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「――助けて!」


女の子の声を聞いた気がして、僕は目を覚ました。


基底世界に転移するのもこれで4回目か。

でも、この寝覚めの悪さは何とかならないものか。

以前にケット・Dが精神を揺さぶって世界を行き来させるとか言っていたから、きっとそのせいなんだろうけど。


せっかく芭蕉先輩の部屋で眠っていたんだし、芭蕉先輩の声が起こしてくれればいいのに。

そんなことを考えながら、僕は突っ伏していた丸テーブルから顔を上げた。


椅子に座っていた安峰さん、ベッドに腰かけていた芭蕉先輩もそれぞれ目を覚ましたようだった。

保健室みたいにベッドが何台もないから、こういう転移の仕方になったのだ。


「ここは――もう基底世界?」

「そのはずです」


僕は芭蕉先輩に答えながら、スマホを手に取る。


「OSも〈SOS〉になっていますし」


スマホを手に取ったついでに僕は〈コール〉を開いてケット・Dに連絡する。

もちろんスピーカーモードだ。

部屋には僕たち3人しかいないし、そもそもここは基底世界なのだから。


「よお、彩輝」

「基底世界に着いたよ。ケット・D、いまどこ?」

「ちょうどノードA18に着いたところだ」


ノードA18?

聞き間違いだろうか。


「――E18じゃなくて?」

「A18だと言っただろうが」

「なんで、そんなところに?」

「華嵐と美呼をそっちに連れていくからに決まってるだろうが」


あ。A18って浅草駅か。


「そういえば、芭蕉先輩が未知のアプリ持ってたもんね」

「それもあるけど、ネストを潰す以上は総力戦でいかないとな」

「なるほどね」


ということは、ケット・Dの配下は僕たち3人にバクゲキ・コンビの2人を加えた5人で全部なのか。


「浅草線だと学校には東銀座から来るの?」


東銀座駅は浅草線の駅で、一応、築地南高の最寄り駅の1つになっている。


「東銀座というとノードA11か。まあ、そうなるかな」

「浅草からだと片道20分くらいだよね?」

「そのくらいかもしれん。もし、ワームホールが開いちゃったら、とりあえずバグを眠らせておいてくれ。弦音は初陣だから1匹くらい倒させてもいいけどな。それに、弦音はあとLV1上げれば新しいアプリを入手できるし。ただ、全部は倒すなよ。ワームホールが閉じちゃうからな」

「了解。じゃあ、そんな感じで対応しておくね」


通話を終えた僕に安峰さんが言う。


「あの2人も来るんだ?」

「そうみたい」

「誰かしら?」

「僕たちと同じ〈SOS〉ユーザーで、雷門高校の3年生です。1人は〈アンロック〉っていうアプリを持っていて、芭蕉先輩の未知のアプリのロックを解除してくれるはずです」

「そういえば、引き合わせてくれるって言ってたね」

「ですね。ケット・Dが2人を連れてくるまで時間がかかりそうですから、とりあえず、ワームホールを探しましょうか」


芭蕉先輩の部屋を後にした僕たちは、とりあえず校庭に出てみる。

学校付近にワームホールが出現するのはこれで3回目だけれど、過去2回はいずれも校庭に出現していたし。


案の定、僕たちは校庭にワームが蝟集している場所を発見した。


「ツカレタ――ツカレタ――」

「ツカレタ――ツカレタ――」

「ツカレタ――ツカレタ――」


ワームの群れの中心には巨大な穴が開いていて、その中に紫色の気体が渦巻いている。

このワームホールの先がネストに繋がっているのか。


「あれがマイナーワーム?」


芭蕉先輩が僕に尋ねる。


「そうです。〈スタット〉を使えば名前を確認できますよ」


僕がワームにスマホを向けながら答えると、芭蕉先輩も僕に倣う。

そして、芭蕉先輩は言った。


「マイナーワームのマイナーって Major / Minor の Minor じゃなくて、採掘者の意味の Miner だったのね」

「――え?」


確かにケット・Dは穴を掘るワームって言っていたけど――。


  ――――――――――――――――

  名前       マイナーワーム

  ――――――――――――――――

  LV             0

  属性            中立

  ――――――――――――――――

  分類           ワーム

  性別            不明

  年齢            不明

  ――――――――――――――――

  電池           64%

  状態            正常

  ――――――――――――――――


ステータス上、そう読み取れる情報はない。


「どうしてそう思ったんですか?」

「〈SOS〉の言語設定を英語にしてみたの。発音は一緒なんだけどね」

「なるほど。使いこなしてますね――」


さすがは帰国子女。

僕はちょっと感心したのだけれど、安峰さんは別の感想を抱いたらしい。


「出た。芭蕉の英語マウント」

「別にそういうつもりじゃないけれど――」

「あんたがどう思ってるかは関係ないし。周りはマウント取られたって思うんだよ。あんた、頭が英語モードになると会話の端々に英単語挟むから、女子の間でルーちゃんってあだ名で呼ばれてたじゃん。あれ、悪口みたいなもんだからね」

「――弦音のルを取ってルーちゃんじゃなかったの?」

「それなら、あたしの方がルーちゃんでしょ。流伽なんだし。どう考えても大柴のルーでしょ」

「――衝撃の Fact ね」

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