解呪
ラサメア辺境伯爵とセラの間に飛び込んだ!
承章2 混乱都市 バパルカ⑨
僕の名前はナオヤ、八神直哉。バパルカで最大の危機を迎えています。
ザン!!
ラサメア辺境伯爵と箱を持った女性の間に飛び込むと同時に『錆び付いて見える短刀』でラサメア辺境伯爵の大刀を受け、反対の手で『雷熊杖』を女性の頭に当てて雷魔法で意識を刈り取る。
闇魔法に支配され掛かっていた女性が崩れ落ちる。
女性の頭越しに白く眩く輝く光が見えた。
視線が交錯する。
僕には戸惑い、喜び、安息する瞳が見えた。
セラは揺るぎなく、力強く、惚けた瞳を見いだした。
視線が交錯する。
世界線が交わる。
宇宙が交錯し、光芒が広がる。
意識的に、強制的に、ラサメア辺境伯爵に振り向く。
ユゲトにしたように『雷熊杖』を魔糸で繋ぎ手を離す。
ギシギシ押し込んで来るラサメア辺境伯爵の剣を右手の短剣に左手を添えて、押し返す。
ぎゅるりぃん~
剣が擦れる音を立てる。
浮き上がったラサメア辺境伯爵の剣と身体の懐に摺り足で潜り込む。
懐に入られるのを嫌ってラサメア辺境伯爵は身体を捻ってバックステップしようとする。回転する力で剣を当てて来る。
摺り足で近づく勢いを殺すことなく、ラサメア辺境伯爵の身体の回りで剣を持った腕を追うように追従する。
先程僕がいた当たりをラサメア辺境伯爵の剣がなぎ払う。剣風が轟音を立てる。
ぶぅうおううぅ~
振り払った形のままラサメア辺境伯爵が動きを止める。
ささっと僕は離れた。
セラは自分と倒れたサルーンと箱から戦う2人が離れて行くように見えた。
なのに、気づくと自分たちが壁の近くにいた。訳が分からない。
それでも、目まぐるしく動き回る2人に呆気に取られながら、自分のすべき事を思い出した。
女神ガライヤとの約束を果たすのだ。夢の中で女神ガライヤは悪魔の箱を浄化するように言ったのだ。
悪魔の箱は闇の魔法が掛かっているから光の魔法でないと解呪出来ない。
解呪の詠唱は長く、複雑だがセラ以外には不可能だと言う。
セラは闇を吐き出す箱に向かい、両手を突き出し座ったまま詠唱を始めた。
『深く果てのない闇よ、暗さに絶望せし闇よ、お前が求める高き果てない世界をお前に渡す訳にはいかない。あらゆる汚れ無き無垢なる魂をお前に譲り渡す訳にはいかない。
今此処に世界を守護せし2龍の火の従神ウォルトフ、風の従神キルエレヤに乞い願う、我が光と一つになり、世界の蹂躙に臨む闇の深遠を破砕せよ。 ゴーマ・ニースム・ブライト!!』
セラの両手から眩い白い光が迸る。
光の中で箱が口を開け、デタラメに乱舞する。
乱舞が治まると静かに箱は収縮を始めた。
闇の瘴気が吸い込まれて行く。
ラサメア辺境伯爵は目に見えない僕の魔糸に絡め取られて動けなくなっていた。
魔糸は部屋全体に渡り張り巡らされていた。
ラサメア辺境伯爵にまとわり付いている瘴気は僕の魔法では貫抜けない。
ブールは父親を助けてくれと言った。
だから、倒さない。
闇魔法が導いた瘴気を破砕するのだ。
それには光魔法の助力がいる。
部屋の隅で始まった光魔法が世界から光をを集めて来る。そのおこぼれを魔糸が受け止め、ラサメア辺境伯爵に注ぐ。
ラサメア辺境伯爵が苦痛に歪む。瘴気が乱れ弾け飛ぶ。
ラサメア辺境伯爵の身体が痛みに歪む。瘴気が千切れ飛ぶ。
魔糸が捉えた光魔法の流れがラサメア辺境伯爵の身体に纏わり付き合い瘴気の流れを阻害する。
ラサメア辺境伯爵の身体の隅々まで染み込む瘴気はセラの詠唱が高らかに唱えられても全てを除く事は出来ない。
僕はラサメア辺境伯爵の様子を見詰めていた。
かれこれ30分以上続く光魔法でも闇魔法の抵抗を受けていた。
収縮はある程度から進まない。
このままでは白く輝く光点の体力が持たない。
僕はラサメア辺境伯爵から目を離さないまま光魔法の行使を続ける彼女のところまで近づく。
白く輝く光点に話掛ける。
「ねえ、君。女神ガライヤの信託を受けた聖女さんだよね。」
光魔法を続けながら訝しげな目を向ける。
最初に絡めた認知の光は無い。
「それが?」
冷たく硬い声に心が折れそうになったが
「女神ガライヤの力を借りよう。」と言うと
「は?」
と何言っているんだコイツの声に変わった。
泣きたいよう~
下唇を噛みつつ涙目で言い切った。
「僕の左手の神器を掴んで女神ガライヤと交信してみて」
躊躇する彼女の手を掴み、腕時計に触らせる。
・・・・静止した彼女は腕時計を握りなおした。
途端に光の強さが増す。彼女を中心に光が溢れ部屋を満たす。
やがて光が消え去ると闇魔法の箱は無かった。
ラサメア辺境伯爵の瘴気も全て消えていた。
彼の狙いとは




