Case:10 真実の愛を宣言したのなら・・・
登場人物
・アーチェ・クリスティーナ=グランチェスタ
・スティーブ・ゲイル=ヌイ
・ミシェル・ティル=グランチェスタ
それはある昼下がり。
「グランチェスタ侯爵令嬢、お耳に入れたいことがあるのですが・・・」
「あら? なにかしら?」
クラスメイトの令嬢に声をかけられた。特に仲がいいという訳では無い。普段、挨拶する程度の関係だ。
「先程、ご婚約者のヌイ侯爵令息が見知らぬ令嬢とお昼を共にしている所を見てしましまして」
「見知らぬ令嬢・・・ですか?」
はて? 最近転入してきた令嬢の話は聞かないが?
「それが、友人のトール子爵令嬢が言うにはグランチェスタ侯爵令嬢に似ていたと・・・。ご親戚かどなたかかとは思ったのですが、一応お耳に入れておくべきかと思いましたので」
「ご親切にありがとうございます。私の方でも確認しておきますわ」
「いえいえ、お耳汚しを失礼いたしました。それでは失礼いたします」
そうして彼女は去っていった。
自分に似た女子生徒。まさかね? その時はそう思っていた。
‡ ‡ ‡
「アーチェ・クリスティーナ=グランチェスタ! 君との婚約を破棄する! そしてミシェル・ティル=グランチェスタと婚約することをここに宣言する!」
彼は突然そう宣言した。
彼は私の婚約者━━スティーブ・ゲイル=ヌイ。侯爵家の長男だ。
「あの? 婚約破棄云々は置いといて、ミシェルがどんな子かご存知の上で婚約すると仰るのですか?」
「君はそうやって彼女を貶めるのだな。無論私は彼女の全てを知った上で婚約を結ぼうと言っている。これは“真実の愛”なんだ」
自分に酔ったように話す彼を見て、全く分かっていないと思ったが、“真実の愛”とまで言っているのならば仕方がない。そして、この場にはこの国の王侯貴族の殆どが出席している。吐いた言葉は戻らない。
中には困惑を浮かべている者、“真実の愛”という言葉に目を煌めかせている者、残念なものを見る者、好奇の目を向ける者、様々な反応を見せている。
「お姉様申し訳ありません。わたしがスティーブ様の事を愛してしまったばかりに・・・」
「あなたの所為では無いでしょう。婚約破棄を選択なされたのはスティーブ様です。それにわざと誘惑したのではないのでしょう?」
「それはそうなんですけど・・・わたしが早く身を引いていれば・・・」
ミシェルは罪悪感か泣きそうな顔をしている。可哀想で可愛い女の子にしか見えない。
「スティーブ様、承知いたしました。婚約破棄を受け入れます。“真実の愛”ですものね」
真実の愛という言葉を強調して言う。
「ああ、分かってくれて嬉しいよ。アーチェ嬢、君が悪い訳では無いんだ。ただ、ミシェル嬢に会って身も心も彼女に捧げ、また、彼女の事も同じ様に愛したいと想ってしまったんだ」
「身も心もミシェルを愛していらっしゃると・・・?!」
「その通りさ! ミシェル嬢とは運命としか思えない!」
「それではミシェルの事、よろしくお願い致します。此方としても引き取って頂けるなら有難いことですので」
「双子の妹に対してなんということを言うんだ!? さすが双子が忌み子と信じて領地に閉じ込めて居ただけあるな!」
スティーブ様、気分の上がり下がりが激しい!
