古文書とババロン
ミライ王国のミューレイは葵の知り合いだった?
転章1 世界探訪記 エルランディア③
勇者でありながら世界に戦いを挑む八神直哉です。謁見まで後4日。
朝になっても宿には戻らなかった。
飛空艇クレイモアでみんなで作戦会議をしてそのままクレイモアで休んだからだ。
ミライ王国のミューレイ元王女を交えて話あう。ミューレイはクレイモアに驚きはすれ、葵に会えたことが大きかったらしく落ち着いていた。
年齢的に言ってメジーナ博士より若いが十分な大人である。身長は僕とそう変わらないがその赤い髪や狐目が行動派である事を物語っていた。
「葵がメリカ国の勇者と行動を共にしているなんて運が良い。実際ひとりで何をどうしたら良いのか迷っていたんだ。
言い伝え通りフジに行こうとしたらカクシカクの国はシェネッツアに攻め滅ぼされたと言うし、カルディアに来ても調べる手段が無いし。
本当によかったよ、葵に会えて。で、どうやってナオヤに出会ったんだ?」
放っておくと止めどもなく葵と話をしていそうなので声を掛ける。
「あー、済まないが旧交を暖めるのは後にして貰えるかな?
これからのことを考える上でミューレイの持っていた古文書の話をしたいんだ。」
「そうそう、あんた!古文書が何で読めるんだ?」とミューレイがメジーナ博士に詰め寄る。
白衣でゆったりとコーヒーを飲んでいたメジーナ博士は答えた。
「何でって、書いてあるのは日本語だし、書いた本人も知り合いだからな。」
そう、古文書は日本語で書かれていた。だから、僕にも読めたけど知り合いが書いたなんて今知った。
説明を求めるみんなの視線を感じて
「観測所を離れて陸地を目指した中にこの古文書を書いたサイカがいたようだな。」とメジーナ博士が答える。
古文書はその旅日記のようなものだった。そして、その中にフジでトウフと出逢い、死魂の玉のことを知り、更に大陸に渡り、何人かは残り、更に進んでミライ王国の地を安住の地とした話だった。
ミライ王国に落ち着く前にその北の砂漠の中に“よもつひらさか“を見たらしい。そこにはこう書いてあった。
・・・近づくに連れ、魂が肉体を離れたがっているのを感じる。恐ろしく巨大で恐ろしく引き寄せられる圧倒的な力に抵抗してそこにと止まるのは困難だった。
三本の石柱と台座はどんな力が造り上げたのかわからないほど禍々しかった。
台座には古代文字の竜伝文字で『死魂の玉を捧げる者に不死の魔法を授ける』とあったのだ。
余りに怪しい、いかがわしい、悪魔の囁きにも似た言葉だ。
誰も彼処へ近付いては成らない。
だが、不死へ至る必要の有る者の為に道順と場所の詳細を書き残そう。
出来るならば誰もこの文章が読めないことを願って
サイカ・アンブロアー・・・
ミライ王国の王位継承者の中にはこれを読み解いた者もいただろう。だが、実行する者はいなかったのだろう。
恐らくシェネッツアはミライ王国を攻め落とした時に“死魂の玉“の事を知ったのだ。
誰がなんと伝えたのか分からないが、シェネッツアは不死に憑かれたのだ。
我が物にせんと死を撒き散らす者に変貌したのだ。
ミライ王国侵略する前のシェネッツアの評判はすこぶる良かったからこそその変わりようは惨いものだ。
それにもまして、メジーナ博士には僕からも訊きたい事がある。
「メジーナ、サイカ・アンブロアーってあのサイカの事か?どういう事なんだ?」
きょとんとしたメジーナ博士が暫くして手を叩いて言った。
「そうか、ナオヤには話してなかったか。
ババロンの各ユニットのコントロールは昔人間だった者がしていたんだ。
観測所はサイカ・アンブロアーと言う男性が指揮を執ってコントロールしていた。分離した時にサイカは乗っていた観測所ごと飛ばされ、そして、ミライ王国の祖となったんだろう。
コントロールの為コンピューターの疑似人格(AI)は同じ名前を使われて、同じように判断していたのさ。
ベースとなった人間が居なくなってもそのまま生き続けているんだよ。無論本人の了解の下に行われていた事さ。」
それでは研究所のグレアも元は人間だったのか。
「あ、グレアは私の義理の姉さ。グレア・ババロン、社会心理学者にしてコンピューター技師だった。」
話について行けない葵とミューレイはぽかんとしている。
「サイカの事が訊きたかったのかな?彼は義理堅く責任感の強い男でね。実験物理学の責任者で、彼のレポートはレジュメを見るだけでも大変だったよ。」
懐かしそうに言うメジーナ博士は少し寂しそうにも見えた。
シェネッツアがこれからどう動くのか、それが問題だった。
ミューレイの古文書無しに“よもつひらさか“に向かうのか、あくまでもミューレイに固執するのか、持っている『死魂の玉』で何かするのか判断が付き難かった。
死魂の玉を賢者に訊いたところ
*死魂の玉
霊峰フジに相対する死峡“よもつひらさか“に奉納する事で不死の魔法を得るための魔道具。
単体では使用者の魔素を消費して生物を不死者化させて使役する事が出来る。*
だったのだ。
魔法使いを酷使すればゾンビ軍団を作ることも可能だ。
シェネッツアが何に死魂の玉を使うかと考えた時、各国の主要人物が集まる世界会議が怪しい。
カクシカクの国で会いまみえた時も名乗りはしていないし、葵やドワドを気にはしていたが僕のことに注意も不信も抱いていないようだった。
案外、ドワドの弟子位にしか思っていなかったのかも知れない。
謁見時にはメリカ国の貴族が集まるので既に勇者の話は各国に噂程度には広まっている筈である。集まる貴族達は胡散臭い勇者とやらを見定め、ラサメア辺境伯爵から引き剥がし、国に縛り付け自分たちに都合の良いように使う積もりだろう。
情報戦は既に始まっていて僕のしでかした事件の詳細を調べているだろう。
ラサメア辺境伯爵が隠し、学術都市ディービアの都市長ディビアス・ジャロンが偽情報を流してくれてはいるがどうだろうか。
シェネッツアが勇者情報を手に入れていたなら必ずメリカ国にちょっかいを掛けてくる。
先ずは、シェネッツアの動向調査だ。
それによってはシェネッツアを急襲、死魂の玉の強奪だ。
シェネッツアの怪しい動きに惑わされるナオヤは謁見に間に合うのか?




