Case:11 「君を愛する事はない」と言われたのでつい
登場人物
・サフィニア・ヴァイオレット
・クルト・ブルーブラック
・スィロー・ジョンブリアン
「君を愛する事はない!」
問:初対面でこのように言われた時の行動は?
答:冷静に対処しましょう。「では契約書を」とか「理由を伺っても?」などが望ましい。
たぶん。
しかし私はやらかした。
「一昨日来やがれでございます!」
(承知いたしましたわ)
と、心の声と実際に出した言葉が逆な上、カップのお茶を相手に浴びせた。我ながら短気なことである。
相手は呆然と目を見開いている。
端正な顔立ちをしている方だと思うが如何せん好みでない。ナルシストっぽい感じが滲み出ているのもマイナス点だ。
いや、ここは私の好みの話をする場面でない。お見合い開始早々でのあの言葉につい体が動いてしまった。だが、悪いとは思わない。反省はするけれど・・・。
「申し訳ありません。つい、本音が・・・」
「ついではない! 初対面でお茶を掛けられたのは初めてだ!」
「私も顔を合わせて数秒で愛することはない宣言されたのは初めてです。あら、初めて同士でお揃いですね」
「何が、お揃いですね。だ!」
「あまり怒ると身体に悪いですわよ?」
「怒らせてるのはお前だ!」
お前? 何様のつもりだ!と二度目のプッツン発動。
「お前呼ばわりされる覚えはねぇですけども? 貴女に訂正してくださいまし」
「はぁ? お前なにを偉そうに・・・」
「お前じゃなくて貴女に訂正しろって言ってんでしょうが? 聞こえんのですかねぇ? さすがに耳の遠いお爺さんとのお見合いは遠慮したいのですけども!」
いけないわ。言葉が乱れてしまった。気をつけないと後で怒られる。両親は笑顔で怒ってくるから尚更恐ろしいのである。
(注:既にやらかしているので怒られる確定)
「なっ、おま「貴女!」貴女は何様なんだよ!?俺は偉いんだ!逆らったら痛い目みさせてやるからな!」
「三下風情が吠えなさんな」
「誰が三下だ! 父上に言っておま「貴女」・・・貴女との縁談はなかったことにさせていただく!」
「どうぞご勝手に。私、貴方の事は心底興味を無くしましたので。今後、私に関わらないでください」
「おま「貴女です。学習能力ゼロですか?」・・・貴女はもっと慎ましやかになるべきだ。でなければ行かず後家になるぞ」
「ご指摘ありがとうございます。ですがご心配なく。貴方様と一生を共にすることに比べたら、独り身の方が良いと思いますもの」
ブルーブラック令息は「このじゃじゃ馬娘め!」と怒りながら帰って行った。
彼に私の何が分かると言うのか。会って数分の関係なのに・・・。
‡ ‡ ‡
「何でまた、我が家においでになったのですか? 嫌がらせですの?」
「俺だって来たくなかったさ! でも親父が・・・」
「つまりお父上に言われてノコノコと来たと? もう一度お茶をおかけした方が良いでしょうか?(真剣)」
「真顔で言うのは辞めろ! 冗談に聞こえない」
「心からの言葉ですので・・・冗談だと思われるのは癪ですね」
「やる気だったのかよ!?」
「お望みとあれば! 是非にでも!」
「お前・・・じゃなくて、貴女は何でそこまで俺を嫌うんだ?」
彼は本当に分からないと言った風だ。
「初対面で、しかも会った瞬間に『お前を愛する事はない!』と言われたら、他に愛人か身分違いの恋人かがいると思うのが普通でしょう? 結婚を前提にしたお見合いでそんな宣言されたら“自分は浮気者です”と言っているも同然じゃないですか」
実際の世間一般的にはどうか知らないけれど・・・。
少なくとも私はそう受け取った。
「お茶をかけたのはやり過ぎと思うのでその件は謝ります。申し訳ありませんでした。でも後悔はしていません!」
「謝罪が台無しだよ・・・」
「で、あの言葉の真意は何処にあるんです?」
わくわくしながら訊いてみた。
他人の泥沼話しなら尚更面白い。
「愛人も恋人も居ない。ただ、うちの親が俗に言う仮面夫婦でお互いに愛人が居るんだ。そのせいか夫婦の愛とか恋愛感情とかが理解できない。君は俺のことが好きなんだろう? だからそういった物に憧れを抱いているなら俺に求められても困るだけだと思ったから」
「だから、愛する事はないと? 馬鹿ですか?」
「なっ!?」
「愛とは育むものです。お互いに存在を認め合い、支え合い、時に喧嘩し、仲直りしてその結果いつの間にか愛情が育っていくのです。それを理解できないから拒否するって阿呆の極み」
「阿呆の極み・・・は言い過ぎじゃないか?」
「では馬鹿の極み?」
「変わらないから」
はぁ、とため息をつかれてしまった。
「なんかどうでも良くなってきた」
憑き物が落ちたような顔。何やら嫌な予感がする。
「初対面での言葉を撤回させてくれ。すまなかった」
「謝罪はいりません。わたくしも衝動的に動いてしまい見したし・・・」
「その上で、頼みがある」
「嫌です!」
「俺と婚約してくれないか?」
「だから嫌ですって言ってんでしょうが! 人の話を聞きなさいませ!」
「幸せにするとは言えないが、支え合い、愛を育めるよう努力すると約束する!」
「お・こ・と・わ・り!」
「愛とは何かを教えてくれた君と結婚したいんだ!」
土下座しよう勢いだ。
断っているのに食い下がってきよる。
「わたくしにも当家にも利はありませんもの。先日のお見合いはただ、バーガンディー夫人の頼みだったからです。元々お断りするつもりでしたし、夫人からも会うだけで断って構わないと言われておりますので! ぜっっっっっったいにお断りいたします!!」
キョトンとした顔のブルーブラック令息。
「知らなかったんですか? 自分たちの散財の結果、財政難に陥って我が家の財産狙いで声をかけてきたんですよ?」
「散財? 財政難?」
「先程お話していたじゃぁないですか? 愛人に捨てられないように散財しまくっているんですよねぇ、お二方とも」
「そ、そんな・・・そもそもなんでそんなこと君が知ってるんだ?」
「お見合い相手の身の上調査は基本でしょう?」
そう、わたくしは知っていた。彼に恋人も居なければギャンブル癖や酒癖なども無いことを。でもそれって、普通は知っていても知らないふりをするのがマナーじゃないですか?
