2つのピクトグラム
ほどなくしてバクゲキ・コンビの2人がケット・Dと一緒にやってきた。
遠くから中三川さんは両手で大きく、新宅さんは片手で小さく手を振っていたので、僕も会釈を返しておく。
「やっほー、時枝君」
「2人とも、お久しぶりです」
ケット・Dは肉球のある右手を挙げる。
「よう、彩輝」
「ケット・Dは1日ぶりだね」
「彼女さんも元気だった?」
中三川さんは安峰さんにも気さくに声をかける。
「元気だけど。でも、あたし、時枝とは別に付き合ってないよ」
「じゃあ、そっちが彼女さんだ?」
目ざとくでもないけど、中三川さんが芭蕉先輩を見つけて言った。
「そんなんじゃありません」と僕は否定する。
「こちらは僕の1個上の先輩の芭蕉弦音先輩です。お2人と同じで3年生です」
僕はバクゲキ・コンビの2人に芭蕉先輩を紹介した後、芭蕉先輩にも2人を紹介しておく。
「芭蕉先輩。こちらは中三川さんと新宅さんです」
「どーも。中三川華嵐です」
「新宅美呼です。よろしくお願いします」
中三川さんはビシっと敬礼、新宅さんはペコリと頭を下げた。
「芭蕉弦音です。よろしくね」
「なんというか、めちゃくちゃ美人さんだね」
中三川さんの言葉に新宅さんもうんうんと頷く。
芭蕉先輩は曖昧に微笑んだ。
「ちなみに〈アンロック〉を持っているのは中三川さんです。僕の〈ロールバック〉も中三川さんに解除してもらいました。新宅さんは僕の命の恩人ですね」
「命の恩人?」
「はい。前回、他のユーザーに殺されかけたことがあって、その時に助けていただいたんです。新宅さんは電池を回復できる〈バッテリー〉というアプリを持っているので」
「どうして電池を回復できると助かるの?」
「あ、その説明も必要ですね。基底世界では、スマホに表示されている電池がHPに相当する値なんです」
「じゃあ、私の Battery Level が減ったのは、さっき Pill Bug の攻撃を受けたから?」
「そうなりますね」
「でも、そもそも、ユーザー同士で争うことなんてあるの?」
「実は他のユーザーを殺すと、その人の持っていたアプリを奪うことができてしまうんです。それで、僕の〈ロールバック〉が狙われてしまって。もっとも、その人にも事情はあったんですけど」
「――レアなアプリを持つのも考えものね」
表情を曇らせる芭蕉先輩。
芭蕉先輩を安心させるために僕は補足した。
「あ、でも必ずアプリを奪えるわけじゃないみたいです。コモンは100%ですが、アンコモンは75%、レアは50%、神話レアは25%の確率です。それに、ペナルティもあって殺した相手のLVと同じだけLVが下がります。もし、LVが0を下回ってしまうと、スルーア・Dっていうデーモンがやってきて100%殺されます。芭蕉先輩はLVも高いので、仮に悪いユーザーに出会ってしまったとしても、意外と狙われないかもしれません」
「そうなのね。でも、気を付けた方がいいね」
「貴様、本当に禁忌に触れてしまったんだな。下手したら吾輩より詳しいんじゃないか?」
「ケット・Dから聞いたんだけどね。あと、クー・Dもか」
「クー・D?」
「犬のデーモンもいるんです」
そういえば、斜木はどうしているだろう――。
「弦音。それより、華嵐に貴様のアプリを解除してもらえ。ネストで役に立つアプリかもしれないからな」
「そうね。お願いしてもいい?」
「もちろん。スマホのホーム画面を出して」
「ちょっと待ってね」
芭蕉先輩がスマホのホーム画面を出す。
画面が見える位置に立っていたので、ちゃっかり覗かせてもらう。
「うお、英語だ」
中三川さんが驚きの声を上げる。
「――っていうか、未知のアプリ、2個もあるんだ?」
「さっき手に入れたの」
「マジで? そっちのクォータは?」
「1」
「おお。神話レアじゃないか」
「へえ、初めて見るよ。でも、まあ未知のアプリだから、コモンとかの方が逆に珍しいかもね。じゃあ、2個とも解除しちゃうね」
中三川さんが〈アンロック〉のアプリを開いて〈?〉のアイコンにカメラを合わせる。
表示されたダイアログの解除ボタンを中三川さんがタップする。
「はい。2個とも解除できたよ」
「ありがとう」
1個目のアプリは機内モードにする時の飛行機のようなアイコン。
ただ、モチーフは飛行機じゃなくて、飛行機のように両手を広げた人のピクトグラムである。
アイコンの下のアプリ名は〈Transport〉となっている。
2個目のアプリは直立した人のピクトグラムのアイコン。
オーラを身にまとっていて、アイコンの下のアプリ名は〈Trance〉となっている。
「〈Transport〉と〈Trance〉ね」
「〈トランスポート〉だと? どんなアイコンだ?」
背が届かなくて画面が見えないケット・Dがジャンプする。
でも、届かない。
「落ち着け。あたしが抱っこしてやるから」
見かねた安峰さんに抱っこしてもらっている。
スマホのホーム画面を覗いたケット・Dが言う。
「お。同じアイコンじゃないか。使い方がわかるかもしれん」
「どういうこと? 未知のアプリだよね?」
僕は思わずケット・Dに尋ねた。
「実は吾輩も持っているんだな、これが。ただ、吾輩のは隠しアプリだからクォータは無制限だけどな。弦音のはユーザーエディションといったところで、それで、未知のアプリの扱いなんだろう」
「なるほどね。ちなみに、どんなアプリなの?」
「アプリ名でわからないか? 普段、吾輩が移動に使っているアプリだよ」
六芒星が出るやつか。