さっきまでしおらしくしていたかと思えば、熱っぽく語り出して、そして怒り出した。
面倒の一言に尽きるが、相手をせねばなるまい。
「スティーブ様は何を仰っているのですか? 私に妹は居りませんが?」
公の場での発言は気をつけましょう。
「何を言っている?! ここに居るじゃないか! ハッ! ミシェルに生まれて来なければ良かったと言っただけある。この性悪が!」
「そのような事は言ってませんよ? 私が申したのは『ミシェルは産まれてくるのが早すぎた』ですわ」
「どう違うって言うんだ!?」
「全然違いましてよ。ミシェルはとにかく産まれてくる時代を間違えたとしか言いようがないのです。先の未来ならきっとミシェルも生きやすかったでしょうに、と・・・」
「ああ、そう言えば、ミシェルは身体的な障害を抱えているんだったな。すまない、また早とちりしてしまった」
「いえいえ、それにミシェルの場合は身体的とも精神的な障害ともどちらとも言えますね。少なくとも今の時点では・・・」
「?」
スティーブ様は頭に?が浮かんでいるようだ。貴族たるもの顔に出すぎるのは如何なものかと。
「ミシェルは私の弟ですよ? 私には(公的には)兄と弟しか居りませんので」
「・・・・・・・・・弟?」
「あれ? わたしはちゃんと言いましたよ、身体的に子供が産めないって」
「ミシェル、幾らなんでもそれは遠回し過ぎるのではないかしら?」
「はて?」と可愛らしく小首を傾げるミシェルの姿に、はぁと扇の裏で小さくため息を吐く。
本来なら男装してこの場に居るはずのミシェルはスティーブ様から贈られたドレスを身にまとっている。
何故採寸の時に気が付かなかったのか? 不思議だ。華奢な体格ではあるが骨格は男性なのだけれど・・・。
仕立て屋もスルーしたのだろうか? やっぱり不思議でならない。
「しかし、スティーブ様は先程仰っていた通り、ミシェルの事を身も心も愛していらっしゃるのでしょう? 性別を超えた“真実の愛”。とっっっても素敵ですわね?」
私は周りの人達に同意を求める。
周りも面白がってか同意し、彼らを祝福する。また、王族からも祝福されてしまった。もう後には戻れない。
「ちなみにミシェルは忌み子と呼ばれたことはありません。その子は身体は男性ですが精神は女性です。ただ、それ故に好奇の目を向けられるのを防ぐために領地にて育てられただけです」
「領地での生活は楽しかったですよ? 好きなだけドレスを着られたし、屋敷の人達も家族も優しいので快適でした!」
「どうしても王都では男装を強いられてしまうものね?」
「男装もたまになら良いんですけどね。毎回となるとストレスで・・・やっぱり綺麗なドレスが着たいじゃないですか! それに男とはこう在れ!みたいなの苦手ですし・・・」
「なのでミシェルは領地でのびのび過ごして居たのです」
「そ、そんな・・・じゃあ私は男性と婚約をすると宣言したのか?」
「ええ、でも精神的には女性なので。自認ですけど」
ショックを受けたようなスティーブ様。全てを知っているんじゃなかったんかい!とツッコミたくなる気持ちを抑える。私は淑女なのだから!
「スティーブ様、ミシェルの事をくれぐれもよろしくお願いしますね? “真実の愛”なんですもの。死ぬまで一緒に居て幸せにしてあげて下さいませ」
「お姉様、ありがとうございます! わたし、必ずスティーブ様と幸せになります!」
「こんなはずじゃなかった」なんて事を呟いているようだけれど、吐き出した言葉はもう戻らない。それも国中の王侯貴族の前での出来事となれば尚更だ。
ちなみに補足すると、私と兄弟との仲は悪くない。弟がちょっと特殊なだけの普通の家族である。弟と呼んでいるのは公的な場だからであって、私的な場ではちゃんと妹として扱っている。
ミシェルもそれを受け入れている。むしろ家族に受け入れられている事が奇跡と思っている節がある。当たり前の事なのに・・・。
私の片割れなのだし、可愛いに決まっている。
やっぱり、女性の仕草や特徴を研究してきた成果だろう。女性としてのちょっとした仕草やしなやかさはミシェルを見習いたいと日々思っている。身体が男性だからこそより女性らしさを極めたのだろう。その努力は如何程か。我が弟ながら尊敬するわ!
‡ ‡ ‡
それから、私との婚約解消後、二人は正式に婚約を結んだ。
国内初の同性婚。
教会も国王陛下並びに政治中枢のお役人方は大変どったであろう事を考えると頭が上がらない。
教会的には教本に同性婚禁止って書いてなかったし、何より神は愛を尊ぶ!とあるのだから、認めざるおえなかったようだ。
問題は国の法律の方だった。この国は一夫一妻制、離婚は不可能。
同性婚が認められれば貴族として問題になる事が多い。なので、同性婚(内縁含む)の場合、貴族家を継ぐことが出来ない、相続権の放棄、万が一に備えての断種処置等、幾つか条件付きでOKを出した。
詳しくは関係ないので省く。
ただその諸々を認可してまで婚約し、彼らはもう1年後には結婚式だ。感慨深いね! お姉様は涙が止まらないよ。
[ 後日談という名の蛇足 ]
「何でこうなったんだろう?」とボーッと悩んでいたスティーブにミシェルは
「何を悩んでいるのか分からないけれど、一緒に考えて、支え合って生きていきましょう! 夫婦になるのだもの!」
と天使の微笑みでスティーブの小さな悩みを吹き飛ばした。
良くも悪くもスティーブは高位貴族の割に単純思考の持ち主だった。
子供に関しては孤児院から養子を取り、家族仲良く過ごした。
アーチェ達グランチェスタ侯爵家ともなんやかんや仲良くやっているスティーブ君なのでした。
たぶん。
外側(身体)と内側(精神)が一致しているとは限らないよね。っていうお話。
ミシェルは本当に精神的な自認が女性だったのか、ただの女装好きで同性愛な男の娘だったのか・・・。どっちでしょうね?
一応。
自分は差別的な考えはしていません。そういう方もいるんやな程度の知識なので、そういう意図で書いたわけでは無いことは申しておきます。
気分を害す方がいたなら謝ります。




