バクゲキ・コンビ
クー・Dが斜木の死体を確認しに行った後、しばらくしてバクゲキ・コンビの2人が銀座線の方からやってきた。
新宅さんだけでも大丈夫だったけれど、中三川さんも一緒に来てくれたようだ。
時刻は15:40。
2人の表情は暗い。ケット・Dから概要を聞かされているのだろう。
「急に呼び出してしまってすみません」
「ううん。まさか、出会った日にこんなことになるなんてね。でも、どうして美呼を?」
「1つは、新宅さんが〈バッテリー〉っていうアプリを持っていたのを思い出したんです。もしかしたら、電池を回復できるアプリなんじゃないかと」
「そういうことか。確かに美呼の〈バッテリー〉は電池を回復できるアプリではあるんだけど――」
中三川さんがチラッとケット・Dに視線を送る。
「――流伽の魂を呼び戻すことは不可能だ」
ケット・Dが言葉を引き取った。
「1度シャットダウンしてしまうとメモリがすべて失われる。つまり、記憶が戻らない。外見は流伽と同じでも中身はスッカラカンになってしまう。いくら流伽の頭が元からスッカラカンだったとしても、それは貴様の望むことではないはずだ」
「そっか――」
僕はうつむいた。
今回の安峰さんは、もう助けることはできないらしい。
「ねえ、時枝君。1つは――って言ったけど、他にも美呼に確認したいことがあるってことだよね?」
「はい。もう1つあります」
僕は中三川さんに答えた後で新宅さんの方を向いた。
「新宅さん。僕にまた〈オラクル〉を使ってくれませんか? 僕の〈ロールバック〉がどの時点まで時間を巻き戻せるアプリなのかを確認しておきたいんです」
「わかりました。お役に立つのでしたら喜んで」
新宅さんがバキバキのスマホを僕に向ける。
「降りたまえ」
新宅さんがスマホを取り落として憑依状態に遷移する。
「ヘイ、モノシリ!」
「音声対話型AIを起動しています。しばらくお待ちください――」
新宅さんの両目がくるくる回る。
「お待たせしました。時枝彩輝さん。何か質問をどうぞ」
「〈ロールバック〉は、最後に電車で移動した時点まで時間を巻き戻せるアプリですか?」
「質問を受領しました。全知全能の神に質問に対する回答を要求しています――」
また新宅さんの両目がくるくる回る。
「回答を受領しました。今の質問に対する全知全能の神の回答は――偽です。時枝彩輝さん。〈ロールバック〉は、最後に電車で移動した時点まで時間を巻き戻せるアプリではありません」
新宅さんの憑依が解けた。
「――どうでしたか?」
「僕が期待したアプリじゃなかったみたいです。すみませんが、もう1回使ってもらえますか?」
「わかりました」
新宅さんがバキバキのスマホを拾い上げてまた僕に向ける。
心なしか、その手に力が入っている。
もしかして、スマホを落とさないように頑張っているんだろうか?
「降りたまえ」
力を込めてボタンを押した新宅さんは、結局、スマホを取り落とした。
「ヘイ、モノシリ!」
「音声対話型AIを起動しています。しばらくお待ちください――」
新宅さんの両目がくるくる回る。
「お待たせしました。時枝彩輝さん。何か質問をどうぞ」
「〈ロールバック〉は、最後に目が覚めた時点まで時間を巻き戻せるアプリですか?」
「質問を受領しました。全知全能の神に質問に対する回答を要求しています――」
またまた新宅さんの両目がくるくる回る。
「回答を受領しました。今の質問に対する全知全能の神の回答は――真です。時枝彩輝さん。〈ロールバック〉は、最後に目が覚めた時点まで時間を巻き戻せるアプリです」
新宅さんの憑依が解けた。
「――どうでしたか?」
「確認できました。〈ロールバック〉は、最後に目が覚めた時点まで時間を巻き戻せるアプリみたいです」
「よかったです。また私でお役に立てることがあったら言ってくださいね」
「ありがとうございました」
僕は新宅さんに頭を下げた。
恐れていた通り、安峰さんを助けるためには、僕は斜木に切りつけられるあの瞬間に戻らなければいけないらしい。
最後に電車で移動した時点まで時間を巻き戻せるアプリなら、どうとでも対処できたのだけれど――。
2025/02/02:誤記の修正




