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デッドライン

その場に斜木の死体を残して、僕は靴を履きなおして来た道を急いで引き返した。

A8出口前まで戻れば、あとはまっすぐ1本道。


遠くの廊下の床に人が倒れているのが見えた。

近付けば近付くほど、それが安峰さんなのだとわかってしまう。

安峰さんに駆け寄りながら、僕はスマホを向けた。


  ――――――――――――――――

  名前          安峰流伽

  ――――――――――――――――

  LV             0

  属性            中立

  ――――――――――――――――

  分類          ユーザー

  性別             女

  年齢            18

  ――――――――――――――――

  電池            0%

  状態            終了

  ――――――――――――――――


ステータス表示の色は赤。

安峰さんはすでに終了してしまっていた。


時間を巻き戻すべきだ。

頭ではわかっている。


でも、〈ロールバック〉が最後に目が覚めた時点まで時間を巻き戻せるアプリだった場合、僕は安峰さんが切りつけられる瞬間に舞い戻ることになる。


もっとも、そうなったとしても、理屈の上では今回と全く同じ行動を取れば、また生き残ることはできるだろう。

ただ、忘れてはいけないのは、安峰さんが息絶えたどこかのタイミングで、斜木が〈スリープ〉を入手してしまうということだ。


今回、斜木は〈スリープ〉を使ってこなかった。

スルーア・Dに驚いた僕が腰を抜かしてスマホまで手放していたせいかもしれない。

あのタイミングでスルーア・Dを見て、今回と全く同じように驚けるだろうか?

演技だと見抜かれたらそれで終わりだ。

〈スリープ〉を使われてしまう。


せっかく生き残れたこの状況で、仕様もわからずに〈ロールバック〉を使うのは、無謀な賭けなんじゃないだろうか――。

どうにかして仕様を検証したい。


新宅さんに〈オラクル〉を使ってもらって、モノシリに聞くのはどうだろう?

クォータはあと2つ残ってたはずだ。

この状況を確定させてしまいたくはないから、僕からは新宅さんに会いにいけない。

ケット・Dに頼んで、新宅さんにここまで来てはもらえないだろうか。


そんなふうに新宅さんのことを考えていた時、突然、僕の脳裏にあることが稲妻のように閃いた。


多分、雷門高校の生徒だったからだろう。

バクゲキ・コンビの2人は、それっぽいアプリを持っていたのだ。

中三川さんは〈ライトニング〉と〈サンダーボルト〉。

新宅さんは〈バッテリー〉。


〈ライトニング〉や〈サンダーボルト〉はこの際、置いておこう。多分、攻撃アプリだ。

気になるのは〈バッテリー〉の方。名前からして電池の残量――すなわち魂の残量を回復させるアプリなんじゃないか?

クー・Dは魂の残量が0%になった時、スマホがシャットダウンするように人生が終了すると言っていた。

でも、スマホならシャットダウンしたとしても充電すればまた起動できる。

新宅さんなら、そもそも安峰さんを復活させることができてしまうんじゃないだろうか。


やっぱり、ケット・Dと連絡を取りたい。

僕はもう1度〈コール〉を開いて、ケット・Dを呼び出してみた。

でも、繋がらない。

何度か試してみたけれど、ケット・Dに全く繋がらなかった。


僕は焦りだしていた。

1つのデッドラインを過ぎようとしているのだ。

時刻は15:19。

安峰さんが僕に〈スリープ〉を使ったのは14:59。

目を覚ました僕の目の前で安峰さんが斜木に切られたのは15:00ちょうどくらいだろう。

もしも〈ロールバック〉が10分前まで時間を巻き戻せるアプリだった場合に、2回連続で使っても安峰さんが生きている時間に戻れなくなってしまうのだ。


僕は〈ロールバック〉を開いた。

まだ間に合うかもしれない。


でも――。


僕に実行ボタンを押す勇気はなかった。

時刻は15:19。

それが、15:20に変わった。


無理だよ。

10分前なんて、多分、3番出口に隠れている頃じゃないか。

そんな最悪のタイミングに時間を巻き戻してしまって、もしも〈ロールバック〉を連続で使用できなかったら?


ただの犬死にだ。

僕はケット・Dの配下なのだから、そんな死に方は許されないんだ。


まだ大丈夫。

新宅さんの〈バッテリー〉がある。

それに〈ロールバック〉だって、最後に電車で移動した時点まで時間を巻き戻せるアプリかもしれないんだ。

2025/01/18:表現の修正

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