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アローの使い方

「〈マップ〉はもう閉じていいかしら?」

「うん。サンキュー」


芭蕉先輩が〈マップ〉を閉じる。

ホーム画面には4つのアプリが並んでいる。


〈アロー〉は右向きの矢のアイコン。

〈マップ〉はピンのアイコン。

〈ダブルアロー〉は右向きの矢2本のアイコン。

〈?〉は未知のアプリのプレースホルダーだ。


「この〈アロー〉というのは、どういうアプリなの?」


芭蕉先輩がアプリを開きながらケット・Dに聞いた。

〈アロー〉、それと〈ダブルアロー〉は確か新宅さんも持っていたアプリだ。


「〈アロー〉は攻撃アプリだよ。〈スタット〉と一緒でカメラ系のアプリだ。フォーカスしてボタンを押すと矢が当たる。フォーカスできてないとそもそも矢が出ないから外れることはない。ちなみに〈ダブルアロー〉は〈アロー〉強化版だ。〈アロー〉の2倍の威力がある。ただ、ボタンを2回押す必要があって、2回ともフォーカスできてないと矢は出ない」

「どこかで試せないかしら?」

「今日のところは無理だな。外にいるワームはアンチワームといって、他のワームを食ってくれる善良なワームだから倒さない方がいい」

「そうなの? でも、あれが学校を壊滅させるんでしょう?」

「そのくらい許してやれよ」

「――話が違う」

「吾輩はいずれ壊滅するとは言ったけど、すぐに壊滅するなんて言ってないぞ。今回はもう彩輝と流伽がワームホールを閉じちゃったから、弦音の出番はないってだけだ。次回からは弦音にも出動してもらう」

「ワームホール?」

「マイナーワームっていう穴を掘るワームがいて、そいつらが開ける大穴のことだよ。厄介なのはそのワームホールから出てくるバグってやつなんだ。そいつを放置するとこんな学校なんて一瞬で壊滅しちゃう。だから、ワームホールを何とかすることが貴様らの最優先のタスクであって、アンチワームなんて放置でいいんだよ」

「そう。一応、納得しておくわ。それで、最後の〈?〉っていうアプリは何?」

「それは未知のアプリだ。だから、吾輩にも何のアプリなのかはわからん。セキュリティ上の問題で〈SOS〉にロックされちゃうから、開くこともできないしな。アプリを開くにはロックを解除する必要がある。今度、ロックを解除できるユーザーに引き合わせてやるよ」


そうやって芭蕉先輩の部屋で話をしている間に、時刻は18:50を過ぎていた。

僕の体感ではもう少し時間が経っていたのだけれど、〈ロールバック〉を2回も使っているせいだろう。


「そろそろ、次の時刻同期の時間だな。彩輝と流伽は同期ポイントに戻ったらどうだ?」


肉球のある手に持ったスマホに目をやりながら、ケット・Dが言った。


「そうだね」と僕は答える。


「私はどうすればいいの?」

「弦音が最後に目が覚めた場所はこの部屋か?」

「――そうね。さっき少しベッドに横になっていたから」

「それなら、その場所が同期ポイントだ。19:00の時点で同じ座標にいろ。さもないと転移に失敗する」

「わかったわ」


芭蕉先輩は神妙に頷いた。


「そうしたら、僕たちはこれで失礼しますね」

「うん。またね、2人とも。続きは明日にでも3人で話しましょう」

「なんだ? 吾輩を仲間外れにするつもりか?」

「別にそういうつもりじゃないけれど。ケット・Dは私たちの世界に来られるの?」

「吾輩の権限的に無理だな。でも、まだ聞きたいことがあるなら、この場で聞けばいいじゃないか。彩輝と流伽の同期ポイントなら明日まで観測は発生しないから、別に時刻同期のタイミングを1、2回逃したところで別に問題ないぞ」

「そうなの? でも、最終下校時刻は19:30でしょう?」

「なんだそれ?」


首を傾げるケット・D。

僕は思わず「そうじゃん!」と声を上げていた。


帰宅部だったから、そんなものの存在をすっかり忘れていたけれど、校舎が自動施錠される時刻である。

19:00の時刻同期のタイミングを逃してしまうと、その次は20:00だろうか。

それだと校舎が閉まった後で、先生に怒られちゃうぞ。


「帰ります! 安峰さんも急いで!」


僕は安峰さんを急かして、芭蕉先輩の部屋を飛び出した。


時刻は18:52。


あまり走りたくなさそうな安峰さんを引っ張って、僕は保健室へと急ぐ。

先公上等な安峰さんと違って僕は優等生なのだ。


保健室に駆け込んだのが18:57。

そのままベッドにダイブすると、どっと眠気が押し寄せてくる。


どうやら時刻同期に間に合った。


そうやって元の世界に戻った僕たちは、部活動で遅くまで学校に残っていた何人かの生徒たちに紛れて校舎を滑り出た。

校門を出る前に女子寮の方に目をやると、芭蕉先輩の部屋に人影が見えた。

ちゃんと芭蕉先輩も元の世界に戻れたようだった。

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