Case:3 天真爛漫とは・・・?
主要人物
・クローディア ・・・ 辺境伯令嬢。
・カリオン ・・・ 侯爵令息。
・フィリア ・・・ 子爵令嬢。
学生というのは思春期&青春真っ盛りな期間である。
つまりは恋に恋すると年頃とも言えるだろう。
なので、今の様な現象は想定内。
学院の東屋で戯れる女子生徒1名と男子生徒3名。男子生徒の内、1名は自分の婚約者だ。
楽しそうに話をしているかと思えば、友人にしては親しい身体接触。彼らの様は見ようによっては、1人の女子生徒を3人が取り合ってるように見える。
それは不貞と言っても良い様な近さだった。
他2名の男子生徒の婚約者達からも不満の声が出ている。ただ、直接物申すと虐めだのなんだの言われそうなので、丁度人目の着く中庭で戯れていた彼等に、今後の事を含めて話し合うために突撃してみた。
「カリオン様、最近そちらの女性ととても親しい様ですが、どの様なご関係でしょうか? 友人と言うには少々距離が近い気が致します」
私━━クローディア・クォンサイトは辺境伯家の出身で、彼━━カリオン・タルラは侯爵家。
元々政略と言うより、親同士が仲が良かったので婚約が結ばれただけの関係だ。故に幼馴染と言っても良い。
お互い情は有っても恋情ではない関係だと思っている。
「クローディア、話に割り込むのはどうかと思うぞ」
不機嫌な顔を隠しもせずにカリオンは嘆息した。
「一応婚約者なので一言物申しに参りましたの。カリオン様はお忘れの様ですが・・・」
クローディアも呆れ声で返す。
「お前と違ってフィリア嬢は天真爛漫で可愛らしいんだ。いつも冷静で嘘の笑顔しか浮かべないお前と居るより癒される。どちらと居たいかなんて言わなくとも分かるだろう?」
「天真爛漫ですか? そうですか・・・」
呆れてしまった。
「それは他の殿方も同じ様にお考えでしょうか?」
他男子生徒2名に話を振ってみたが、「その通りだ」と肯定された。コレは由々しき事態なのかもしれない。
「元々、親同士の思惑で結ばれただけの婚約だ。政略でも何でもないんだし、この際破棄しても良いと思ってる。それぐらいフィリア嬢の事を想っている」
「カリオン様、嬉しいです!」
飛んで跳ねそうなフィリア嬢。満面の笑みが浮かんでいた。
「そこまでお考えでしたか。では、婚約の解消の件は各々両親へ伝えるという事に致しましょう」
「分かった」と短く返事をして直ぐにフィリア嬢に目線を向けるカリオン。
「しかし、まさかカリオン様方が幼女趣味だったとは知りませんでした」
ぽつりと零した言葉にその場に全員が固まった。
「誰が幼女趣味だ!」
カリオンは顔を真っ赤にさせて叫ぶ。周りの野次馬もフィリア嬢と3名のお友達(笑)に、視線が集中する。
「だってそうでしょう? この学院に通う貴族であれば淑女または紳士教育を受け、それなりの社交術を身に付けているはず。天真爛漫なんてモノは淑女らしくない行為です。幼子では許されるかもしれませんが、人前ではそのような態度を取れば礼儀のなっていないと再教育ものですよ?」
学院は社交界の縮図でもある。
よく勘違いされているが、勉学は貴賎関係なく平等に受けられるとはいえ、階級制を取り入れている我が国に置いてたとえ学生であろうと階級は存在する。
「天真爛漫なんて言葉は褒め言葉ではなく、相手に対して言動が幼い、教育を受けていないと言ってる様なもの」
貴族でなければ褒め言葉かもしれない。
でもこの学院に通う生徒は大半が貴族で、フィリア嬢も子爵令嬢だ。本当に淑女教育受けたの?と言っているのと変わらない。
「つまりはそんな女性が好きと言った貴方達は幼女趣味ではないかと思った次第です」
