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Case:4 大丈夫です。たったの12年でございますので

主要人物

・シオン・クルーシア ・・・ 一応公爵令嬢。第2王子の婚約者。

・マクシミリアン ・・・ 第2王子。シオンの婚約者。

・ライマー ・・・ 教会の中でも優秀な司祭候補。天才と言われている。

ここは魔術学園。大広間。

本日は学園が催すパーティー。将来困らない様にと本物さながらの、けれど学生だけが参加できる夜会(の様なもの)。

事はそこで起こった。


「シオン・クルーシア! 今日この場を持って貴様との婚約を破棄する!」


なんとこの国の第2王子がやらかした。


「マクシミリアン殿下に置かれましてはご機嫌麗しゅうございます」


月白色の髪に淡い茶色の眼をした少女━━シオンは人並みから少し前に出る。


「確認なのですが、婚約破棄(それ)は王家の総意、確定事項と見て宜しいのでしょうか?」


少し幼げに見える顔は、感情が削ぎ落とされた様にどこまでも無表情だ。


「当たり前だ。王家の意向としてこの場で伝えているんだ。そんなことも分からない愚鈍な上、身分の低い令嬢を影で虐げていたらしいな」


更に続けてシオンが小首を傾げる発言をする。


「何を勘違いしているのか知らないが、私は貴様を好いた事などない! 貴様から好意を向けられても吐き気がするだけだ! だと言うのにメイ嬢に対して嫉妬するとは・・・身の程を弁えろ!」


マクシミリアンに続いて、

「本当に救いのない方ですね」とは宰相の御子息、クライアン。

「身分を笠に着るとは恥を知れ!」とは騎士団長の御子息、フランツ。

「貴女の様な陰湿で冷酷な人間は教会から破門です」とは教会で天才と名高いライマー。


それぞれシオンに向けるのは侮蔑と嫌悪の視線。


「皆さん、そんな事仰らないで下さい。シオン様も悪気があった訳ではないと思います。私がマクシミリアン殿下をお慕いしてしまったから・・・」


涙を流す(振り)をするのはここ半年程殿下達と一緒にいる男爵令嬢の━━そう、メイとか言ったか。

シオンはぼんやりと思いながら、ライマーにも確認をする。


「ライマー様、先程破門と仰いましたが本気でしょうか? ちゃんと教会の上層部に許可を取られておられますか?」


あくまで事務的な質問。そこに感情は一切感じられない。

男爵令嬢の事もスルーだ。


「ふん、どんなに縋っても破門を撤回することは無い。お前はこの国に必要ないんだ」

「ライマーの言う通りだ。魔法も使えない。身分を笠に着てやりたい放題。何より健気で前向きなメイ嬢を虐げていた。貴様がこの国の何に役に立つという。外にしかならないだろう」


マクシミリアンとライマーは同時に宣告する。

「「我々、王家と教会はシオン・クルーシアを破門の上、国外追放とする」」


「これは()()()()()()()()()()()()()


その宣言した瞬間、何かが割れる音がした。何かが崩れる様な、否、有ったものが無くなって行く感覚。


「婚約及び契約の破棄を了承致します。これよりは()()対応させて貰おうか」


シオンの口調の変化に加え、魔力が彼女を中心に渦巻き、そして少しの後彼女に還っていった。


「今のは何だったんだ?」「何か凄まじい魔力がシオン嬢から感じられる気がするんだが・・・?」「と言うか、雰囲気が違くない?」と広間にいる生徒達は感じるままに口に出す。


