ネスト
翌朝、1時限目の後の休み時間に芭蕉先輩は早速2-Aの教室にやってきた。
「おい、見ろよ」
窓際の席に集まって雑談をしていた男子生徒4人の内の1人が、仲間を肘でつついて廊下の方に注意を向けた。
それで僕も、廊下から教室内の様子を窺っていたらしい芭蕉先輩に気付くことになった。
「誰? あの美人――」
「芭蕉とかいう人じゃね?」
「待って。俺、微笑みかけられた?」
いや、お前じゃない。
芭蕉先輩が視線を向けているのはどうやら僕みたいだ。
僕は席を立って芭蕉先輩に話しかけた。
「芭蕉先輩。おはようございます」
「おはよう。時枝彩輝君――であってるんだよね?」
「あっています」
「じゃあ、やっぱり昨日のあれは夢なんかじゃないんだね。安峰さんは? 今日、少し3人で話せないかなと思ったのだけれど――」
「午後から来るみたいです。〈リンク〉のメッセージが来てました」
「それなら、放課後がいいかな。ねえ、彩輝君。私とも〈リンク〉のID交換してくれない?」
芭蕉先輩からの思わぬ申し出に、僕は即答する。
「喜んで」
クラス中の視線を集めながら、僕はQRコードを芭蕉先輩に見せて〈リンク〉のIDを教える。
芭蕉先輩から猫のイラストのスタンプが送られてきた。
安峰さんと同じで芭蕉先輩も猫が好きみたいだ。
「それじゃあ、また放課後に」
芭蕉先輩はそう言って3年生の教室の方へ戻っていった。
そして、その放課後。
安峰さんも5時限目には学校に出てきて、僕たちは3人で集まることができた。
場所は女子寮の芭蕉先輩の部屋である。
「――昨日のことについてちょっと検索してみたの。でも、それっぽいページは全部消えてしまっていて、結局、何が書いてあったのかはわからなかったのよね」
「ケット・Dがそういう場合には消すって言っていたので、多分、消されちゃったんだと思いますよ」
「そう。やっぱり、他の誰にも知られてはいけないのね。利用規約に守秘義務についてそう書いてあったもの」
「そうみたいですね」
英語が読めなかったから、僕はろくに読んでないけど。
「私たちが戦うバグっていうのはどういう敵なの?」
「巨大な虫です。ただ、いろいろ種類がいるみたいですね。僕たちもまだ2回しか出動したことがないので、見たことがあるのは2種類だけです。その時は蠅と蛾でした」
「やっぱり、虫なのか。私、ちょっと虫は苦手なの」
「あたしも苦手。でも、そこまでキモく感じなかったんだよね。でっかいからかな?」
「そういうものなの――?」
そんな話を3人でしていたら、ケット・Dから着信が入った。
僕は通話に出て、スピーカーモードに切り替える。
「よお、彩輝」
「何かあったの? ケット・D」
「実はまたワームホール出現の兆候が見られたんだ」
「昨日の今日で?」
「そいういうこともある。出現予定地点は今回もノードE18付近だ」
「また学校付近ってこと? 偶然?」
そんな僕の疑問はケット・Dに一蹴されてしまう。
「そんなわけあるか。同じ場所にワームホールが繰り返し出現するのは、そこにネストが存在するからだ」
「ネストって?」
「ワームの巣のことだ。バグを倒してワームホールを閉じるのは場当たり的な対応で、根本的にはネストを潰す必要がある。今回はそのネストを潰したいと思っている。弦音が加わったからな。次の時刻同期は17:00だけど、3人で基底世界に来られるか?」
「僕は大丈夫だけど――」
安峰さんと芭蕉先輩に視線を送ると2人とも頷いた。
「2人とも大丈夫だって」
「よし。今、弦音の部屋か。同期ポイントはそこでいいのか?」
「うーん。芭蕉先輩、どうですか?」
「別に構わないよ」
「それなら、弦音の部屋から転移してくれ。今回は既定世界での活動時間が長くなるかもしれんからな――」
2025/01/25:誤記の修正




