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芭蕉先輩

芭蕉先輩は僕たちは部屋の中に案内した。

綺麗なワンルームの部屋だった。


「それで、ケット・Dは何から私を助けてくれるの?」

「いい質問だ。カーテンを開けて窓の外を見てみろ」


ケット・Dに言われて、芭蕉先輩は部屋のカーテンを引いた。


「何か黒いのが動いてる――。それもたくさん。あれは何?」


芭蕉先輩が声を上げる。

校庭を這い回るアンチワームを目にしたのだろう。

もう外は暗くなっているから、どんな姿をしているのかまでは見えないだろうけど。


「ワームだ。このままでは貴様の学校はいずれ壊滅する。吾輩は困らないけど、貴様は困るんじゃないか?」

「そうね。また留学しないと――」

「違うだろ! 戦うんだよ!」

「――私が?」

「そうだ」

「でも、ただの高校生の私にいったい何ができるの?」

「まずはスマホに〈SOS〉をインストールしてほしい。そうすれば、貴様はスーパー女子高生になれる」

「〈SOS〉?」

「スマホのOSだ」

「オペレーティング・システム? 最初のSは何?」

「さあ? スーパーとかじゃないか?」


ケット・Dはしれっと噓をつく。

〈SOS〉は〈ソウル・オペレーティング・システム〉の略だったはずだ。

最初のSはソウル――魂だ。


「アカウントは実名で登録する必要があるから、貴様の氏名と生年月日を教えてくれ」

「――芭蕉弦音。2019年11月3日生まれ」

「一意に特定できた。今、ライセンスを発行したぜ」


バイブレーションの音。

芭蕉先輩がスカートのポケットからスマホを取り出す。


「画面の指示に従ってインストールを完了してくれ」


ケット・Dに促された芭蕉先輩だったが、どうやら僕と一緒で利用規約が気になったらしい。

ただ、僕と芭蕉先輩とでは決定的に違うところがあった。

芭蕉先輩は英語がスラスラ読めたのだ。さすがは帰国子女。


「どうした? 早くしろよ」

「さっきの Abbreviation についてなんだけど Soul Operating System の略の間違いじゃない? ここに小さく書いてある」

「あれ? そうだったっけ?」


ケット・Dはすっとぼける。


「この一部の Personal Information が他のユーザーに Disclose されるというのは?」


芭蕉先輩は頭が英語モードになっているのか、英語交じりの日本語で話す。


「氏名とかだよ。そこまでセンシティブな情報は公開されないって」

「この Responsibilities のところだけれど、インストール後はあなたの Dispatch Instruction には従わないといけないのね?」

「ちゃんと吾輩は要望を聞くぜ。出動命令を出すことなんてないって。めったに」

「この Base World 上で活動している間に Derived World 上の Synchronization Point を Observe されると2度と帰れなくなるというのは?」

「同期ポイントで観測が発生しそうな場合には、吾輩が毎回ちゃんとその時刻を知らせる。だから、派生世界に帰れなくなることなんてないって。めったに」

「この1%の Probability で発症する Zombie Process Syndrome っていうのは何? すごいことが書いてあるけど――」

「ああああ!」


芭蕉先輩の質問攻めに、ケット・Dが肉球のある手足をジタバタさせて怒り出した。


「ごちゃごちゃとうるせえな! さっさとインストールしろよ! いいか? ここにいる彩輝は時間を巻き戻せるんだ! 仮に同期ポイントが観測されようが、ゾンビプロセス症候群を発症しようが、そんなのは全部ノーカンなんだよ、ノーカン!」


そんなケット・Dに、芭蕉先輩は氷のような眼差しを向ける。

ケット・Dは信頼を失ったらしい。

こんな態度を見れば当然だけど。

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