「久しぶりに()()()()()で動けるよ。婚約破棄と破門ありがとうございます」


ニコッと微笑むシオン。

第2王子と婚約してから、12年間一度も笑顔を浮かべることの無かった少女は解放された様に笑みを浮かべていた。


「婚約に紐付けていた契約も同時に破棄されましたので、今後この国は大変な事になるでしょうが、皆様の選んだ道なれば、甘んじて受けるが宜しいかと」


「貴様は何を言っている? 狂ったか?」とマクシミリアン殿下は戸惑っているようだけれどもう遅い。

契約は破棄された。それぞれが()()()()の決定事項と宣言してしまったから。


「フフ、アハハハハ。愚かで哀れで憐れな人達だ事。契約には代償も付き物だと言うのに。勝手に代表面して宣言してしまうのだから、笑えて仕方ないわ」


シオンは周囲の生徒達を見渡し、身の上話を始めた。

初めは意味が分からなかった生徒たちも話を聞くうちに顔が青ざめていく。



‡ ‡ ‡


━━━12年前。教会のとある一室。


「古代魔法、召喚術式起動を確認。何かが召喚されます!」


司祭の1人が女司教(通称マザー・ケレン)に向かって叫ぶ。

魔法陣の近くには幼い幼児━━当時のライマー(6歳)。彼が魔法陣を起動させた様だった。


光が部屋を満たし、視界が真っ白に染まる。


そして光が収束して現れたのは、5歳程の月白色の髪に薄茶の眼をした幼女。見たことの無い服装。どうやらサイズが合っていないようで、服がずり落ちてしまっている。


マザー・ケレン達はどうしたものかと頭を抱えた。

この不祥事とも言える事故。


「あなた達は誰ですか? それにココはどこなんでしょうか?」


少し舌足らずではあったが、意識はハッキリしているようだ。そして見た目と違ってしっかりしてそうに見えた。これは厄介だ。

彼女からしてみればこちらは誘拐犯も同然。

できるだけ友好的に接しようとするが、思ったより警戒されている。

名前を聞き出すのに随分時間がかかってしまった。

彼女はシオンという名前らしい。


ライマーは癇癪を起こしてしまった。こんなの要らない!もっとカッコイイのが欲しかったと駄々をこねる。召喚陣を起動させたのは使い魔(おもちゃ)が欲しかったかららしい。実に子供らしい考えだ。


マザー・ケレンはシオンが子供らしからぬ対応をするので、これでは教会の不祥事を隠蔽するのは難しいと思い、彼女に人格封印の魔法をかけた。

更にこの世界が、教会が信仰する神━━アレイトスがシオンを不憫に思い加護を授けてしまったので、王家と教会に従属すると言う魔法を重ねかけた。彼女の加護のおかげで国内の生活水準は上がった。何より飢えるものが居なくなった。不作続きで暴動が起こる寸前だったのが嘘のように数ヶ月で解決してしまった。加護すげぇ。

コレは国の外に出てはならないと、当時婚約者のいない第2王子の婚約者としてこの国に縛られる事となった。


それからと言うもの、第2王子は仕事をしない所か勉強もまともにしない。全部押し付けてくる。5歳児にしては大人の言うことを理解し、会話できるシオンに仕事を回した。例えば子供たちの交流会についての待状書きや名簿の作成。

1つ年上の第2王子はいつもフラフラ遊んでいる。だから必然的にシオンがやる羽目になる。何せ従属とは奴隷契約と同等のもので、

一つ、王族に()()()()()()逆らってはならない。

一つ、教会関係者にも従わなくてはならない。

一つ、国を出てはならない。

一つ、感情を出してはならない。

一つ、叛意を持ってはならない。

一つ、王家と教会のサポートを行わなくてはならない。

一つ、何があろうと死んではならない。

等々の事柄が契約に刻まれていた。


王族に連なるものとして、護身術を学ばなければならない。と、騎士団に連れていかれ、体格に合わない重い木刀を持たされて実践演習と言う鬱憤晴らし(リンチ)に会い。ようやく解放されたかと思うと、第2王子とその側近候補(当時は)に魔法の練習台と火の玉や水責め、風の刃で切られてりと割と大怪我を負うようなこともあったが、満足したところでライマーが治癒魔法で治すので証拠隠滅だ。

