18.護りたいという欲求(SIDE ニコレスィード)
新キャラ、ニコルの心情です。
「じゃあニコレスィード、お前が彼女を案内しろ。」
ゴツい、まるでゴリラのようなデカい体躯の担任教師にそう言われた時、俺は
『面倒くせぇな。』
としか思わなかった。ただ、つい彼女の前でも呟いてしまったのは、俺の最悪の失態だったとは思う。
俺の家は商いをやっていて、両親は金持ちだ。だが、その後ろ盾となりうる家柄はない。つまり貴族ではない。この学校に通えるのは、全て両親が学校に出す寄付金の額が大きい為なのだ。
俺には二人の兄がいる。
長兄は、商売よりも医療に興味があり、医者を目指して勉強中だ。しかも、その知識を受け入れるだけの頭脳と情熱がある。更に、医者というのは、世間でも認められ敬われる存在だ。初めは家を継がせようとしていた両親も、長兄が医者になるのを認めることにしたのは、そんな裏事情からだ。
次兄は真ん中の子供だけあって要領が途轍もなく良い。計算高く口も上手い。しかも堅物そうな長兄と違い、見た目も柔和に整っている。正に商人の申し子と言って良い。次兄が微笑んで、耳元で囁きながら商品を差し出せば、貴婦人達の多くは目をハートにして財布を出すだろう。次兄も家を継ぐことを望んでいるようだし、両親も安心しているようだ。
残された俺には………何も無い。高貴な職業に就く為の頭脳も、家の事業を更に発展させるだけの商才も、何かを為そうとする情熱も、何も無い。三男故に、親の期待も無い。好きにしろという感じだ。
更に学校に於いても、後ろ盾も無く、何の才能も無い俺は、見下されることが多く、俺は俺の存在意義がどこにあるのか、本当に生きる意味があるのか、考えあぐねている。だから自然に他者との距離を取り、お坊ちゃんお嬢ちゃんの通うこの学校唯一の一匹狼の不良という人間になった。
問題の少女は、そんな俺の耳にも入る程、大変な話題になっていた。色男の兄貴がいる、将来有望な兄貴がいる、そんな兄貴に溺愛される家柄の良い子。そんなに兄貴兄貴兄貴って言われている割に、その女の子本人がどういう子なのか、全く耳に入ってこない。兄貴が色男だという以上、彼女も見れない外見ということはあり得ない。家柄も良い訳だし、完璧な兄貴に庇護されて、我が強く高飛車な女なのかもしれないと思う。その反面、俺のように兄貴に対してコンプレックスを持っているんじゃないか……って思ってもいて……。
だが、噂のせいでそんな考えに及んだだけで、本当の意味ではあまり興味は無かった。接点も無いし、もし関わったとしてもまた見下され馬鹿にされるのがオチだという諦めも強かった。
そんな俺を、担任は彼女の案内人に指名した。それは、彼女の兄貴をオトし、玉の輿を狙う女共も、彼女の兄貴に嫉妬し、その矛先を彼女に定めようとする男共も、同時に牽制できる生徒が俺しかいなかったからだ。
というのも、俺は喧嘩だけは強いのだ。お坊ちゃん達は護身やら何やらの為に体術や剣術の指導を受けている者も多い。が、型というものがあるそれらは、よく知り、自分の身体を好きなように動かせる人間にとっては、攻撃や防御の先が読みやすく、反撃も容易い。実戦経験の少ない生徒達が相手ならば尚更だ。しかも世界が違うと割り切っている俺は、彼女の兄貴に対する興味も敵意も持ちようがない。担任にとっては都合の良い駒だっただろうし、俺は腕力で勝てない学校内唯一の相手である担任に抵抗する術も無く、反発するのも面倒で、彼女と組むことを嫌々ながらも承諾した。
そうして出逢ったシリルという女の子は、俺の予想を見事に裏切っていた。見た目は、何故ここまで噂にならなかったのか不思議な程の美少女だった。兄貴の評判が凄すぎて、彼女本人の噂がかき消されてしまったのだろうか。一目見たら瞼に焼き付いて忘れられなくなりそうな美少女なのに、おとなしく控えめで、傲慢なところなど全く見受けられない。それに、純粋さ故か、デキる兄貴に対して兄妹愛は持っていても、コンプレックスのような負の感情は殆ど無さそうだ。しかも少し話した時に見せた微笑みは、輝くというよりは小さな花が綻ぶように可憐で、俺は身体も心もむず痒くなるような奇妙な感覚に襲われ続けた。
この小さくて可愛くて不思議な存在をいつも俺の隣に置いて、この手で護りたい。唐突に沸き起こったこの思いは、身の程知らずな願望かもしれないとも思う。だが、それが俺の存在意義に繋がっていくんじゃないか、と感じたことも否定したくはなかった。




