猫の活躍
最初の任務は、配属から十日ほど経ってからだった。
街道沿いで商人が立て続けに襲われた。
廃墟となった旧砦を盗賊が根城にしたことが予想される。
第四班十二名。
シオンの仕事は先行偵察だった。
「単独で深追いするな」
出発前、装備を身につけたシオンにロイが声をかける。
「分かってる」
「合図は覚えたな?」
「昨日三回も聞いたよ」
「なら言ってみろ」
「犬って心配性なの?」
「いいから言え」
シオンはため息をついた。
昨日もこうやって、最後に言わされた。
正しく伝えられれば、ロイは満足そうに「行ってこい」と言った。
信用できない相手に、斥候を任せてどうするつもりか。自分の役割を疎かにするつもりはないが、この後にも一悶着ありそうで、少し億劫になる。
ただ、それは作戦が始まれば違った印象になった。
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廃砦には予想通り盗賊がいる。
人数は十人。
正面の門はつぶされ突破するのは不可能。
西に二人、裏は三人、入り口を見張っている。
これは先行したシオンがもののニ時間ほどで持って帰ってきた情報だ。
こちらも近くまで進行していたとはいえ、随分と早く帰ってきた。
見取り図を指差しながら的確な情報を落としていくシオンの普段とは違う様子に、一緒に話を聞いていた副班長のオーバも、少し驚いている。
「裏を揺動。その間に西から侵入して中を制圧する」
情報を元に立てた作戦は、至って単純なものになった。
制圧部隊にはロイとシオン、その他五人。副班長オーバを含む残りの五名は裏の入り口で揺動、そして逃走防止の役割だ。
二手に分かれて廃砦へ近づく。
そのとき、隊の先頭を走るシオンの耳が震えた。
「待って」
ロイがすぐにシオンに近づく。
シオンが真剣に耳を澄ますのを見て、ロイは声をかけずに待った。
廃砦はまだ少し遠い。
風がある。木々が騒めいている。
それでも。
「…...下にいる」
「下?」
「地下だ」
「盗賊の仲間か」
「違う」
シオンが目を細める。
慎重に騒がしい森の中から、確かな音を探す。
「二人…...いや、三人か」
「何が聞こえる」
「鎖」
ロイの顔つきが変わった。
「人質か」
「たぶん」
「確証は?」
「….........」
シオンは黙った。
耳で拾った情報は口で説明しずらい。
音の高さ、反響、間隔、全部合わせると分かる。
でもそれは視覚の情報より確かではなく、他の人に説明しろと言うと難しい。
「…...ない」
耳が少し垂れる。
でも次にはしっかりロイを見ていった。
「でも、いる」
きっとこの堅物犬獣人はこういうだろう。
「確証をとれ」または「予定通りにいく」。
当然だ。班員の命がかかっている。
その時はシオンが別で動けるよう警戒をすればよい。
ただ、予想に反して「分かった」とだけロイは言った。
見取り図に線を一本足して、後ろに待機する班員を見る。
「作戦変更だ。地下に人質がいる程で動く」
すぐさま組み直される隊列に、シオンは目を瞬いた。この班長はシオンが何か言えばあれはどうだ、これはどうなってると口うるさかったのに。
「…...いいの?」
「何がだ」
「俺、多分って言った」
「でも、聞こえたんだろ」
「うん」
「なら行く」
あまりにも当然のように言った。
「いなかったら?」
「それが確認できたならいい」
「….........」
「…...はあ、何を心配してるか知らんが、斥候の情報を疑って作戦を立てるなら、そもそも斥候を置く意味がない」
それだけ言って、ロイはシオンに背を向けた。
作戦変更の内容を淡々と班員たちへ伝えていく。
シオンはその背中を黙って見ていた。
変な犬。
初めてそう思った。
**
それからすぐに、裏門揺動部隊からの合図と共に突入した。
砦の中は薄暗く、広い。
シオンは先頭を走り、音のする方へ仲間を誘導する。
その的確な情報に、盗賊は逃げる間もなく次々と捕縛されていく。
中心部に来る頃には捕縛で足を止めた隊員を除いて四人が着いてきていた。
「地下への入り口はどこだ」
「今聞いてる」
「….........」
「こっち、風が通ってる」
そうしてたどり着いた扉の前。
開ける前にシオンが立ち止まる。
口元に指をあて声を出さないように合図し、ロイ達に少し下がるよう指示する。
そして、一人、双剣を構えて勢いよく扉を開けた。
「っミル!」
爆風と共に飛んだ扉。
立ち上がる煙の中から鉄がぶつかる音が何度か聞こえた。
静かになって煙が消えてきた頃。
そこには一人立っているシオンと、倒れている男が二人。
何かで切ったのか、頬に赤い筋が通っていた。
「こいつらで最後だったっぽい。多分だけど」
「っ!」
「早く地下見に行こ」
たった今、一人で無茶をしたとは思えない態度。
言いたいことは山ほどあるが、今は人質を助けることが優先だ。
「あ、いて!」
扉の前に立つシオンをひと叩きし、今度はロイが先行して進んだ。
**
結果的に地下には三名の人質がいた。
商人二人に、護衛が一人。
護衛は重症だが、商人たちは比較的軽症。
ロイはすぐに護衛の手当てを班員に指示し、商人たちへのケアもする。
助けられた三人は何度もお礼を口にしていた。
作戦は見事成功だった。
死者なし。盗賊は全員捕縛。
人質も無事。
地上へ出て第四班全員と合流すると、本部へ先に報告へ出る班員が指示された。
「俺が行ったほうが早いよ」
「お前は休め」
「でも」
「あいつは鹿、あいつは狼」
「知ってる」
「お前より体力がある」
「….........」
「お前は休め」
ロイの圧に、シオンは黙った。
そのまま黙ってそばを離れようとしたら、ロイに首根っこを掴まれる。
「ぐぇ」
「あと、傷の手当て」
「怪我してない」
「嘘つくな。あと、最後のあれは説教だ」
「悪いことしてない!」
ワーワーと暴れるシオンを力で抑えて無理やり頬を手当てするロイ。
その口からは一人で無茶をしたこと、起こる前に報告をしなかったことをくどくど説いている。
オーバはそれをみて、猫と犬は性質上合わない。と思いながら、凸と凹が合わさったみたいにいいコンビになるかもなと呆れながら見ていた。