第2王子は愛想の欠けらも無い、婚約者(シオン)が気に入らなかった。勝手に決められた事にも。親(国王陛下及び王妃殿下)からも大切にしろと言われるのも気に入らない。

その結果が、人気の無いところで嬲る事だった。怪我を治してしまえば誰も疑わないし、何より魔法の練習に丁度良いと思っていた。シオンは奴隷。何をしても良いと。

数年経つと第1王子がシオンに接触してきた。

なんでも、妻━━第1王子妃殿下が産休なので、分かりに仕事を回すとの事。第1王子妃に何かあったら代わりをするのが第2王子妃の仕事だろ?と言われた。妃ではなく婚約者でまだ10歳にもなっていないのに?と思いつつも契約の縛りで了承せざるおえない。

身体は自動で動く。それこそ寝る暇もない。実際にここ数ヶ月眠っていない。食事も出来ていない。でも、身体は働き続ける。死ぬこともできない。睡眠も食事も取らなくても死なない。死ねない。意識はある。でも奥深くに押し込められてる状態。


いつの間にかシオンは、人形姫と呼ばれるようになっていた。

人形のように感情がないと。


第1王子と第2王子は歳が一回りとちょっと離れている。

なので第1王子はすでに結婚済みで夫婦仲は良いと聞く。


そんな第1王子は何かにつけて、妃殿下の仕事を押し付けてくる。

10歳を過ぎたあたりにはどう見ても第1王子の仕事内容まで増えている。外交、防衛、予算立て、食事会の段取り、王家の帳簿管理等。少しでも休んでいると、「君は暇でいいね。そんなに暇なら仕事をあげよう」と書類を積んでいく。


契約さえ破棄されれば自由になれるのに。そう思わない訳じゃないが、それは多分今じゃない。何れその時が来るだろう。それまで耐えるだけ。

そして、この落とし前はきっちり付けさせてもらう。そう心の中で決心するシオンは、今日も寝ずに書類仕事をこなしている。

表では従順に、けれどこころには常に刃を隠し持っていた。その時が来るまで・・・。



‡ ‡ ‡



そしてやってきたこの瞬間。大歓喜。

そして復讐の時間。


「私がこの国に攫われてきてから12年の月日が流れました。そして本日、婚約に基づく契約の破棄を承認した事により、今まで結ばれていた全ての契約が解除されます」


一呼吸置く。


「まず、私は主神アレイトスと()()()()()()契約を結びました」


ザワりと周りが動く。


「婚約に基づく契約。これを王家と教会が一方的に破棄するとした場合、

一つ、即座にアレイトスはこの国に干渉する権利を失う。

一つ、召喚陣を永久に凍結する。

一つ、これまで私がされてきた事をそのまま王侯貴族及び国民全員に追体験して貰う。

一つ、私が何をしようとアレイトス及び神と呼ばれるモノの干渉は認められない。

また、上記は(シオン)はこの世界の人を殺さない。死なせない。事を前提とする。

これらを持って奴隷契約同然の契約を結びました。さぁ、皆様ご覚悟はよろしいでしょうか?」


とてもいい笑顔。

とても楽しそうな笑顔。

だからこそ怖い。恐い。


「まずは王家及び王族から暗影を奪うことに致します」


パチンと指を鳴らし、王宮と王族の居るところから暗影を奪う。


「次に今現在、この国の各地にある教会のアレイトスの神像は崩れている事でしょう。そして王都にある中央教会からは逆に光を奪いましょう」


パチンとまた指を鳴らす。指を鳴らしたと同時に、中央教会は闇に包まれた。


「それと食料は私が来る12年前の状態に戻ります。飢饉に備えてくださいね。もう遅いかもしれませんが・・・」


とても楽しそうにえげつない事を言っている。


「あと・・・」


「まだ有るんかい!?」と戦慄する生徒と教師。


「この国には結界を張らせていただきました。認識阻害の結界と中のものを出さない結界を。私後味わった12年。大丈夫です!たったの12年だけ地図から消え、人々の記憶から存在を忘れられるだけ。死なせはしません。たとえ食べなくても、眠れなくても。12年間は誰も死ぬ事はありません。そういう風に()()しましたから」


