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「次の記憶は、安峰に叩き起こされたところから始まる。目の前では、床に倒れた時枝が俺に向かって叫んでいた。安峰に代わって俺に止血をしろと。時枝が死ねばスルーア・Dというデーモンが俺を殺しにやってくる。だから、死なせるなと。状況が理解できない俺に時枝は言った。時間を巻き戻せるのは最後に目を覚ました時点で確定したと。だから、もう詰んでいると。そして、安峰にはもう俺を眠らせるなと釘を刺した。時枝がまったくのでたらめを言っているとも思えなかった俺は、一応、止血を代わってやることにした」


これは僕が忘れている僕の話だ。

今回の斜木は僕がそんなことを言う前に止血を代わってくれていた。


「時枝のステータスを見ると状態は終了中で、電池が徐々に減っていった。時枝は安峰に浅草から新宅を連れてきてくれるように頼んだものの、結局、戻ってくる前に時枝は死んだ。俺は念願の〈ロールバック〉を入手したものの、時枝の言葉が真実だとしたら、もう使う意味はなかった。だから、俺はそのスルーア・Dとやらの顔を拝んでやろうと思った。そのデーモンは――本当にやってきたんだ。ふと気配を感じて後ろを見ると、巨大なメンフクロウが俺の肩に止まっていて、そいつが俺の中の何かをむさぼり食い始めた。振り落とそうとしても、切り払おうとしてもすり抜けてしまう。ふいに全身から力が抜けるのを感じて、俺は慌てて自分のステータスを確認した。表示は黄色。電池が20%を切っていた。それが0%になってしまう前に俺はだめ元で〈ロールバック〉を実行した。すぐには何も起きなかった。俺はそのままスルーア・Dに食い殺された。そこでまた俺の記憶はいったん途切れる」


憑依状態で〈ロールバック〉を使うとそうなるのか。

僕が〈ロールバック〉を使った時には眠りに落ちる感覚があるけれど、憑依状態が優先して休止状態に遷移できないのだろう。


「次の記憶は、また安峰に叩き起こされたところからだった。時枝の言ったことが真実だったと俺は理解した。同時に八の死が確定したこと、そして、このままだと時枝が死んで俺も死ぬことも理解した。ここで初めて、俺と時枝の間に協力関係が生まれることになったんだ。八を生き返らせる計画が阻止された以上、俺に時枝と敵対する理由もないからな。すぐに俺は時枝の止血を安峰から代わり、安峰が浅草から2人を連れてきた。その後は、お前たちが知っている通りだ」


斜木の話を聞き終えて、バクゲキ・コンビの2人は斜木に同情を寄せているように見えた。

同じく幼馴染である2人には、少なからず共感することがあったのかもしれない。


安峰さんの表情は変わらない。

その安峰さんが最初に口を開いた。


「斜木。あんた、何1つ上回るものがなかったって言ったけど、全然そんなことなかったのにね」


斜木はフンと鼻で笑う。


「お前が俺の何を知っているんだ?」


安峰さんは何も言わずに、斜木の頭上をまっすぐに指差した。

スルーア・Dのトラウマからか、斜木は慌てた様子で後ろを振り返る。

もちろん、そこにスルーア・Dなんかいない。


「身長。バカなんじゃないの?」


それから、安峰さんは「――帰ろう。時枝」と言って、僕の手首を掴んで歩き出した。

僕は安峰さんに引っ張られながら、バクゲキ・コンビに改めてお礼を言った。


「新宅さん、ありがとうございました。中三川さんも」


ついでに、斜木にも。


「斜木も。また、いつか――」


そして、僕たちは大江戸線の改札に向かって歩き出した。


改札を通る時になって、僕は安峰さんが涙を流していることに気付いた。

安峰さんが泣くの見るのは、その時が初めてだった。

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