振りながら、全体を見る。
すでに相当の数を捌いていた。
――よし、いける。
想定内だ。そう思った時。
ピィー!ピィー!ピィー!
短い笛が三回。緊急事態の合図だった。
班全体に緊張が走る。
間もなく、木々の向こうから猫が走ってきた。
「ロイ!」
シオンが呼んだ。
「東が崩れる!」
「何があった!」
「亀裂の下に別の穴があった! 崩落で繋がった!」
「何体出た!」
「分かんない!」
シオンが珍しくそう答えた。
それだけで、ロイの顔つきが変わる。
「音が重なりすぎてる。二十じゃない。もっといる!」
「……オーバ! ここを任せる!」
「了解!」
「ミル、案内しろ!」
二人が走る。
それを見送る第四班に動揺はなかった。
ロイとシオンが一緒なら、あちらは大丈夫だ。
誰からともなく、そう思っていた。
「前、来ますよ!」
オーバの声に、一同が正面へ向き直る。
自分たちはここを片付ければいいだけだ、と。
長くなりそうなので、次ページへ続きます…!