「どういう意味だ! 貴様は魔法が使えないはずだろう!?」


「ええ、魔法は使えないです。でも、()()なら使えるんですよ?」

「は? 魔術? 何が違う?! そもそもお前は魔力がないと・・・」

「そもそも私が魔術を使えなかったのは、貴方達に魔力供給をしていたからなので、それが無くなればまた使えるとなぜ理解出来ていないのか不思議ですねぇ」


今まではマクシミリアンとライマーの2人に魔力が流れていた。

これは、契約事項の一つにある王家と教会のサポートに含まれていた。

マクシミリアンもライマーも強い魔法を撃っても魔力切れを起こさなかったのは、シオンの魔力を使っていたからだった。

そもそもこれもマクシミリアン達に伝えられていたはずなのだが・・・何故に忘れているのか。


「そもそも、貴様が言うような事が実際に出来るとは思えない!」

「出来ますよ? 少し世界の在り方(テクスチャー)を弄っただけです。大丈夫です。たった12年でございますので」


たった12年。されど12年である。


自分がされた事(過去12年間)を本当の意味で知った後、彼らが何を思い、どう行動するのか楽しみで仕方がない。


「ああ、そうだった。メイとか言う男爵令嬢には私と同じ目に遭ってもらおうかしら?」


そうシオンは言うとメイから2本の白い光の糸が出てきた。

そして一つはマクシミリアンへ。もう一つはライマーへと繋がった。


するとどうだろう、メイは顔色が青くなり、立っているのも危うい状態になっていた。


「ちゃんと繋がったようで何よりです。これからは貴女が殿下とライマー様に魔力を供給してくださいまし」


魔法を使っていない状態なのに、メイは凄い勢いで魔力が失われていくのが分かる。そう、2人に流れていってるからだ。


「私の代わりになりたかったのでしょう? 良かったですね。魔力タンクとしてこれから12年頑張ってくださいな。私は元いた場所から見物させていただくわ」


元いた場所。

シオンは別の世界から連れてこられた。彼女がいた世界では魔法は神代の時代の奇跡。人が使えるのは魔術と分けられていた。そして、それはこの世界よりもより強いものだった。

シオンがこの世界に来た時に5歳くらいだったのは転移によって情報量が足りていなかったせいであり、本当は当時23歳だった。

子供らしからぬ印象だったのは、実際おとなであったから。


国に縛られ、公爵家に養女として迎えられても都合の良い人形としか扱われなかった。だが、いきなり訳ありの人間を受け入れろというのは難しいのは理解する。愛人との子供と疑われていたのも知っている。なので公爵家や他家には夢の中で追体験して貰うだけに留めようと思ってる。

ただしマクシミリアン、クライアン、フランツ、ライマーは別にお仕置しておこう。4人には昔たっぷりと痛めつけられたのだから。

彼等には追体験だけでなく、その時の痛みや苦しみも体験して頂こう。


「アハハ、楽しみねぇ。愉しみねぇ。本当は契約した時も洗脳された時も跳ね返せたの。断れたの。でもしなかった。何故かわかる?」


沈黙。


「だって()()()()だったから。絶対に貴方達は何かやらかしてくれるって信じていたの。私の苦しみの年月が長い分だけ、国民を含めた貴方達全員に返しましょうって決めていたの。だからね、誰も彼も発狂する事も死ぬ事も許されない世界で苦しみ憎まれ、嫌悪されながら生きてこの国を守ってちょうだいな? 12年後にまた会いに来るから」