あなたの素行調査しました!なんて真正面からしかも初対面で言えないでしょ?
「わたくし、あの時も言いましたが貴方様に興味なくしましたの。だって身上調査結果と同じなんですもの。それに会話らい会話をしようともしない。一方的にこちらが貴方様を好いていると勘違いしていましたよね? だからあの言葉ですよね?」
「それは・・・そうだろう? 俺は学園ではモテてたし、家格も上だ!」
「全く好みじゃありませんわ」
「は?」
「わたくし、貴方様みたいなひょろっこい人よりがっしりとした騎士様みたいな筋肉質な方が好みなので!」
「ひょろっこい・・・? 筋肉質・・・?」
ブルーブラック令息は貴公子!といった長身で細身ではあるけれど、筋肉は大して付いていない。かと言って頭脳派という訳でもない。中途半端な見た目だけの(ナルシスト)貴公子なのである。
「あと、家格が上だからとなんですか? 当家の方が栄えてますし、顔も広いと思いますよ? 良くバーガンディー家やセレストブルー家、ビリジアン家等と仲良くさせて頂いております」
わたくしが出した名は社交界でも中心にいる人物たち。幼い頃からよく遊んでもらっている。各家の令嬢とは幼馴染で親友だ。
「なので、家格とかどうでもいいです。大切な友人達の方が重要です。それにジョンブリアン家の令息と今度お見合いする予定ですのでお引き取りください」
「ジョンブリアン家って・・・あの?」
「あの?も何も、他に無いでしょう? 実はジョンブリアン家とも幼馴染なんですよ。幼い頃に母についてお茶会に顔を出していたので。それにスィローは初恋なんです・・・」
頬を染めるサフィニア。
それはまさに恋する乙女だった。
すごすごと帰っていくブルーブラック令息。
その後、ブルーブラック家から再度婚約の申し立てがあったが、ジョンブリアン家との婚約が決まったと返事をしたら諦めたようだ。
かの家に睨まれたら社交界では生きていけないだろう。
今は豪商の娘との縁談を申し込んでいるとかいないとか・・・。
何はともあれ、初恋がかなったわたくしはウハウハだった。
スィロー・ジョンブリアンは騎士になるために鍛えていたので細身に見えるがしなやかな筋肉が程よくついており、片腕でわたくしを抱き抱えれるくらいなのだ! もう好き!
「サフィー? どうしたのかな?」
「スィローのとこを考えてましたの」
「私の事? 変なことじゃないといいんだけれど」
そう笑う彼がカッコよくて可愛くて好き!
「カッコイイはともかく、可愛いは余計かな?」
照れながら彼は言う。
「わたくし、声に出していました?」
「思いっきりね」
「あらまぁ、恥ずかしいわ」
「ついでに使用人に聞いたんだけど、私が初恋相手だったんだね。嬉しいよ。私もサフィーが初恋だったからね」
「もう! どの使用人ですの? そんな事を言いふらすなんて!」
「言わないよ。嬉しかったし、なにより使用人にも愛されているんだね。「お嬢様を幸せにしてくださらないと使用人一同不敬を覚悟で仕返しいたします!」って言われちゃった」
「不敬ですわ! でも嬉しく思ってしまうものですわね。どうしましょう?」
「良いんじゃない? 私も心を引き締められたからさ」
「スィローは優しすぎますわ!」
「サフィーに関すること限定だけどね?」
「もう! もう!」
照れるサフィニア。それを見て微笑むスィローと使用人達。
微笑ましい日々。
スィローは三男なのでヴァイオレット家へ婿入りした。
ちなみにわたくしには兄がいたのだが、セレストブルー家の令嬢と恋仲になり婿入りした。
最初は兄に嫁に来てもらい、親戚から用紙を取ると言っていたのだが、兄が「アリア(セレストブルー令嬢)も実家の方が安心だろう?」と言って婿入りして行った。
なのでわたくし(サフィニア)が家を継ぐことになってしまったのである。
スィローも慣れない事務作業を頑張って覚えてくれている。ふたりで支え合って好きから愛しているに変わるまで育みながら一緒に進んでいこうと思う。
[蛇足]
クルト・ブルーブラック令息は本当に見た目だけなので、商人受けは良かったようだ。商家に婿入りしてファッションモデルとして活躍しているとか後に聞くことになるのであった。
お読みいただき、ありがとうございました。
少しは暇つぶしになれたでしょうか? なれていたら幸いです。




