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モノシリ

「美呼は神社の娘なんだよね。だから、こんなアプリをインストールできたんだと思う。雷門高校も宗教系でしょ? 美呼はね、大学も神道系に進む予定なんだ。祝詞とか言われても、私にはチンプンカンプンだよ」

「普通に東大とか目指してるのかと思ってました」

「そんな大学に進んで、あんたの将来は大丈夫なわけ?」


安峰さんが聞く。

冷めた目をしているように見えるけど、これは実は心配している時の目だ。

でも、僕はどちらかというと安峰さんの将来の方が心配だけど。


「そうなんだよね。だから、私も迷ってたんだ。でも、時枝君が背中を押してくれたからさ。あたしも目指すよ。女性宮司」

「そんな重大な決断だと知っていたら、僕は背中を押しませんでしたが?」

「なんて、うそうそ。同じ大学を受けるにしても、さすがに学部は別の学部にするよ。それに、ほら、今は時枝君のアプリの話でしょ?」


中三川さんが話を元に戻す。


「〈オラクル〉の使い方はさっき説明した通りだよ。質問が決まったら『ヘイ、モノシリ』って呼びかけてね」


僕は〈オラクル〉の仕様について考え込んだ。


僕に関する質問――という条件は〈ロールバック〉について聞く分には満たしているだろう。

僕がインストールしているのだから。むしろ、僕以外は誰も条件を満たしていない。

新宅さんが僕に対して〈オラクル〉を使用したのはそれが理由だろう。


ただ、イエスかノーで答えられる質問――という条件が厳しい。

〈ロールバック〉は何のアプリですか? と尋ねることはできないわけだ。イエスかノーで答えられない。

〈ロールバック〉は〇〇ができるアプリですか? と尋ねなければならない。


しかも、質問ができるのは1回。

クォータは3だから3回か。


ノーヒントだったらかなり難しかっただろう。

でも、中三川さんがロックを解除してくれたおかげで、今の僕は3つのヒントを手にしている。


まずは〈ロールバック〉というアプリ名。直訳すれば「巻き戻し」だ。

そして、時計のアイコン。反時計回りの矢印。

それから、画面に表示される現在の日付時刻――。


「ひょっとすると、時間を巻き戻せるアプリかもしれません」

「おいおい、そんな機能だったらすごいことだぞ」


ケット・Dが興奮気味に言う。


「そんなに?」

「ワーム出現前まで時間を巻き戻せるとしたら、派生世界どころか基底世界そのものを復旧できるだろうが」

「――なるほど。でも、そうかなと思っただけで、全然違うかもしれないよ」

「そうしたら、さっそくモノシリに聞いてみよう!」


中三川さんが僕を促す。


「そうですね」


僕は新宅さんに向かって「ヘイ、モノシリ!」と呼びかけた。


すると、新宅さんが顔を上げた。


「音声対話型AIを起動しています。しばらくお待ちください――」


新宅さんの声とは違う、大人の女性の声が僕に応えた。

抑揚のない声だ。


両目がまるでローディング中のアニメーションのようにそれぞれくるくると回っている。

その両目が止まった。


「お待たせしました。時枝彩輝さん、何か質問をどうぞ」


ロボットのようなぎこちのない挙措で、新宅さんが僕に手のひらを向ける。


「質問します。〈ロールバック〉は、時間を巻き戻せるアプリですか?」

「質問を受領しました。全知全能の神に質問に対する回答を要求しています――」


新宅さんの両目が再びくるくると回り始める。

先ほどよりは長く回った後、その両目がまた止まる。


「回答を受領しました。今の質問に対する全知全能の神の回答は――真です。時枝彩輝さん。〈ロールバック〉は、時間を巻き戻せるアプリです」


そう言い終えると、新宅さんは憑依状態から解放されたようだった。


「マジで時間を巻き戻せるアプリなのか――」


ケット・Dが呟く。


「――どうでしたか?」


スマホを拾い直した後、新宅さんが僕に尋ねた。


「教えてもらえました。時間を巻き戻せるアプリみたいです」

「そうでしたか。お役に立ててよかったです」

「ありがとうございました。中三川さんも」


僕は2人に礼を言った。


「さっそく使ってみるわけ?」


安峰さんが僕に聞く。


「うーん。必要になったらかな」

「気にならないのか? 使ってみたらどうだ?」

「僕だって気にはなるけど。でも、巻き戻す時間を選べる仕様じゃないみたいなんだ」

「ほう」

「そうなると、どこまで時間が巻き戻るかわからない。理由もなく今日をやり直すはめになったら、それはそれで面倒じゃない?」

「それは困るよ!」


なぜか、中三川さんが口を挟んできた。


「どうして中三川さんが困るんですか?」

「そんなことになったら、クイズ百万長者が放送中止になっちゃうじゃん!」


新宅さんもうんうんと頷いている。

なるほど。仮に時間を巻き戻した後、僕たちに〈ロールバック〉の機能についての記憶が残っていれば、わざわざ〈オラクル〉を使ってもらう必要もないわけだ。

ロックを解除してもらうために浅草駅までは来る必要があるだろうけど。


「――確かに」


どうでもいい気がするけど。


「そうしたら、吾輩たちはノードG15に戻るか。華嵐も美呼も、わざわざ来てくれてすまなかったな」

「いいってことよ」


バクゲキ・コンビと別れた僕たちは、銀座線の改札に戻った。

改札を再び通って反対側のプラットフォームに向かう。


電車はすでに停車している。

時刻は14:42。


電車に乗り込んだ僕は、また眠り込んでしまって、目が覚めた時にはそこは上野広小路駅だった。

2025/02/14:誤記の修正

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