「その時に私が貴方達をどう思っていたのか教えてちょうだい」と言って消えた。ふっとその場から姿が消えていた。それからパーティーはお開きになった。


神の加護が失われた事は直ぐに国民の知ることとなった。本当に神像が全て崩れ落ちていた。新しく作ろうとしても崩れてしまう。

畑からは作物が緩やかに弱々しくなり、枯れていくものも増えた。

中央教会は闇で包まれ、1寸先も見えない状態。神に祈っても沈黙が返ってくるだけ。

王宮は逆に陰影が無くなったせいで夜が来なくなった。いや、正確には夜にはなるが、王宮内のどこも夜闇がない。明かりを灯しているわけではない。なのに明るい。だから眠る事もマトモに出来ないのでミスが増え、政治が回らなくなった。

それだけでなく、王族の居るところから陰影が消えているので、国内視察に泊まりで出れば視察先から眩しくて寝れないど苦情が入り、眠れてもシオンから観た醜い顔をした自分達の姿が浮かんでマトモに眠れる人は殆ど居なかった。

更にマクシミリアン達4人については夢の中でも痛みや苦しみを感じるので、眠ること自体を避ける傾向があった。

食料不足になっても飢えていても死ぬ事がないのはシオンの宣言通りだったが、生きてるのが辛いと思う人も少なく無かった。


これは拷問だ。

精神的拷問。


彼女はこの世界にいた12年間、誰かを虐げる事はなかった。むしろ虐げられてきた側だった。

そして、マクシミリアンに対して恋情どころか好感度は全くなく、よく言っても上司程度。むしろ関心が全くない。


隣国に助けを求める使節を送ろうとしたが、これまたシオンの言う通り結界を通り抜けられず断念。


商人は出れると知って、王家の印を押した書状を託したが、国を出て行った商人は二度と戻っては来なかった。

認識阻害の影響で持っていた書状は存在を忘れられた。



‡ ‡ ‡


━━━12年後。


国に張られていた結界が解除された。

また、王宮に陰影が戻ってきた。

教会は光を取り戻した。


人々は夢から解放された。第2王子の当時の婚約破棄宣言と共に。


しかし、マザー・ケレン達教会の司祭達は闇に慣れた眼には僅かな光でも強烈な痛みを与えた。


国民は解放されても積み上がった精神的負荷から何かをしようという意志を奪っていた。

夢を見始めた当時は王家や教会に対して、理不尽な目にあっていることに対する怒りを抱いていたがそれも直ぐに無くなった。王族に近寄れば光しか無く、休む事も出来ない。教会は真っ黒なドームに覆われていて入ろうにも勇気が出ない。

土地は痩せて、作物が育たなくなっていく。

食べるものがなくても何故か飢えて死ぬ事はない。発狂したくても、死のうとしても何故か出来ない。それが12年続く内に何もかもがどうでも良くなってしまったのか、街は閑散とし人々の目には本当に解放されたのか怯えが見える。


そんな街中を1人の女性がスキップしながら、鼻歌混じりに歩いていく。


王宮に着くと直ぐさま元婚約者の第2王子━━マクシミリアンの元に向かった。


「マクシミリアン殿下、お久しぶりですね」


軽いノリで話しかけられ、虚ろな目を向けるマクシミリアンは一瞬誰だか分からなかった。

月白色の髪に薄茶の眼をした大体20歳くらいの女性。


「お前・・・まさかシオンか?」

「覚えているとは思ってなかったわ。ちょっと驚いちゃいました」


クスクスと笑うシオンは見た事もない服装に身を包んでいた。


「あ、この服ですか? 私の世界では普通なんですけどねぇ。まぁ、そんな事はどうでも良いです」


スっと目を細めてマクシミリアンに問いかける。


「あの時、貴方は私が貴方に好意を向けていると仰った。そして今、私の記憶を追体験した上で問いましょう。貴方はあの時と同じ事が言えますか?」


答えは決まっていた。否だ。


自分達が彼女にしてきた事を本当の意味で知った。

彼女から家族や友人を奪った。自由と意思を奪った。

自分が命令した「()()()()」と。避ける事も逃げる事も許さないと。

兄である第1王子は自分の妻の為と言い、王子妃の仕事全般を。自分が楽をするために第1王子に振られた面倒な仕事を回した。疲れて図書室で眠ってしまったシオンを叩き起し、「寝る暇があるなら外交交渉及び書類仕事(コレ)をやれ」と言って大量の書類を積んで行った。

