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トランスポートの使い方

芭蕉先輩を探して周囲を見回してみたものの、どこにもいない。

まさか、バグに思い切り轢かれて、ぺしゃんこになってしまったんだろうか。


目の前ではクー・Dとケット・Dが罵りあっている。


「あれしきの攻撃を躱せないとは、まったく嘆かわしいぞ、ケット・D」

「ケッ。躱せなかったんじゃなくて、あえて躱さなかったんだよ。吾輩は貴様のように、配下を残したまま尻尾を巻いて我先に逃亡したりせんのだ」

「誰が我先に逃亡したというのだ。そもそも、まっさきに逃亡したのは貴様がリーダーに任命した時枝じゃないか」


なんか、非難の矛先が僕に向きそうになっている。


「そもそも、中三川さんはどうして逃げなかったんですか? 余裕があったと思ったんですけど――」

「いやあ、美呼を置いて逃げられないでしょ」

「ちなみに新宅さんは?」

「華嵐ちゃんを置いて逃げられないから――」


それで仲良く轢かれてしまったのか。

じゃあ、別に僕のせいじゃないな。


それより芭蕉先輩は――。


「ただいま」


いた。

ちょうど戻ってきたところらしい。


「お帰りなさい。どこへ行っていたんですか?」

「ちょっと私の部屋まで」


このわずかな時間で――?


「あ、〈トランスポート〉を使ってみたんですか?」

「うん。いざという時に使えるものなのか確かめておきたかったから。使ってみてわかったけど、〈Transport〉で瞬間移動できるのは、私が行ったことがある場所だけみたい」


ありがちな設定だ。


「あと、多分だけど私以外も瞬間移動させられるかも」

「マジで?」

「なんだと?」


ケット・Dとクー・Dが言い争いが止まる。


「2人のは――ううん、2匹のは違うの?」

「だから、吾輩を差別するな。クー・Dはいいけど」

「デーモンの〈トランスポート〉は個人用だ」

「そもそも、弦音。なぜ貴様以外も瞬間移動させられると思った?」

「だって、画面に私以外の人形もあったから」

「ここにいる全員分か?」

「ううん。あったのは彩輝君の人形」

「彩輝の人形だけ?」

「あの、そもそも人形って何ですか?」


僕は気になって尋ねた。


「あ、そうだね。画面を見せるね」


芭蕉先輩がスマホを見せてくれる。

画面には学校の地図が表示されていた。

ただ、芭蕉先輩が以前に見せてくれた〈マップ〉とは違って、建物だけじゃなくてちゃんと校庭も表示されている。


でも、〈マップ〉の上位互換なのかというと、そんなこともない。

画面上に網が掛かっていて、見えない場所があるのだ。

というか、ほとんどの場所が見えない。


表示されているのは、芭蕉先輩が訪れたことのある場所だけだ。

それも基底世界で訪れたことのある場所。

具体的には女子寮の芭蕉先輩の部屋と共用部、それに校庭の一部だけ。


画面の中心には人形が表示されている。

赤い人形が1つ。

芭蕉先輩がそれをタップすると、ツールチップに「芭蕉弦音」と表示される。


すぐ隣りに青い人形が1つ。

芭蕉先輩がそれをタップすると、今度はツールチップに「時枝彩輝」と表示された。


「ね?」

「なんで、僕の人形があるんでしょう?」

「私に聞かれても困るけれど――」


僕と芭蕉先輩に関係する何かが条件になっているんだろうか。

でも、芭蕉先輩には昨日会ったばかりだから、関係らしい関係なんてほとんどない。

しかも、僕よりは関係の深そうな安峰さんとの間にはない関係。


まったく思い当たらない。


「理由はともかく、弦音の〈トランスポート〉で、本当に彩輝を移動させることができるのか確認したい。試してくれ」

「いいよ」


芭蕉先輩はそう言って僕の人形を長押しした。

僕の人形が宙吊りになって、ジタバタもがき始めた。

芭蕉先輩がスワイプさせると僕の人形を中心にしたまま地図が移動する。


「じゃあ、適当にこの辺で」


芭蕉先輩がもう1度僕の人形を長押しした。

すると、僕の足元に六芒星の紋様が現れた。


「わッ!」


そして、まばゆい光に包まれたかと思うと、次の瞬間には僕は少し離れた場所にぽつんと立っていた。

こんな感じで移動するのか。

小走りでみんなのところに戻る。


「本当に弦音以外も移動できるとは――。つまり、貴様の〈トランスポート〉は、決して吾輩のそれの下位互換じゃないということだな」

「役に立つかな?」

「ああ。貴様の持っているアプリの中ではいちばん使えそうだ」

「今日はあと1回しか使えないけどね」

「構わん。彩輝が〈ロールバック〉を使えばクォータは元に戻るからな」


その場合、自己紹介とかもやり直しになるけど。


「さて、弦音のアプリのロックを解除できたことだし、ネストに向かうぞ。貴様ら準備はいいな?」


ケット・Dの言葉に全員が頷く――クー・Dを除いてだけど。


「吾輩は帰るぞ」

「貴様には最初から聞いていない。じゃあ、誰か最後のバグを倒してくれ。遠いから飛び道具を持っているやつがいいな」

「じゃあ、私が倒していい?」


中三川さんが立候補する。

そういえば、中三川さんのアプリは知らないのばかりだった気がする。

僕は中三川さんのステータスを表示してみた。


  ――――――――――――――――

  名前         中三川華嵐

  ――――――――――――――――

  LV            13

  属性             善

  ――――――――――――――――

  分類          ユーザー

  性別             女

  年齢            18

  ――――――――――――――――

  電池           96%

  状態            正常

  ――――――――――――――――

  アプリ           4 ›

  ――――――――――――――――


前回、会った時からLVが1つ上がっているみたいだ。


  ――――――――――――――――

  ストーム       15 / 15

  ライトニング     15 / 15

  アンロック       3 /  3

  サンダーボルト     7 /  7

  ――――――――――――――――


アプリ一覧の中で僕が知っているのは〈アンロック〉だけだ。


「中三川さんのアプリ、使うところ見てみたいです」

「でしょ?」

「うーん。まあ、華嵐でもいいか」

「よーし。まずは〈ストーム〉!」


中三川さんがスマホを垂直に降る。

すると突然、暴風が吹き荒れて、空からは土砂降りの雨が降り出した。

雨はバグの上にだけ降り注ぐ――なんて都合のいいことはなくて、僕たちは一瞬でずぶ濡れになる。


「そして、〈ライトニング〉!」


雨に打たれながら、中三川さんがスマホを掲げ、空に向けてシャッターを切る。

直後、雷光と雷鳴が同時に落ちて、ズガーンとバグに命中した。

こっちはちゃんとバグにだけ当たるっぽい。


そうじゃなかったら、怖すぎる。


  ――――――――――――――――

  名前          ピルバグ

  ――――――――――――――――

  LV             0

  属性            中立

  ――――――――――――――――

  分類            バグ

  性別            不明

  年齢            不明

  ――――――――――――――――

  電池            0%

  状態            終了

  ――――――――――――――――


黒焦げになったバグはすでに終了していた。


「ワームホールが閉じるぞ! 全員、飛び込め!」

2025/03/16:誤記の修正

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