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個人情報

「あなたが彩輝君?」

「あ、そうです。はじめまして。2-Aの時枝彩輝と言います」

「はじめまして。私は3-Fの芭蕉弦音だよ。それで、ケット・Dが言っていることはどこまで本当なの?」

「わりと本当のことを言っていると思います」

「――そうなのね。彩輝君はもう〈SOS〉をインストールしているのよね?」

「はい」

「あたしもインストールしてるよ」

「そう。ちょっと実際の画面を見せてもらうことはできるかな?」

「いいですよ。こんな感じのOSです」


安峰さんよりも近くにいた僕が、芭蕉先輩にスマホのホーム画面を見せた。

芭蕉先輩のしなやかな指先がスマホを握る手に添えられて、僕は思わずドキリとしてしまう。


「この〈ロールバック〉が時間を巻き戻せるアプリ?」

「はい。最後に目が覚めた時点まで時間を巻き戻すことができます」

「それは今朝の時点までという意味?」

「いえ、違うと思います。基底世界に転移するためには眠る必要があるので。だから、今、僕が〈ロールバック〉を使用した場合には18:00まで時間が巻き戻るはずです」

「時間が巻き戻った後、記憶はどうなるの?」

「僕の記憶だけは残ります」

「彩輝君以外は時間が巻き戻ったことを認識できないのね」

「そうなりますね。ただ、僕に〈スタット〉を使用すれば僕のステータスを表示できます。そのアプリ一覧から〈ロールバック〉のクォータが確認できますので、僕が時間を巻き戻したかどうかだけなら誰でも知ることができると思います」

「ステータス――。じゃあ、そこに個人情報も表示されるわけね?」


そういえば、芭蕉先輩はさっき個人情報について気にしていたっけ。


「そうですね。個人情報というと氏名と性別と年齢ですかね。他にはLVとか健康状態みたいなのとか」

「ステータスは相手が〈SOS〉をインストールしていなくても表示できるのものなの?」

「そう思います」


ワームやバグの情報も閲覧できたし。


「実際、どうなの? ケット・D」

「表示できるぞ」

「つまり、私のステータスも君が見ようと思えば見えちゃうのか。それって、ちょっと怖いアプリだね――」


怖いアプリか――。

芭蕉先輩に言われるまで考えもしなかったけれど、確かにそうだ。


「そう言われてみると、そうですね」


相手の個人情報を勝手に閲覧することができるアプリなんて、元の世界だったら絶対に許されないだろう。


「できれば、私のステータスは見ないでほしいかな」

「わかりました。見ないようにします」

「それと、さっき言ったクォータだっけ? それは何のこと?」

「アプリには使用回数制限があるんです。元の世界に戻ればまた回復するみたいですけど」

「〈ロールバック〉は何回使えるの?」

「3回まで使えます」

「3回か――」


芭蕉先輩は少し考え込むような仕草を見せた後、ケット・Dに向き直った。


「〈SOS〉をインストールするのは構わないわ。でも、明日ではだめかしら?」

「なんで明日なんだ?」

「この後、何らかの理由で彩輝君が時間を巻き戻して、今の私の記憶が失われてしまうと困るから。今の私は、私が知りたかったことを知ることができている。明日になればその記憶は確定するんでしょう? その上で確認したいことがあるの」

「別に明日にならなくても、あたしの〈スリープ〉なら、今すぐ時枝を眠らせることができるよ」

「そう。そんなこともできるのね。彩輝君は今日はまだ時間を巻き戻してはいないの?」

「はい。今日はまだ巻き戻していません」

「それなら、今日でもいいわ。お願いできるかしら?」

「オーケイ。時枝、使っていい?」

「うん。いいよ」


安峰さんが僕にスマホを向けてボタンを押す。

そして、僕は眠りに落ちた。

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