王妃は身元の分からないシオンが気に食わなかった。だから、嫌がらせで茶会やパーティー、食事会の段取りを任せた。最初は拙い所もあったが、数回で全て熟せる様になって大成功の内に終わった。それが気に食わなくてその功績を自分のモノにしていた。

国王は何もしなかった。する必要も無かったから。ただの()()に向ける関心など無かった。壊れず(死なず)、国を出ていかなければ問題ないと思っていた。


「君は俺を・・・いや、この国を憎んでいたのか?」


マクシミリアンから出てきたのはそんな事だった。


「憎むだなんて、そんな事ないですよ? 好意も善意も嫌悪も憎悪もそんなモノは持つだけ無駄ですし」


小首を傾げる。


貴方達(おもちゃ)にそんな感情向けるはずないじゃないですか?」


玩具。それに尽きる。

シオンは元々20代の姿を取っていたが、魔力が強すぎて一定の年齢で成長が止まってしまった特殊な人間である。不死性は持ってないし不老でもない。ただ緩やかに歳をとる。歳を数えるのはとうの昔に辞めてしまったので正確な年齢は忘れた。

そのせいか人間性も失っていた。

だからこそ12年なんて誤差のうち。ちょっとした刺激あるお遊びだった。


「そう言えば、メイ嬢は一緒では無いのですね?」


思い出したかのように聞けば別れたとかだけ返ってきた。


「魔力切れを起こしているか、一緒にいると休まらないから・・・とかいう理由かしら? お可哀想に」


ニコリと笑いながら言う。全然可哀想と思っていない事は確かだ。

ただ、マクシミリアンには言い返す気力もなかった。

長年の睡眠不足の為、目の下には濃い隈が出来ており、以前より大分やつれてもいた。


「それでは契約満了という事で、これからは悪夢に魘されることも他国とも元に戻ります。ただし12年間忘れられていた外交交渉は大変でしょうね」


完全に他人事だ。


「他人事ですもの。貴方が契約を破棄しなければ、まともに接していれば、こんな事にはならなかったのですし? 何より契約の重さを知らなければ何れこの国は破綻していたでしょう」


確かにそうだ。これが他国との契約(婚約)だったら最悪戦争になっていたかもしれない。


「私はここでの生活も含めて24年間でこの国の人を色々見れました。なのでそれなりに愉しめたので満足です。これから頑張ってくださいね」


そう言い残して、シオンは光の粒子と消えた。


ライマーに対しても、シオンは言葉を残していった。


「玩具なのは私でなくて貴方の方。天才と言われていたけど、大したこと無かったわね」




‡ ‡ ‡


[ 蛇足 ]


アレイトスはとある人の前で正座させられていた。


「転移魔法何でものはこの世界から排除させて貰ったし、この先また誰かが転移魔法を使おうものなら魔獣が転移されるように設定しといたから」

「はい、お手数おかけしました」

「あと、国が変わればまた主神として復活できるかもね」

「はい、ありがとうございます」

「じゃ、私帰るから。今回の件で縁が結ばれたから、また何かあれば来るかもしれないけどね」

「それはご勘弁ください!」


アレイトスはシオンの笑顔に震えるのだった。



━ 終 ━

読んでいただきありがとうございました。


ちょっとした事ですが、シオンは本名ではなく、咄嗟に浮かんだ偽名です。国も滅びはしません。おそらく。あの後、マクシミリアンは爆睡するでしょうし、王宮内にいる人は大抵爆睡してます。

そして相変わらず、主人公しかほぼ喋ってない。反省。


もう少し一方的にならないように精進します。

お付き合い下さり、ありがとうございました。

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