詰み
「安峰さん、斜木を起こしてくれない?」
「何言ってんの!? あんた、あいつに殺されかけたんだよ!」
「もう斜木は襲ってはこないよ。少なくとも僕が助かるまでは。つまり、僕が助かる方法を思いついたんだ。だから、僕を信じて。僕は君を助けるために、この時間にわざわざ2回も戻った君のヒーローだよ?」
僕がそう言うと、安峰さんの行動は早かった。
「――起きろ! ボケ!」
安峰さんに前蹴りを食らって、床に尻餅をついた斜木が目を覚ます。
その斜木に向かって僕は叫んだ。
「斜木! 安峰さんに代わって僕の止血をしろ! お前が生き残る唯一の選択肢は、僕をこのまま死なせないことだ――!」
このまま僕が死ねば、斜木は50%の確率で〈ロールバック〉を入手する。
同時にスルーア・Dが斜木を殺しにやってくる。
初回、斜木はスルーア・Dになすすべなく殺されてしまったけれど、いろいろなアプリを使って撃退を試みていた。
それなら〈ロールバック〉だって試してみるはずだ。
時間を巻き戻した先で、斜木は再び安峰さんに叩き起こされる。
そして、目の前には瀕死の僕――。
つまり、斜木はもう詰んでいる。
この状況で安峰さんに眠らされたことで、斜木は完全に詰んだのだ。
「僕が死ねばスルーア・Dがお前を殺しにやってくる! 負けイベントだ! 絶対に勝てないし逃げることだってできないぞ――!」
僕が最後まで言い終わる前に斜木の方から駆け寄ってきていた。
「止血を代わる。どけ!」
斜木が安峰さんから止血の役目を奪い取った。
でも、安峰さんよりもちょっと下手だ。
「ほら、ちゃんと止血してよ。僕が死んじゃうでしょ」
「――ああ。わかってる」
「何なの――?」
安峰さんは状況の変化にまったくついていけていない。
「安峰さん。浅草まで行って新宅さんを連れてきてくれない? 僕を助けられるアプリを持っているんだ」
「あとでちゃんと説明してくれるんでしょうね?」
「もちろん。まだA4出口付近にいるはずだから。さっき別れた場所の近く。なるべく急いでほしいけど、間違っても改札は飛び越えないようにね」
「まかせて」
安峰さんが銀座線の改札の方に向かって走り出す。
その場には僕と斜木だけが残された。
「もしかして、スルーア・Dに会ったの?」
僕が尋ねると、斜木は「――会った」と答えた。
どうやら、斜木は50%の確率を引き当てて〈ロールバック〉を入手できたらしい。
「状況を整理する時間が必要だった。それで時間切れだ。何なんだ、あれは?」
「だから、負けイベントだよ。LVが0を下回って悪墜ちすると殺しにやってくるんだ」
「そういう仕様か――」
どれほど時間が経っただろう。
まだ、安峰さんは戻ってこない。
ふいに僕の体から急に力が抜ける感覚があった。
ステータスを見ると表示が黄色になっている。
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名前 時枝彩輝
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LV 2
属性 善
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分類 ユーザー
性別 男
年齢 17
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電池 20%
状態 終了中
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アプリ 2 ›
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省電力モードに切り替わったらしい。
それでも電池は徐々に減っていく。
「――少し休むよ」
「ああ」
僕は目を瞑った。
僕の意識が次第に遠のいてく――。




