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CHAPTER24『雷鳴の果て、迎え撃つ霧の幻影』

鉛と化した右腕が――ついに、ヴィクターを捉えた。

死角から放たれた渾身の一撃。

避ける間合いは、もうない。

あとは――振り抜くだけだ。

勝敗を賭けた拳が、いま雷鳴の支配者へ叩き込まれる。







ヴィクターは、バレルへ振り下ろそうとしていた雷撃の軌道を、瞬時に変えた。


その矛先が――ジルへ向く。



バリバリバリッ!!



青白い雷光が、一直線に奔る。



だが――


突き出された鉛の右腕へ、雷撃は吸い込まれるように流れ込んだ。



「クッ……!――このまま……ぶち抜く!!」



ドゴォォォンッ!!



振り抜かれた鉛の拳が、吸い込んだ雷撃ごとヴィクターの顔面へ叩き込まれる。



バチィィィッ!!



雷光が炸裂し、鈍い衝撃が廃墟を揺らした。



ドガァンッ!!



ヴィクターの巨体が吹き飛び、背後の石壁へ激突する。



砕けた石片が、激しく飛び散った。



頭部から、血が流れ落ちる。




――だが。



ヴィクターは、崩れ落ちない。


二本の脚でなお立っていた。



「……はぁ……はぁ……」

ジルは肩で息をつく。


(……効いてないのか!?)


焼けるような痛みが、右腕を走る。

(グッ……もう、この腕は使えない……!)



物陰から、レクスがひょいと顔だけを覗かせた。

「……あちゃ〜」


額の提灯を指で小突き、肩をすくめる。

「こりゃあ、もう打つ手がねぇな」


乾いた笑みを浮かべる。

「さて……どうしたもんかねぇ」



ヴィクターは、殴られた頬をゆっくりと押さえた。

「……ふぅ」


血の混じる唾を、吐き捨てる。

「ちっと……油断しちまったか」



そう吐いた直後――



巨体が、ぐらりと揺れた。



片脚を半歩ずらし、どうにか踏みとどまる。



額から流れる血が、頬を伝って落ちた。




ヴィクターの目が、鋭く細まる。

(……それにしても、部下どもは何をしてやがる……!)



ヴィクターは顔を上げ、怒声を放った。

「テメェら! 出て来い!」



右腕に、再び雷光が灯る。

「侵入者どもを――血祭りにあげるぞ!!」



怒号が、旧配給所跡に響き渡る。



――だが。


返事はない。


物音一つ、返ってこない。



「……?」

ジルの眉がひそむ。


(誰に言っている……?)


ゆっくりと、周囲へ視線を巡らせる。

(……こいつの部下がいるのか……? だとしたら、もう勝ち目は――)



その刹那――



ヴィクターの側方。


積み上がった瓦礫の陰から、ひとつの影が音もなく滑り出た。



フッ――



気配すら残さぬ踏み込み。



次の瞬間。


ヴィクターの眼前に、ガレオンが現れていた。

「――」



細身の刀が、一閃する。



ザシュッ……!



