↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/16

猫が犬の隣で眠った日

盗賊討伐の作戦決行は夜だった。

その日のうちに帰還は叶わず、廃砦から少し離れたところで野営の準備を進める。


明日、本部へ戻った鹿獣人と狼獣人が護送用の馬車を連れて戻ってくるだろう。


シオンは先行偵察をしていたこともあり、見張りの当番からは外されていた。

火を囲う仲間から少し離れた木の上に腰を下ろす。



「おい、木の上で寝るな」

「なんで」

「そんなとこで寝れないだろ。落ちる」

「俺、猫だよ」

「猫獣人だろ」

「でも落ちない」


全く降りようとしないシオンに、ロイは小さくため息をついてからその場を離れた。


最初の見張りは別の班員で、ロイはシオンが座る木の、隣の木に寄りかかって眠った。

そして三時間後、ロイの番となり体を起こす。


なんとなく、猫が落ちていないか木の上を確認すると、音に反応したのか顔を上げたシオンと目が合った。



「寝てないのか」

「寝てた」

「嘘をつくな。いいから降りてこい。下でちゃんと休め」

「….........」


またも有無を言わせないロイの圧に負け、シオンはしぶしぶ木の下へ降りた。

そして毛布にくるまり、ロイに背を向ける。


ロイはそれを確認して、そのまま見張りのために意識を周りに集中させた。


十分後。

――パキ


小さな音。シオンの耳が動く。

ロイも音に気がつき、立ち上がる。


「右」


毛布の中から聞こえた声。


「ああ」


返事をしてシオンの言うとおり右奥を警戒する。

ただ枝に鳥が止まっただけの音だった。


ロイが帰ってくる。

「鳥だった」一言告げるが、返事はない。


また二十分後。

カサカサッ


シオンの耳が立つ。

ロイがシオンの耳を見て「今度は?」と聞いた。


「......また右。もう少し奥」


またロイが立ち上がって確認しにいく。


「何もいない。多分風だ」

「…...そう」


三回目。

シオンが耳を立てる。


「なんだ」

「….........」


シオンは何も言わない。


「何か聞こえたんじゃないのか」

「多分、風」

「場所は」

「…...後ろ」


またロイが立ち上がって確認しに行った。


「何もいない」

「風かもって言った」

「それならそれでいい」


以降も、誰かが寝返りを打つ音。

風が強く吹いた音。

火が弾ける音。


聞こえるたびに猫の耳が震える。


「......ミル」

「….........」

「眠れないのか?」

「寝てる」

「起きてるだろ」

「今起こされた」


少し沈黙。

「また何か気になったら言え」それだけ伝えてロイは黙った。


シオンは横になったままロイを見る。


「全部?」

「必要なら」

「何回でも?」


ロイは若干嫌そうな顔をした。


「まあ…...必要ならな」

「ふぅん」


少し前なら、この確認作業は信用がないからだと思っただろう。

だけど、この堅物犬はただ単純に、情報を確認する作業を欠かさないだけなのだと知る。


シオンは目を閉じた。


そして十分後、また目を開けると、そこには変わらずロイがいる。

こちらの動きに気づいたのか、一度だけ視線を向けてくる。


「なんだ」

「……何もない」

「そうか」


それだけだった。

きっとまた何か聞こえれば、この犬は立ち上がるのだろう。


鳥でも。

風でも。

何もいなくても。


必要なら、何回でも。


「…………」


シオンはもう一度目を閉じた。

いつの間にか耳から力が抜けていく。


遠くで枝が鳴った。

聞こえている。

火が弾けた。

それも聞こえている。


それでも。

今度は目を開けなかった。

犬が立ち上がる音が聞こえたから。




しばらくして。



ロイはふと、シオンを見る。

先ほどまで音がするたび忙しなく動いていた耳が、今は力なく伏せられている。


「…………」


寝たらしい。


――やっとか。


ロイは小さく息を吐いて、再び森へ視線を戻した。今日一日で、シオン・ミルという男について分かったことはいくつかある。


斥候としては優秀。

耳もいい。判断も速い。戦闘能力も申し分ない。


そして。


恐ろしく自分勝手で、危なっかしい。


そこまでは分かった。

けれど、一つだけ。


よく分からないことがある。


普段は休憩のたびに日向で転がり始めるほどマイペースでダラっとしている猫が、他人が見張っている間まで、なぜ自分で起きていようとするのか。


「…………」


ロイは眠っているシオンを見る。

頬には先ほど、自分が貼ったガーゼがまだ残っていた。


寝ている顔だけ見れば、

いつもよりずっと幼く見える。


――まあいい。


今、考えても分からない。


パキ。

また、森の奥で枝が鳴った。

シオンの耳が、ほんの少し動く。


けれど、目は開かない。

ロイは立ち上がって、音のした方へ目を凝らす。


「…………俺の番だからな」


当然、

眠っている猫から返事はなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。