クローディアの発言に野次馬達も納得してしまった様だ。
確かに純真な心は幼児に許されたモノだろう。貴族は相手の言葉の裏を読み、言葉尻を捉えられないように上手く立ち回る必要がある。そんな中、天真爛漫な少女が生きていけるのだろうか? 否無理があるだろう。必ず泣く羽目になる。
「つまり、私は幼いとバカにされていたってことですか?」
弱々しい声。眦には涙が見える。
こんな弱くて貴族の社交界を上手く渡って行けるとは誰も思えなかった。
「クローディア、やっぱり婚約破棄はなかった事にしてくれ。俺が悪かった。彼女では将来侯爵夫人にはなれない」
「つまり、愛人にすると?」
「違う!? これは・・・そう、一瞬の気の迷いだ」
「幼女趣味に嫁ぐのはちょっと・・・嫌ですね」
「だから違うって言ってるだろう!」
「でも、私は天真爛漫ではない冷たい女なので」
「冷たいとは言ってない! 誇張するなよ」
野次馬達も「アイツら幼女趣味なんだってよ」「嫌だ、犯罪者予備軍かもしれないわ」「たとえ幼女趣味でなくとも浮気する人間は何度もするって言うよね」など、ヒソヒソ話している。
耐えかねたのか、他2名も幼女趣味も浮気も否定し、婚約者が好きだと、一過性のものだったのだと主張し始める。
フィリア嬢が可哀想だと思った。
まぁ、身から出た錆って事とも言えるが・・・。
「カリオン様もグウェン様もミゲル様もヒドい! あんなに私の事好きって言ってくださっていたのに!」
グウェンとミゲルはその他2名の名前である。伯爵家と男爵家のご子息。ちなみに彼らの婚約者は子爵令嬢と裕福な商家の令嬢である。
「あれはリップサービスのようなものだから」とはグウェンの言い分。
「売り言葉に買い言葉のようなもので・・・」とはミゲルの言。
「と、とにかく、俺達は幼女趣味ではない! 彼女は立派な淑女だから」
「でも天真爛漫な少女なのですよね? お好きなんでしょう?」
「確かに好きだけど、幼女趣味と思われたくない! それに彼女は俺達と同じ年齢だろうが。よって幼女ではない!」
「外見年齢と精神年齢は必ずしも一致しないもの。精神的幼女が好みのタイプなのですね。言われてみれば、幼女とは、結婚できませんし」
フィリア嬢なら丁度良いですね!と言わんばかりに今まで見たことも無い満面の笑みを浮かべるクローディア。
クローディアはフィリアに視線を向けると口を開いた。
「フィリア嬢が望むなら、婚約者の座をお譲りします。教育係も当方が派遣しましょう」
「え? 本当ですか?」
「勝手に話を進めるな」とカリオンが言っているが気にしない。
婚約解消を目指して突き進むのみ!なクローディア。
「あくまで表面上貴族として整える程度で、持ち前の天真爛漫差を損ねないように教育して頂けるよう取り計らいましょう。カリオン様もそれなら宜しいでしょう?」
「頑張れば、カリオン様と一緒になれるんですか? 嬉しい! 頑張ります!」
「では、貴家へ向かわせる教育係の選定も含めて来週のお休みにお茶でもしましょう」
「わかりましたぁ!」
どんどん2人の間で話が進んでいく。
「だから婚約は続行するって言ってるだろ!」とか「俺が悪かったから話を聞いてくれ」とか言ってるが聞こえない聞こえない。
「カリオン様、幼女趣味でなくとも浮気性な方も遠慮したいのです。と言いますか、私、結婚したくないんですよね。だからフィリア嬢との事は有難いのですよ」
クローディアは本音をぶっちゃけた。
「へ?」
「私、辺境伯家の娘として鍛えてきました。でも王都では不要でしょう? 折角鍛えてきたのだし、辺境伯領で魔物狩りをしながらのスローライフが夢でして・・・」
「魔物狩りをしながらのスローライフ?」