目にも留まらぬ速さで放たれた突きが、ヴィクターの胸――心臓を正確に貫いた。



「!?」

ヴィクターの目が、大きく見開かれる。



「なっ……グ……!」

口元から血が溢れる。



震える手が、胸元の刀へ伸びた。


血を吐きながら、ヴィクターの目がガレオンを睨み上げる。

「……貴様が……本命か……」



「ガレオン……!?」

ジルが息を呑む。



ガレオンは冷えた眼差しのまま、刃をさらに押し込んだ。

「……フン。 大人しく死ね……!」



ヴィクターの全身を包んでいた青白い雷光が、ゆっくりと弱まっていく。



ピシ……。



ピシッ……。



やがて、完全に消えた。



膝が折れる。



巨体が、ぐらりと傾く。



そのまま――



ドサァッ……


ついに、地へ崩れ落ちた。




静寂が、旧配給所跡を包む。




ガレオンは無言のまま刀を引き抜く。



ズルッ……



鮮血が噴き、刃を伝って散った。



ひと振り。



シャッ――



刀身についた血が、闇へ飛ぶ。




ガレオンは、背を向けたまま低く呟いた。

「……終わったな」


そして、肩越しにジルたちを見やる。

「貴様ら――詰めが甘いぞ」



倒れたままのバレルが、顔だけを上げて睨む。

「……いるんなら、もっと早く出てきやがれってんだ……!」



ジルは荒い息を整えながら、ガレオンへ視線を向けた。

「……ガレオン。どこへ行っていたんだ?」



ガレオンは鼻で笑う。

「……フン」


顎で背後の廃屋を示した。

「この中に、こやつの部下が七人ほど潜んでいてな」


刀を軽く払う。

「……始末していた」



「……七人?」

ジルは息を呑んだ。



その横から、レクスがひょいと前へ出た。

「まぁ、何にしても助かったよ」


にやりと笑う。

「アンタが来なけりゃ、こっちは終わってた」



ガレオンは視線だけをレクスへ向ける。

「礼などいらん」


短く言い捨てると、踵を返した。

「……俺は戻る」


その声は、すでに次の戦場を見据えていた。

「今ごろ、沈黙の牙の軍勢が――我らの拠点へ攻め込んでいるはずだ」



肩越しに、満身創痍のジルたちを見回した。

「……貴様らは好きにしろ」


冷えた声が、静かに落ちる。

「こちらへ加勢に来ても――役には立たんだろうからな」



そう告げた次の瞬間――



その姿が、闇へ溶けるように掻き消える。


足音ひとつ、残さず。



「……あ、おい!」

レクスが手を伸ばす。


だが、返事はない。

「感じ悪りい野郎だな……逃げ足だけは早ぇけどよ」


額の提灯を揺らしながら、呆れたように肩をすくめた。



ジルは荒い息を整えながら、三人を見渡した。

「……俺たちも、一度アジトへ戻ろう」



バレルは顔をしかめたまま、鼻を鳴らす。

「……おう」


両脚に力を込め、ふらつきながらも片膝をつく。


そのまま、巨体を無理やり持ち上げた。

「チッ……まだ痺れやがる……」



レクスは倒れたヴォルグのそばへ駆け寄る。

「ヴォルグ! おい、大丈夫か〜?」



ヴォルグが薄く目を開けた。

「……お……うう……」


焦点の定まらぬ視線が、宙をさまよう。

「……レクスか……? ぼやけて見えないんだ……」



レクスはしゃがみ込み、ヴォルグの顔を覗き込む。

「そりゃあ、視神経をやられたかもなぁ」


軽く笑ってみせる。

「しばらくは安静だ」



ジルは周囲を警戒しながら、短く言う。

「急ぐぞ。ここは、いつ沈黙の牙の連中が来るかわからない」



「へいへい」

レクスがヴォルグの腕を持ち上げる。



するとバレルが無言のまま歩み寄り、その巨体でヴォルグをひょいと担ぎ上げた。

「……お前くれぇなら、軽いもんだ」


バレルはヴォルグを肩に担ぎ直し、鼻を鳴らした。



ヴォルグが力なく目を閉じたまま、かすれた声を漏らす。

「……すまないな……」



バレルは豪快に笑う。

「いいってことよ!」



その瞬間――



レクスが、ひょいとバレルの背中へ飛び乗った。

「そうだぞ、ヴォルグ。使えるモンは使わねぇと損だ。気負いする必要はねえぞ」


したり顔で言い放つ。



バレルの眉がぴくりと動く。

「……お前は降りろ」



レクスは即答する。

「嫌だね」


ちゃっかりと、背中で楽な姿勢を取る。

「俺も体中、痺れてんだ」



「ふざけやがって……!」

バレルが舌打ちする。



そのやり取りに、張り詰めていた空気がわずかに緩んだ。



そして四人は、崩れた旧配給所跡を後にし――ひとまず、アジトへと戻っていった。







時は遡る――



ジルたちがヴィクター討伐へ向かっていた、その頃。

監獄の深奥では、もう一つの戦場が――静かに幕を開けようとしていた。





深海監獄アビスロック 第二階層──霧の幻影の隠れ拠点



湿った石壁に囲まれた隠れ区画。

通路の奥に広がるその拠点には、張り詰めた空気が漂っていた。




「沈黙の牙が、本格的に動き出しましたねぇ……」

霧の幻影ナンバー2――アカヤガラ魚人のフクロウは、闇に溶け込むように佇みながら、低く呟いた。


挿絵(By みてみん)


影虎は玉座にもたれたまま、鼻で笑った。

「……フン。監獄にのさばる巨獣を駆逐する、良い機会だ」




その言葉が落ちた直後――


通路から、慌ただしい足音が響いた。




「影虎様、この拠点へ沈黙の牙の軍勢が接近中です!」

霧の幻影の兵が駆け込み、息を切らせて報告する。



「……来たか」


影虎は微動だにせず、淡々と問い返す。

「敵の指揮は?」



報告役の兵が、息を整えながら答えた。

「ローレンス。それに、グリードが同行しています」



その名を聞いた梟の口元に、冷えた笑みが浮かぶ。

「ナンバー2とナンバー3が揃って動いたとなると……単なる威嚇では済まされないねぇ」



影虎は静かに口元を歪めた。

「――ならば、誘い込んで迎え撃て」



厳かに落とされたその一言に、空気が張り詰める。



梟が、ゆっくりと口角を吊り上げた。

「御意に……」


細身の刀へ指を添え、低く嗤う。

「さあ、狩りの時間ですよ」




次の瞬間――



その姿は音もなく霧の奥へ溶けた。

残された兵たちは即座に散開し、迎撃の布陣へと走り出す。





沈黙の牙が兵を進め、霧の幻影が闇に潜む。

深海監獄アビスロック第二階層――その覇を巡る戦いが、幕を開ける。


《蒼海の解放軍》より、深海監獄から感謝を込めて。

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。


もし物語を面白いと感じていただけたら、

あなたの一票(=★評価・ブックマーク)が、

監獄で抗い続ける仲間たちの力になります。


▼作者Xはこちら

https://x.com/00aomiray00?s=21


これからも『半魚囚人ジル』をよろしくお願いします。

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