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二者連続

『強烈!しかしセカンド真正面!抜けていれば先制タイムリーでしたが、スリーアウト!』


 砂野の打球は海田へのライナー。四回も横浜は二者残塁で、残塁数は早くも9個目だ。



「……わかりましたよ。ペンギンズが投手も野手も時間をかけてプレーしている理由が」


 グラブや帽子を渡しに来たコーチに対し、吾妻は自分なりに見つけた答えを語る。そしてそれは当たっていた。


「やつらの狙いは嫌がらせです。試合が終われば勝敗に関わりなく水浦監督の胴上げですが、午後10時を過ぎれば鳴り物が使えなくなります」


「なるほど、歓喜の時間をできるだけ静かにやらせようってわけか。陰湿だな。そんなことを考えるやつは……」


 吾妻とコーチはペンギンズベンチにいるつばめを見た。何も言わなくても2人の考えは一致していた。


「あの問題児しかいないだろう」 「ですね」


 つばめの命令でテンポの悪いピッチングと徹底した粘り打ちが行われていた。ベンチに戻ったコーチによって、つばめの悪だくみはスターヒーローズの選手と首脳陣に広められた。



「……鳴り物を封じた程度では横浜ファンの熱気は抑えられませんよ」


「そうだろうな。だが私も少しは知恵がある。それ以外にも策はある」


 つばめも自分の狙いを徐々に明らかにしていった。吾妻がたどり着いた答えはつばめの作戦の一角に過ぎなかった。




『すでに球数は70球近く、しかも2打席連続で出塁した吾妻です。省エネピッチングが理想ですが、この四回裏の先頭打者はラムセス!ペンギンズが誇るクリーンナップが相手です!』


(どうせこいつらは勝ち負け度外視で粘ってくる。それならツーストライクまでは甘くてもいい!)


 山元はど真ん中に構えた。吾妻もそれに同意し、投球動作に入った。


「うおおおっ……えっ!?」


「フンッ!」


 ラムセスはフルスイング。いきなりの絶好球を見逃さず、しっかりと振り抜いた。



『レフトスタンド一直線!これは文句なし!ラムセスの豪快な先制ホームランだ!』


「ハハハ……ホームラン、ゲッツ!」


 初球攻撃に屈した形になった横浜のバッテリーだが、そこまで落ち込んでいない。すぐに前を向いた。


(……忘れてた。初回もラムセスだけは三球三振だった。外人に時間稼ぎのサインなんて出すはずがないもんな。失敗したよ)


(次からは外角低めの変化球オンリーだ。他のバッターは追いこむまで緩くていいが、こいつは駄目だ)


 力や読みで負けたわけではなく、ただの油断だ。打たれた原因がはっきりしているので同じミスはもうしない。気持ちの切り替えが早かった。




「………は?」 「嘘だろ……」


『三丸も初球打ち!ライト後退、フェンスについてジャンプ!しかし打球は落ちてこない、ホームラン!』


 最初の打席では7球粘った三丸が今度は普段通りの積極打法だ。この三丸に甘い球から入れば当然こうなる。


「よっしゃあ!つばめちゃんの作戦通りだぜ!」


(……作戦通りだと……?)


『ホームイン!二者連続ホームランで2対0!四回裏、試合が大きく動きました!』



 2球で2失点の異常事態に、スターヒーローズの内野手がマウンドに集まった。


「……罠か!これまでの全てが!」


「普通に戦えば完封負けもありえるお前に甘い球を投げさせるための……あの女の策略だ!」


 皆でペンギンズベンチのつばめを睨みつけるが、つばめは国村や三丸と話をしていたのでグラウンドを見ていなかった。吾妻たちはますます怒りに震えたが、セカンドを守る横浜の若き大黒柱、巻将悟は笑顔だった。



「まあいいでしょう、これくらいは。逆に言えば、こうでもしなけりゃスターヒーローズには勝てないってつばめ監督が認めちゃってる証なんですから」


 つばめが監督になっても対横浜戦だけは最後まで分が悪いままだった。他球団とは違い公の場で罵倒されていないのも、横浜は確かな実力があるチームだからだ。


「どうせ消化試合……力まないでいきましょーよ。今日負けちゃったとしても、1年間の頑張りが無駄になるわけじゃないんですから、堂々と喜べばいい!ほらほら、4000本のビールが待ってますよ」

 

 優勝が決まったことで昨日ほどの緊張はなかったが、負けて胴上げでは気分がよくないので、やはり勝ちたい。仲間たちの力みを巻は一瞬で解してみせた。



「……………」


 見ていないふりをしていたが、つばめの視線はマウンドに向けられていた。スターヒーローズとの公式戦はこれが最終戦だが、ペンギンズがクライマックスシリーズに進出してファーストステージを勝ち抜けば、再び戦うことになる。


(やはり横浜は巻のチームだ。やつが元気ならどこまでも波に乗る)


 巻を黙らせることが勝利の鍵だ。攻守に浮き沈みの激しい選手なので、たまたまスランプに突入してくれたらペンギンズは大喜びだ。しかしそれだけが頼みでは運任せすぎるので、つばめが実際的な対策を考える必要があった。




『悪夢の連続ホームランの後は3人で終えた吾妻!一方の市川はここからロングリリーフか?』


 裏の攻撃で市川に打順が回ってくるが、打席に立たせて3イニングか4イニングは投げさせる。すでに何度もこの形で使っていたので、今日もそうだろうと思われていた。


『あとひと伸び足りない、センターフライ!筒が倒れてワンナウト、次は5番の巻ですが……』


「……あれ?代えるの?」


 つばめが出てきた。ボールを受け取ったので、ピッチャー交代だ。


『ここでピッチャーを代えます!4人目はアンダースローの下田!巻に対して相性抜群の下田ではありますが、イニングの途中から登板となります』


 下田が苦手としている筒を市川に処理させて、右打者が3人続くところで満を持して下田を投入。理に適った選択に見えるが、まだ五回だ。


『ピッチャーを贅沢に使うつばめ監督!もし延長戦にでもなったら最悪です!』



(……あのままなら打てたのにな……)


 天敵の下田がマウンドに上がり、巻のテンションは下がった。練習して対策するよりも下田が先発の日はスタメンを外れたほうがいいと言い切れるレベルで打てない。それでも巻は横浜の中心にいる男であり、簡単に代えてもらうわけにはいかないのだ。


「ストライク!バッターアウト!」


 チェンジアップに全くタイミングが合わず、あっさり三振。続く宮碕も凡退し、つばめの細かい継投が一応成功した。



『五回は両チーム三者凡退!下田は打席に立ったので六回も続投!』


 下田が投球練習を始める。つばめはブルペンと連絡を取り、次のピッチャーの最終確認をした。


『バッターは山元!この後は左の境田、ピッチャーの吾妻と続きます!吾妻は100球を超えたので、無理をせずに交代かもしれませんが……』


 この回のスターヒーローズは下位打線だ。テンポよく片づけて攻撃に勢いをつけたいところなのだが、他でもないつばめが流れを悪くした。



『一塁に送られアウト!打席には境田が……あれ、つばめ監督が出てきました!またしてもイニングの途中でピッチャー交代だ!』


「……どういうことだ?」


「時間稼ぎはフェイクじゃなかったのか?」


 次はルーキー左腕の荘島だ。ここから先は左打者が多いが、ここまでつばめが左右を気にするのは珍しい。それ以外の目的、つまり試合時間の引き延ばしが狙いだろう。

 優勝候補横浜FU☓Kベイスターズ、いまだ最下位から抜け出せず

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