合言葉
「――彩輝君。起きて」
芭蕉先輩に揺り起こされて、僕は目を覚ました。
目の前には芭蕉先輩。
なんという素晴らしい目覚めなんだ。
ちょっと感動している僕に芭蕉先輩は言った。
「起きたね。そうしたら、私に合言葉を教えて?」
「――合言葉?」
僕は思わず聞き返した。
すると、芭蕉先輩は微笑んだ。
「それなら、これは1回目なんだね」
芭蕉先輩はそう言った後、僕に合言葉を教えてくれた。
「合言葉は『見るなのタブー』だよ」
見るなのタブー。
鶴の恩返しに出てくるような「絶対に見ないでください」というお約束のことだ。
約束を破ると、妻に殺されそうになったり、夫に殺されそうになったり、塩の柱になってしまったりと、古今東西、もうひどい目に遭うのだ。
そのくせ、この約束が守られたことは、古今東西、多分1度もないんじゃないだろうか。
約束が守られちゃったら物語にならないし。
でも、何でそれが合言葉?
というか、何のための合言葉なんだろう?
「さあ、時間を巻き戻してみて」
「もうですか?」
「うん。彩輝君が本当に時間を巻き戻せるのか確認したいの」
なるほど、そのためか。
時間を巻き戻した後、僕は今回と同じように最初に合言葉を聞かれる。
僕はそれに答えることで、時間を巻き戻せることを一応は証明できるわけだ。
それなら、きっと合言葉自体は何でもよかったのだろう。
ひょっとすると、芭蕉先輩はゾンビプロセス症候群でも恐れているのだろうか。
僕はそんな症候群があったことすら忘れていたけれど、確かにケット・Dの言う通り、僕がいる限り、今後はもう恐れる必要のないものだ。
「――わかりました」
僕はホーム画面から〈ロールバック〉を開いて実行ボタンを押した。
そして、僕は眠りに落ちる――。




