スルーア・D
改札機のブザーの音が聞こえた。
改札を通ろうとした斜木が引っかかったらしい。
続いて、ドンという鈍い音と「ぐおッ――!」という呻き声。
僕と同じように改札を飛び越えようとして失敗したのだろう。
改札を通れないと知った斜木が、3番出口の方に足音が向かってくる。
僕が隠れているとすれば、あとはここしかないのだから当然だ。
心臓が高鳴る。
足音が止まった。
僕が柱の陰に仕掛けた靴に気付いたに違いない。
足音がゆっくりと近付く。
斜木の姿が――見えた。
「うわあああああ!」
僕は思わず叫び声を上げていた。驚きのあまりにスマホまで手放してしまう。
柱の陰に僕が隠れていると思い込んでいたであろう斜木が、慌てて僕の方に振り向く。
「――土壇場で何びびってんだよ。チキンか?」
そういう斜木も顔が引き攣っている。
どうせ僕が上げた大声でびびったんだろう。心臓バクバクに違いない。
「せっかく仕掛けた罠も台無しだな」
僕が斜木の姿に驚いたとでも思っているのだろう。
実際、僕は腰を抜かしてしまって、斜木の背後を指差すだけで精いっぱいだったが、内心では思っていた。
僕がチキンなんじゃない!
お前がトリつかれているんだよ!
「――あ?」
僕を警戒しながら、斜木が肩越しに背中を見る。
斜木がようやく気付いたその背中には、さっきから巨大なメンフクロウがずっと止まっていたのだ。
メンフクロウは不自然なほど首を傾けて斜木を見返している。
「うおおおおお! なんだこいつは!?」
斜木がバッと振り返るが、メンフクロウを振りほどくことはできない。
攻撃しようとしても、すり抜けてしまって全然効いていないらしい。
メンフクロウが水飲み鳥のように体を前に傾けて、斜木の胸に嘴を突っ込む。
何かを啄み、咀嚼する。
「何なんだよ! 離れやがれ!」
斜木が背中から柱に体当たりする。
だが、メンフクロウは壁さえもすり抜けてしまい、斜木自身が背中をしたたか打ちつけただけに終わった。
僕は震える手でどうにかスマホを拾い上げ、〈スタット〉を開いてメンフクロウにカメラを向けた。
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名前 スルーア・D
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LV 0
属性 中立
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分類 デーモン
性別 不明
年齢 不明
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電池 100%
状態 正常
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デーモンだ。
だが、同じデーモンでも愛嬌のあるケット・Dとは一線を画しているし、クー・Dなんか目じゃないくらいに怖い。
斜木のステータスは――?
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名前 斜木双葉
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LV 2
属性 悪
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分類 ユーザー
性別 男
年齢 17
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電池 42%
状態 憑依
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アプリ 5 ›
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状態は憑依。
新宅さんが見せた神憑りのような状態ではなく、これは悪霊憑きのような状態か。
めったに拝めないという状態異常を1日に2度も見ることができるなんて、まさにツいているじゃないか。
LVは2に上がっている。
でも、属性は悪に変わったみたいだ。
アプリは5個に増えている。
やっぱり、LVが2ⁿになったからなんだろうか。
増えたアプリは――。
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スラッシュ 12 /15
バックスラッシュ 14 /15
ダブルスラッシュ 4 / 7
ブレーク 14 /15
スリープ 15 /15
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〈スリープ〉――?
これって、安峰さんが持っていたアプリじゃないか。
最初に増えていた〈ブレーク〉もそうだけど。
いや、〈ブレーク〉なら桐崎だって持っていた。
まさか――。
他のユーザーを殺した場合、そのユーザーが持っていたアプリを奪えるのか――?
桐崎を誤って殺してしまったことで、斜木はその仕様に気付いた。
それに味を占めたのか!
でも、こんなデーモンに憑依されたってことは、きっと斜木はやりすぎたんだろう。
スルーア・Dに啄まれるたびに、斜木の電池がみるみる減っていく。
斜木が顔面から床に倒れ込んだ。
眼鏡のレンズが外れてフレームがひしゃげる。
体をピクピクと痙攣させた後で、斜木は終了したようだった。
ステータス表示の色も赤に変わっていた。
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名前 斜木双葉
――――――――――――――――
LV 0
属性 中立
――――――――――――――――
分類 ユーザー
性別 男
年齢 17
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電池 0%
状態 終了
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スルーア・Dがこちらを向いた。
僕と目が合うと、スルーア・Dは首を傾げた。
まさか、僕のことも食うつもりなのか――?
しばしの睨み合い。
スルーア・Dの首が正位置に戻った。
そして、ホウという鳴き声をひと声だけ残すと、スルーア・Dは透明になりながら飛び去って、虚空の中に消えた。




