決意
「それじゃあ、またね」
バクゲキ・コンビが帰ろうとしている。
「あ。最後にもう1つ聞いていいですか?」
「何?」
「ケット・Dから連絡があった時、中三川さんと新宅さんはどこにいました?」
「浅草駅のA4出口だよ」
「あれ? さっき別れた場所の近くにまだいたんですね?」
「うん。ケット・Dに出口の封鎖を解除してもらえないと出られないからね」
そうだった。
ケット・Dがカーネル空間に呼び出されてしまったから、2人は浅草駅で足止めされていたのか。
「それなら、浅草まで呼びに行けば助けてもらえますね」
「もちろん。でも、次回はちゃんと彼女を守るんだよ」
「別に彼女じゃないんですけど――なんとかしてみます」
僕はそう言ったものの、明確なプランはまだない。
「それじゃあ、今度こそまたね」
2人は銀座線の方に消えていった。
「――時間を巻き戻すのか?」とケット・Dが聞いてきた。
「うん。だけど、ただ戻っても意味がない。今回より上手く立ち回る必要があるんだ――」
まず、斜木の〈スラッシュ〉から安峰さんをどう守るか。
そのままの位置にいれば安峰さんは終了する。
僕が場所を動かしてやる必要がある。
斬撃のエフェクトは向かって左上から右下に生じるわけだから、右側に逃がすのは危ない。
左奥に突き飛ばす、あるいは左手前に引っ張る。
実際、僕にできるのはそのくらいだ。
それなら、左奥に突き飛ばす方が無難だろう。
斜木はそのまま目の前の僕を狙うはずだ。
でも、僕はぎりぎり躱すことができる位置に立っている。
攻撃を躱した後、僕は安峰さんには銀座線で浅草駅に逃げるように言う。
浅草駅にはバクゲキ・コンビの2人がいる。
逃げやすいように安峰さんの前に爆弾を投げて、煙幕を張ってやってもいい。
そうしておいて、僕が逃げるのは大江戸線の改札内。
それなら、斜木は僕を追ってくるんじゃないだろうか。
「ケット・D。1度改札に入った場合って、すぐに出ることはできるの? 僕たちの世界だと引っかかるけど」
「基底世界でも引っかかるよ。入ったからには電車に乗ってもらう必要がある。言っておくが、改札を飛び越えようとしても無駄だぞ」
「――うん。それができないのは知ってる」
「まさか試したのか? 吾輩の貴重な補給源をなんだと思っているんだ」
「緊急事態で日比谷線の改札内に逃げようとしただけだよ。入れなかったけど」
「サブネットHかよ。そっちはクー・Dの管轄だからどうでもいい。むしろ、飛び越えてみろ」
改札に1度入ったら出られない。
これはデメリットのようでもあるが、メリットでもある。
僕が斜木を大江戸線の改札内におびき寄せることができれば、それだけでも安峰さんの安全は確保されるわけだ。
あとは、見えない壁の仕様について検証しておくか。
僕は試しに改札内に爆弾を投げ込んでみた。
爆弾は見えない壁に跳ね返されることなく、改札内に転がって爆発した。
「こら! ノードE09を壊すつもりか! 八つ当たりか?」
「そうじゃないよ。爆弾も見えない壁に跳ね返されるのかを知りたかったんだ」
「爆弾を投げる前に吾輩に聞けばいいだろうが。あれに跳ね返されるのはユーザーだけだ」
「ケット・Dは平気で僕を騙すからなあ――」
「人聞きの悪いことを言うな!」
僕は改札に入った。
念のため、改札内から改札外にも爆弾を投げてみる。
ちゃんと改札外に転がって爆発する。
「いい加減にしろ!」
「ごめん。でも、今ので爆弾の検証は最後だから」
「まったく。どうせ時間を巻き戻すからって好き放題やるとは――」
プラットフォームまで階段で降りてみる。階段に併設されているエスカレーターは上り専用である。
車両3つ分ほど離れた場所に、改札階に上がるための階段がもう1つ設置されていた。
2つの階段の間にはエレベーターもある。
改札内は逃げる方が圧倒的に有利かもしれない。
もう1つ階段の方にも上りのエスカレーターが併設されていて、それに乗って改札階に上がってみると、安峰さんのすぐ近くの位置に出た。
フェンスを挟んだ向こうに安峰さんが倒れている。
そんな安峰さんの姿を見て、僕は決意を新たにする。
僕が助けるんだ。
これは僕にしかできないことだ。
スマホのホーム画面から〈ロールバック〉を開く。
実行ボタンを押した僕は眠りに落ちる。
勝負だ――!




