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スラッシュの使い方

「――時枝。起きて」


安峰さんに揺り起こされて、僕は目を覚ました。


目の前には安峰さん。そして、安峰さんの背後にはなぜか斜木の姿があった。

ライトが点灯したスマホを握りしめた腕。

それをしならせるようにして振りかざし、僕たちに襲いかかってくるその姿だ。


血飛沫が舞うのを僕は見た。

僕の血じゃない。安峰さんの血だ。


斬撃のエフェクトに切られたのだ。僕の目の前で。

斜木が持っていた〈スラッシュ〉だろう。

僕はぎりぎり躱せたけれど、斜木に対して背を向けていた安峰さんには躱すことなんてできるはずがなかった。


僕が眠ってから目を覚ますまでのわずかな間に、いったい何が起きたというんだろう?


ぐったりと倒れた安峰さんの背中から流れた血が、床の上に広がっていく。

すでに顔色が悪い。


〈ロールバック〉を使わないと――。


いや、だめだ!


もしも、〈ロールバック〉が最後に目が覚めた時点まで時間を巻き戻せるアプリだとしたら、僕は1分前にも戻れないことになる。

〈ロールバック〉はあと2回しか使えない。

使うとしても、この状況を突破できた時――あるいは突破できなかった時だ。


とにかく情報が欲しい。


「なんでこんなことを――?」


僕はこっそり〈タイムボム〉を開いてタイマーを5秒から1秒に変更しておいてから言った。


「そう聞くってことは、これが最初なのか? だが、これから死ぬやつに話すと思うか?」


斜木が切りかかってくる。

僕は至近距離から自爆覚悟で爆弾を投げつけた。


「うおッ――!?」


爆発で吹っ飛んだ斜木が床に叩きつけられる。

僕も反対方向に吹っ飛ばされた後、すぐに起き上がって斜木に背を向けて走り出した。


通路を走りながら、僕は〈スタット〉で安峰さんのステータスを確認しようとした。

が、爆煙でフォーカスできなかった。


無事を祈るしかない――。


「待ちやがれ!」


煙の中から飛び出した斜木が、猛然と追いかけてくる。

僕は〈タイムボム〉のタイマーをデフォルトに戻して、爆弾を投げておく。


わずかな足止めこそできたものの、その爆弾は斜木の〈スラッシュ〉に切り捨てられてしまった。

爆発することもなく、爆弾が消滅する。

不意を衝かない限り、斜木に〈タイムボム〉でダメージを与えるのは難しそうだ。


ただ、爆煙が生じなかった結果、代わりに僕は斜木のステータスを表示することができた。


  ――――――――――――――――

  名前          斜木双葉

  ――――――――――――――――

  LV             1

  属性             善

  ――――――――――――――――

  分類          ユーザー

  性別             男

  年齢            17

  ――――――――――――――――

  電池           68%

  状態            正常

  ――――――――――――――――

  アプリ           4 ›

  ――――――――――――――――


状態はあくまでも正常。

気が狂っているとしか思えないのに。


別れる前に見た時から変わった点はといえば、斜木のLVが1になっていることだ。

桐崎を殺してしまったペナルティだろうか。


あれ?


アプリが4個に増えている。

LV4だった斜木が次のアプリを入手するのはLV8のはず。

それとも、2⁰は1だからLV1に下がった場合にもまた新しいアプリを入手できるんだろうか。


増えたアプリは――。


  ――――――――――――――――

  スラッシュ      13 /15

  バックスラッシュ   15 /15

  ダブルスラッシュ    5 / 7

  ブレーク       15 /15

  ――――――――――――――――


〈ブレーク〉か。


斜木のステータスを確認しながら走っていた僕は、大江戸線の改札前を通り過ぎていた。

もっとも、電車に乗って逃げる案は却下だ。


最後に目が覚めた時点まで時間を巻き戻せるアプリ。

最後に電車で移動した時点まで時間を巻き戻せるアプリ。


そのいずれかのアプリだった場合に、この状況を確定させることになってしまう。


そのまま券売機の前も走り抜けて、日比谷線の仲御徒町駅方面へ。


まだしばらく直線が続く。

足止めのために、タイマーを短くした爆弾を後ろに投げておく。


そうしておいて、僕は走りながら〈コール〉を開いてケット・Dを呼び出す。

斜木の蛮行を言いつけてやる。

だが、ケット・Dは電波の届かないところにいるらしい。


猫の手も借りたいって時に!


A8出口はシャッターが下りている。3・4番出口の方へ。

エスカレーターを2つ駆け上がると、日比谷線の改札があった。

その先には3番出口があったが、こちらもシャッターが下りていて外には出られない。


行き止まりだ。


とりあえず、日比谷線の改札に入るしかないか。

改札機にスマホをかざした僕だったが、ブザーが鳴って扉が閉まってしまう。

でも、今は緊急事態だ。


僕は改札の扉を飛び越えようした。

もっとも、その企ては失敗した。


「痛ッ――」


見えない壁に弾かれて、僕は床に転ばされていた。


日比谷線の改札内には入れないのか。

そうなると、改札外のどこかに隠れて斜木をやり過ごすしかなさそうだ。


僕は床から起き上がると、行き止まりの3番出口の方に引き返した。


3番出口前のスペースは、真ん中に柱がある。

隠れるとすればあの柱の陰だろう。

あそこなら左右どちらから回り込まれても、その反対側から逃げることができる。

だが、逆に言えば見え透いている、か――。


僕は一計を案じて、靴を脱いで柱の陰に置くことにした。


斜木が近付いてきた時、わざと靴の先が見えるくらいの位置に。

これで、斜木は柱の陰に僕が隠れていると思い込むはずだ。

実際、そこに隠れるのがベストなのだから。


僕は行き止まりの3番出口の階段を少し上ったところに隠れておく。

そして、斜木が柱に近付いたところを爆弾で吹っ飛ばす。


斜木の足音が聞こえてきた――。

2024/12/15:誤記の修正

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