表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/60

動機

「桐崎八というユーザーがいた。小学校からの俺の幼馴染だ。チャンバラごっこの延長で通った剣道教室で知り合ったのが最初で、同じ学校の同じ学年。家もわりと近所だと知ってすぐに仲良くなった。だが、俺はいつの頃からか、八に対して密かにコンプレックスを抱くようになっていたんだ。八はイケメンで女子から人気があった。学校の成績はいつも学年1位。剣道1本で部活に打ち込む俺とは対照的に、八は部活の掛け持ち。それなのにインターハイ出場。俺には何1つ八を上回るものがなかったんだ」


斜木は、なぜかそんな桐崎の話から説明を始めた。


「そんなある日、俺たちが通う渋谷八高にワームが現れた。俺たちは犬っころに出会って〈SOS〉をインストールした。俺たちが入手したのは同じアプリだった。LV2になってもそうだ。2回目の出動で、俺たちはLV4になった。そこで初めて違うアプリを入手した。八が入手したアプリは〈ブレーク〉。俺が入手したアプリは〈ダブルスラッシュ〉だった。犬っころに言わせると〈ダブルスラッシュ〉はアンコモンのアプリらしい。何1つ八に勝てなかった俺が、ついに基底世界で八を上回るものを手に入れることができたんだ。俺は浮かれていたのかもしれない」


まだ桐崎の話をしている。

僕から話すと長くなると思って斜木に説明を譲ったのだけど、斜木の話も結構長くなりそうだ。


「今日、時枝たちと別れた後、俺と八は競うようにしてワームの駆除に向かった。早くLV8になって新しいアプリを手に入れたかったからだ。今回、ワームホールから飛び出してきたバグは3匹だった。まず俺が1匹、次に八が1匹を狩った。最後の1匹だ。俺は〈ダブルスラッシュ〉でそれを狩ろうとした。〈スラッシュ〉では3回攻撃しないと倒せない固いバグだったが、〈ダブルスラッシュ〉なら1撃だった。ただ、〈ダブルスラッシュ〉は発動が遅い。その間に、八がバグの前に回り込もうとしていた。俺は――そこにスマホを振り下ろしてしまったんだ。八は『ドンマイ。大丈夫』と笑っていた。『声をかけなかった俺も悪い』と。でも、俺は回り込もうとしている八に気付いていたんだ。八にバグを取られたくなくて、俺は焦ってスマホを振り下ろしたんだからな」


斜木の話を聞きながら、僕はなんだか嫌な予感がしてきた。

なんで、斜木はこんなに桐崎の話ばかりをするんだ――?


「八は明らかに大丈夫じゃなかった。結局、そのまま死んだ。その後の記憶は曖昧だ。気が付くと俺は、駅のコインロッカーの辺りに座っていて、俺は自分のスマホをぼんやりと眺めていた。次第に頭がはっきりしてきた時、俺は自分の目を疑ったよ。通知が来ていたんだ。八を殺したこと。LVが5も下がったこと。そして、LV8になってもいないのに、なぜかアプリを入手したこと。実際にホーム画面には〈ブレーク〉が増えていた。八が持っていたアプリだ。それで俺は知った。他のユーザーを殺すと、そいつが持っていたアプリが手に入るんだってな」


桐崎を殺してしまった後、斜木は殺した相手のアプリを入手できる仕様を知った――。


「時枝たちが戻ってきたのはそんな時だった。八が死んだことを2人に伝えたら、時枝はすでに知っているという。誰から聞いたのかと思えば、俺から聞いたのだという。時枝たちは浅草まで未知のアプリのロックの解除に行っていて、それが〈ロールバック〉というアプリで、時間を巻き戻せるアプリだったらしい。八のことも時間を巻き戻す前に俺の口から聞いたのだと。それにも関わらず八は死んだまま。理由を聞けば、〈ロールバック〉で時間を巻き戻せたのは、たったの5分だけだったと。あともう少しだけ巻き戻せる時間が長ければと思ったよ」


そうか。

僕はこの時点で桐崎の死は確定したものだと思い込んでしまっていた。

でも、そうじゃなかったんだ。


「2人は1度どこかへ行った後、また戻ってきた。俺に帰ると声をかけた後で、2人は近くで気になる話を始めたんだ。時枝のアプリで巻き戻せるのは、実は5分前じゃなくて、10分前か、最後に目が覚めた時点か、あるいは、最後に電車で移動した時点なんじゃないかと。そして、その場で検証を始めるといって安峰が時枝を〈スリープ〉で眠らせた。その瞬間、俺の脳裏に悪魔の計画が閃いたんだ。八を殺して〈ブレーク〉を入手できたように、時枝を殺せば〈ロールバック〉を入手できるんじゃないか。俺が基底世界の上野広小路で目覚めたのはその30分以上も前だ。時枝ではなく俺が〈ロールバック〉を使えば、八が生きていた時点まで時間を巻き戻せるんじゃないか。ふとそんな考えが頭をよぎった。時枝は俺のすぐ目の前で眠っていて、ちょうど安峰が時枝を起こしているところだった。魔が差したといえばそうなんだろう。俺はそんな2人に切りかかっていた。真っ先に安峰を殺すつもりだった。〈スリープ〉が厄介すぎる。だが、決断が1秒遅かった。目を覚ました時枝に阻止されてしまった。時枝が安峰を庇って倒れた直後、安峰に〈スリープ〉を使われてしまい、そこで俺の記憶はいったん途切れる」


斜木にとっては、桐崎の死が確定したのはこの時点だったんだ――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