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対価

「さて、彩輝――」


ケット・Dが僕に向き直って言った。


「ノードE09での出動はなくなった。代わりに吾輩たちはノードG19に移動するぞ。隣接するノードA18にアプリのロックを解除できるユーザーを呼び出しておいた」

「ノードG19とノードA18っていうと――?」

「浅草駅だ。サブネットGを使って移動する。本当はサブネットEを使いたいんだけどな。ノードE11とノードA17が隣接しているから」

「それって蔵前の話をしているの?」

「そうだよ」

「浅草なら銀座線の方が早くない?」

「早いも何もそれしか方法がないという話だ。ノードE11とノードA17は地上乗り換えだろう? でも、エンドポイントは封鎖されているから地上には出られないんだ」

「さっきみたいに開けられないの?」

「他に手段がある場合には開けちゃいけないことになっているんだよ。あれこれ理由つけて頻繁に封鎖を解除してたら、ワームが入ってきちゃうかもしれないだろう? 1匹でも中に入れてしまえば、そのノードは壊滅する」

「なるほど――」

「ただ、サブネットGを使う場合には問題がある。サブネットEとサブネットAは吾輩の管轄だけど、サブネットGは吾輩の管轄ではない。吾輩がクー・Dに頭を下げるのは癪だから、貴様から頼んでくれ」


デーモン同士もいろいろ大変らしい。


「クー・D。銀座線に乗せてくれない?」


僕はクー・Dにため口で話しかけた。

強そうに見えるけど実際には弱いみたいだし。

それにクー・Dに対して僕が敬語を使ったら、ケット・Dの面子を潰してしまう。


「すでにサブネットGは稼働中だ。吾輩の配下を運ぶために必要だからな。乗りたければ勝手に乗ればいい」

「そうなんだ? ありがとう」

「だが、当然ながら対価はいただく。貴様らは吾輩の配下ではない以上、倍の対価をもらうことになる。知ってはいると思うが、対価とは貴様らの魂のことだ」


クー・Dが急に本物の悪魔のようなことを言い出した。

まさか、クー・Dはケット・Dとは違ってDAEMONのデーモンではなく、DEMONのデーモンなのだろうか――?


「――何を驚いている? まさか、ケット・Dから何も説明を受けていないのか?」


僕がケット・Dの方を向くと、案の定、ケット・Dは「――あ。言ってなかったかも」と言った。


「なぜ貴様はいつもそう適当なのだ」

「いや、だって聞かれなかったし――」

「仕方がない。吾輩から説明するとしよう」

「頼んだ」

「貴様らのスマホの画面の右上に電池マークが出ているだろう? ステータスにも数値で表示されるが、それは貴様らの電池の残量を示している。それは同時に貴様らの魂の残量でもある。基底世界において電池とは魂のことだからだ。〈SOS〉――〈ソウル・オペレーティング・システム〉の動力は魂だ。電車の動力もな」


前回バグを倒した時に、電池がHPなのだろうと察してはいたけれど、どうやら、それは僕たちにも当てはまるらしい。

というか、〈SOS〉の正式名称は〈ソウル・オペレーティング・システム〉だったのか。


「もっとも、そこまで警戒することはない。電池が少なくなったら充電すればいいだけの話だ。派生世界に戻れば貴様らの電池は充電される」

「次に基底世界に来るときには100%になっているってこと?」

「そういうことだ」

「でも、一時的にとはいえ、魂を失うことで肉体や精神に影響は出ないの?」

「基本的には出ない。貴様はこのノードE09に来るためにサブネットEを利用したはずだ。つまり、すでにケット・Dに対価を支払っている。肉体や精神に影響はあったか?」


クー・Dに言われて、僕は自分のステータスを表示してみる。


  ――――――――――――――――

  名前          時枝彩輝

  ――――――――――――――――

  LV             2

  属性             善

  ――――――――――――――――

  分類          ユーザー

  性別             男

  年齢            17

  ――――――――――――――――

  電池           98%

  状態            正常

  ――――――――――――――――

  アプリ           2 ›

  ――――――――――――――――


いつの間にか、電池が98%に減っていた。

思い返してみると、斜木と桐崎も電池は98%だった。

上野広小路駅に来るために2人とも銀座線に乗ったからだろう。


気付いてもいなかったくらいなのだから、確かに魂を抜かれても肉体や精神に影響はなさそうだ。

でも、クー・Dは気になる言い回しをした。


「基本的には――と限定した理由は?」

「当然、例外があるからだ。まず、電池が20%以下になると、省電力モードに移行して身体能力が大幅に低下する。さらに電池が0%になると終了状態に遷移する。スマホがシャットダウンするようにな。すなわち人生の終了だ」

「電池が20%以下にならなければ、肉体や精神への影響はまったくないと考えていいの?」

「致命的なダメージを受けた場合にはその限りではない。電池が何%残っていようがすぐに終了中の状態に遷移し、あとは電池が漏れ出て0%になるのをただ待つだけになる」


なるほど。

まあ、電車に乗るだけなら、事故らない限りはそんな事態にはならないだろうけど。


「それで、運賃はいくらなの?」

「距離で決まる。ノードG15からノードG19までの移動であれば、吾輩の配下からは2%を徴収している。その倍の4%をもらおう」


それくらいなら、往復でも8%か。

今日はもうバグを相手にすることもないだろう。

問題ない気がする。


「わかった。乗せてもらうよ」

「契約成立だな――」


クー・Dは満足そうに舌なめずりをした。


「話はまとまったな。では、行くぞ」


ケット・Dが小走りで銀座線に向かう。

僕たちも後を追った。


通路の突き当たりを左に曲がって、エスカレーターを上る。

銀座線の改札を通ると、上野広小路駅のプラットフォームにはすでに電車が停車していた。


電車に乗り込んでシートに座ると、来た時と同じように急激な眠気に襲われて、僕は発車ベルの音を聞きながら眠り込んでしまう。

そして、目が覚めた時には終点の浅草に到着していた。


基底世界の地下鉄は、テレポート装置の類いなのではないだろうか。

しっかり乗車時間はかかるけれど。


僕たちはB3Fに下りて浅草線側の改札を出た。

目当てのユーザーはそちらに来ているらしい。

改札機にスマホをかざした僕は、チェックの音でクー・Dが言っていたことをふと思い出して自分のステータスを見てみた。


  ――――――――――――――――

  名前          時枝彩輝

  ――――――――――――――――

  LV             2

  属性             善

  ――――――――――――――――

  分類          ユーザー

  性別             男

  年齢            17

  ――――――――――――――――

  電池           94%

  状態            正常

  ――――――――――――――――

  アプリ           2 ›

  ――――――――――――――――


本当に4%の魂を抜かれていた。

2024/12/14:表現の修正

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