「侯爵夫人とかめんど・・・いえ、性にあわないと思うのです」
面倒くさいとか言いかけなかった?と周囲は思った。
「え〜? 私はなりたいけどなぁ侯爵夫人に。きっと美味しいもの沢山食べれるんだろうなぁ」
「ええ、ですのでお譲りしますわ」
野次馬の中から段々とカリオンに向けて同情心を含んだ視線が出始める。
「貴方は愛する人を手に入れるとことができる。私は夢を叶える道ができる。WinWinですわ!」
なるほどと思ってしまったカリオン。
納得しかけて、なんか違うと思い直す。
「お前、俺と婚約解消したらスローライフ送るどころか次の婚約相手探されるだけだろ?」
「それは問題ありません。卒業後は空気が合わなかったと辺境伯領へ引きこもる予定ですので。どの道、辺境で生活を送れるならスローライフです!」
「そうかなぁ?」
辺境=スローライフってなんか違う気がするクローディアを除く人達。そもそも魔物狩りって、そんなピクニックに行くような楽しいものでもないかと思うんだがこれ如何に。
「私が精一杯、フィリア嬢の魅力を損なうこと無く、立派な淑女になれるようお手伝い致しますので、よろしくお願いしますね」
「私も精一杯頑張ります! カリオン様は顔が好みなので!」
フィリア嬢、最後のそれは要らない。
なんか違う気がするカリオンはその後、本当に婚約解消され、教育をちゃんと受けたフィリアと婚約し直した。
暫くは幼女趣味と噂が流れていたが、相手が一応同年齢のため特にこれと言って被害という被害は少なかった。
他2名のグウェンは政略的なものから婚約維持。
ミゲルは解消の流れとなった。
理由は幼女趣味の噂のある者との繋がりがどう商売に影響を及ぼすかと危惧したため。実際にミゲルは幼女趣味の気があった様だ。元婚約者は綺麗系お姉さんって見た目でどうも上手くいっていなかったらしい。更に幼げな少女を目で追っていたと聞いた。
クローディアは卒業後に自領に戻り、その後はカリオン達にはどうなったのか話されなかった。
新たな婚約者ができたとも、独り身とも聞かない。でもクローディアの事だから本当にスローライフを送っているかもしれない。
クローディアにとって魔物狩りはピクニックと同等の遊びだった。学院では貴族らしくしていたものの、本質的に脳筋で野生児と言ってもいい性格をしていた。ただ、淑女教育の重用性も自分の立場も理解していたので、そう振る舞っていただけ。
貴族らしく見せるくらいには取り繕えるレベルまで出来たのは、本人の努力と教育係の腕が良かったから。
幼い頃、淑女教育が始まる前までは、それこそ天真爛漫と呼べた。その姿にカリオンは惚れたのが婚約の始まりだった事は本人はとうに忘れている。
親達は残念がったが、それぞれ幸せに・・・と言えるかは分からないが、不幸にはならなかった。
フィリアも社交界では侯爵夫人らしく振る舞い、家では本来の純真さでカリオンを癒していた。
収まるところに収まった。ただそれだけのお話でした。
読んでいただきありがとうございます。
自分は、天真爛漫=幼女趣味とまでは思っていないけれど、それに近いものがある様にも思っています。ある程度の年齢になっても純真無垢であれば、ある種の狂気かと考えています。
天真爛漫とは褒め言葉になるのはやっぱり幼い頃だけかと。精神年齢が低いって言われてるものと同等。
その場で空気を読んで言動する事が求められるのが社会だと思います。貴族とか立場ある人なら礼儀とかTPOを弁える事とか大事で、天真爛漫には居られない。そう思って書いてみました。
不愉快になってしまった方が居りましたら、謝罪いたします。ただの物語ですのでご容赦ください。




